2026年8月23日日曜日

アメリカの新右翼─トランプを生み出した思想家たち─ / 井上弘貴 (2025)

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トランプの再選は正直驚きました。
遠く離れた日本から見てると、あるいは日本での報道や記事を見ると、トランプはかなり「トンデモ」政治家に見えます。
でも1度ならずも2度までも選ばれています。
しかもなぜそんなに「トンデモ」発言を繰り返すのかも全く理解できませんでした。
アメリカ内部に住めばその辺の空気感も含めて少しは理解できるかもしれませんが、そこまでする理由もないので、新書本を読んでみました。

アメリカでは「ニューライト」というらしいです。
「ニューライト」は今まで何回かの隆盛があって、現在は3回目だそうです。
今までは「ニュー」が付くだけあって、ライトの傍流だったのに比べて、今回は主流の座を担おうとしているのが今までと違うところでしょうか。

特徴としては、

  • 古典的自由主義に懐疑の目を向けている
  • よりナショナリズムを重視している
  • よりキリスト教的価値を重んじている
  • よりテクノロジーと進歩を受け入れている
  • より極右との親和性を強めている

とのことです。

分かりやすいのは、リベラル色を強める社会への反発ということでしょうか。本書の中で取り上げられている例を上げると、公共図書館がドラグクイーンによる子供への読み聞かせ会をする団体に、場所提供の許可を出したことに対する反発が代表例です。
多様性といった考え方の下にそれを子供にまで教育しようというのはやり過ぎだろう、アメリカ社会がそういう風に、行き過