2018年1月17日水曜日

梅原猛の『歎異抄』入門 (1993)

私は専修念仏の一門の徒ですが、正直浄土真宗の教えを全く知りません。
お経を見たことはありますが、漢字の羅列に何の意味も見出しておりませんでした。

『歎異抄』というのは、真宗の経典ではなく、親鸞の弟子の唯円が、自分の師の言ったことを書き残し、本来の宗旨から「異なったことを言う人がでてきていること」を「嘆く」書だそうです。全部で18条の短い文書なので「抄」というのでしょう。

長いこと本願寺の秘書として表に出されてこず、明治以降に衆人の知るところとなったもののようです。

ただ、これを読んでもさっぱり宗旨は理解できません。
要は、
  • 仏を念ずれば、阿弥陀さまが極楽浄土へ連れて行ってくれる
  • 浄土へ行くのは自力ではなく、阿弥陀さまの不思議な願いによるもの
  • 善悪は業縁の違いによるほんの少しの違い、阿弥陀さまは善悪関係なく救ってくれる
といったことのようですが、この悟りはすっとは入って来ません。
煩悩がある人ほど仏が救ってくれる、悪人ほど救ってくれる、というのは平安から鎌倉への移行期の戦乱の世の中であればこそ説得力があったのでしょうか。確かに善と悪を判断できるというのは傲慢かもしれません。

阿弥陀仏への強い信頼は、神との心のつながりが中心とするキリスト教と近いものがあるように思います。

大学時代に「歎異抄研究会」なるものに熱心に誘われたことがあるのを思い出しました。

2018年1月8日月曜日

千の顔を持つ英雄 / ジョゼフ・キャンベル (1984)

この長大な神話からの引用によって著者が言いたいのは2つ。
  1. 英雄の神話は「日常世界から危険を冒して人為の遠く及ばぬ超自然的な領域に出掛ける。出掛けた領域で超人的な力に遭遇し決定的な勝利を収める。そして英雄はかれに従う者たちに恩恵を授ける力をえて、この不思議な冒険から帰還する。」という形式によって成り立っている。
  2. 英雄はあらゆるところに偏在し千の顔を持っている。すなわち、それは現代の我々においても内在している。
と理解しました。

引用されている神話がすべて1つ目のような形式を取っているとは思えませんが、典型的な物語の形式としてはそうかなと思います。
我々は人生の旅において、何らかの印象的な事象に立ち向かい、それを克服することによって成長し、新しい未来やリーダーシップを得る、そういうことかもしれません。

ちなみに、ギリシャやローマ、イギリスの神話より、釈迦などの東洋の物語により共感を感じました。

2017年11月20日月曜日

虹色のチョーク / 小松成美 (2017)

川崎市にあるチョーク製造会社、日本理化学工業の物語です。
社員の4分の3が障害者という会社です。
ここで語られているのは、働くことの喜び。「働く」ということが素朴に喜びになることを再発見したことの驚き。そういうことです。

ここでは、障害者の家族の物語、障害者の会社を継いだ社長の物語、障害者本人の物語、障害者を雇うことを決めた会長の物語が語られます。

会長は、働くことが障害者の生きがいになることを発見して、障害者のための会社になることを決意します。障害者ができる仕事を社業にしようと業務開拓をし、障害者が仕事をしやすいような仕組みやルール、障害者ではない社員との融和などの施策を行っていきます。それは、「慈悲の心」からのものなのか。そのせいで業績が苦しくなたったこともあるようです。

その会社を継いだ現社長は、はじめビジネス優先の考え方でしたが、会社で働く中で、働くことの意味を障害者の社員の働きから教えられ、考えを入れ替えます。こちらの気づきの方が重要で、これを気づいた瞬間こそが核心だと思うのですが、その部分が淡白なのがこの本でイマイチ残念なところです。つまり、障害者はその存在自体が意味のあることなのです。

それにしても働くことの喜びを働く人が感じ、それが会社の業績に結びつくという、すばらしい循環です。

2017年9月20日水曜日

人工知能は人間を超えるか / 松尾豊 (2015)


人工知能は人間を超えるか ~ディープラーニングの先にあるもの~

人工知能は人間を超えるのか、その日は、いつやってくるのか?


東大の松尾准教授が、人工知能を解説してくれます。
第1次ブーム、第2次ブームを経て、現在第3次ブーム。
これまでの人工知能の発展をそのブームの山とともに分かりやすく伝えてくれます。
たぶんかなり難しいことを、いたって簡単に、いろんな例えを用いて、それこそ素人にわかるように書かれてあり、すべてを理解したとは言えませんが、人工知能ってこんな感じか、というのが分かりました。

人工知能についての方法論のほとんどは黎明期に出されたものだったのですが、ディープラーニングが、ブレークスルーをもたらしそうだということのようです。
それまでの人工知能は、第2次ブームのエキスパートシステムのように、大量のデータと正解がこれというのを教え込む必要があったのを、自分で正解はこれ、というのを導き出せるようになる感じですかね。

ちゃんとは理解できませんでしたが、入力画像に対して同じ画像を正解として入力し、さらにノイズを入れるのがディープラーニングだそうです。データの圧縮も絡んでいるらしいです。
人工知能の世界では、将棋で勝つことより、猫を認識する方が何倍もすごいことのようです。将棋は黎明期から研究が続けられている「探索」の世界で、簡単に言えば選択の分岐を大量に考える、ということの延長だそうです。猫を画像として認識するのは、ビッグデータによる機械学習の結果とディープラーニングがないと成功しないのかな。入力されたデータを「概念化」して、これって猫のパターンだな、というくらいまで複数認識し、ちょっと違うデータも混ぜることによって、より抽象度を高める。手書きの「3」を大量に読み込み、これが「3」という概念を認識し、最後にこれが「3」だ、と名前を付けてやる。
こういった「概念化」って人間のやってることだなあ、となんとなく思いました。

タイトルは売れるように調整しているのでしょう。内容的には人工知能の解説です。
「人工知能は人間を超えるか?」という問いに対する著者の答えは、「超える」ですが、おそらくそこまで到達するのはまだまだ先だ、と著者は考えています。
ターミネーターのような世界が来るとは思えない。人工知能を前に進めてきた著者ならではの実感でしょう。

2017年9月10日日曜日

ダントツ経営 / 坂根正弘 (2011)

―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」―


ザ・製造業の社長といえるのではないでしょうか。
世界の流れを見通し、アメリカ駐在の経験を生かしてアメリカの強みと弱み、日本の強みと弱みを理解し、製品開発においては何を犠牲にするかを強要する。思い切ってリストラし、現地の経営を現地の人に任せる。
ここには、製造業の進むべき道が示されています。

コムトラックスに少し興味があって読んでみたのですが、思いのほかいい本でした。

それにしても、おっさんの顔を大写しにしたカバーはちょっといただけないですね。電車では読めません。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110411/266554/

2017年8月11日金曜日

ORIGINALS / アダム・グラント (2016)


誰もが「人と違うこと」ができる時代


サブタイトルの「誰もが「人と違うこと」ができる時代」というのは少しずれているような気がしますが、オリジナリティというのは特別な人のものではなく、普通の人に備わっているもの、というのが著者の言いたいことです。
そういう意味もあって、この本の中では突飛なことは言われておらず、どれも聞くと「当たり前」に思えるものばかりです。

ただし、オリジナルな人になるには少し飛躍やコツが必要です。

例えば、クリエイティブなアイデアは、多作から生まれる、といったこと。多作であるがゆえに優れたものを出す確率が上がります。モーツアルトしかりダビンチしかり。優れたアイデアを出せ、ということではなく、多くアイデアを出せ、ということは何か自分でもできそうな気もしますが、やってみようとすると意外と難しいような気もします。

あるいは、同調性の回避。どうしても今ある常識、価値観、満足感にとらわれ、新しいことを発送するのが難しくなります。また、人間関係を円滑に進めるために、人に同調することも必要でしょう。僕なんかは同調圧力に負けやすいというか、同調志向が高い方の人間なので、健全な議論、といったものが得意ではありません。

あと、ちょっとの勇気。

オリジナルな人生を歩もうよ、という応援の書のように思えました。

なお、本書では、ものすごい量の知識と多くのケースが描かれてありますので、 一部を備忘として書いておきます。
  1. 変化を生み出す「創造的破壊」
    • 眼鏡のオンラインビジネスを始めたワービー・パーカーの4人の創業者
  2. 大胆に発想し、緻密に進める
    • セグウェイの失敗
    • TV番組「となりのサインフェルド」の成功
  3. “無関心”を“情熱”へ変える法
    • CIA分析官による情報共有プラットフォーム構築
    • バブル社のディズニーへの売り込み
  4. 賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ
    • キング牧師の締め切りとの闘い
  5. 「誰と組むか」が勝敗を決める
    • ルーシー・ストーンとアンソニー、スタントンとの確執
  6. 「はみ出す人」こそ時代をつくる
    • ジャッキー・ロビンソンは長男ではない
  7. ダメになる組織、飛躍する組織
    • ポラロイドの凋落
    • ブリッジウォーター社の社風
  8. どんな「荒波」も、しなやかに乗りこなせ
    • ルイス・ピュー 北極海での遠泳
    • ミロシェビッチを退陣させた草の根運動

2017年6月5日月曜日

イノベーションのジレンマ / クレイトン・M・クリステンセン (1997)

もう20年前の本なんですね。
確かに事例は古いので、そうかなとは思いますが、言っている主旨は全く古さを感じさせません。

既存の成功した企業が、技術的に劣り、既存の顧客の要求に応えられない、かつ小さな市場しかない破壊的技術の前に、つねに敗れ去るのはなぜなのか。
それは、成功した企業が成功した行動原理によると看破しています。
  • 顧客の声に耳を傾ける。
  • 求められたものを供給する技術に積極的に投資する。
  • 利益率の向上をめざす。
  • 小さな市場より大きな市場を目標とする。
既存の顧客と市場、あるいは築き上げたバリューチェーンが、そして賢明な中堅社員が、破壊的製品の市場への進出を妨げます。

しかし、これは破壊的技術が出てきたときの既存企業の反応であって、汎用的なものではありません。むしろ、この本でいう「持続的技術」の方が多いのかもしれません。
ビジネスの流れが早く、ベンチャーが活躍する今だからこそ活きると思います。

かなり知的な刺激を与えてくれる本でした。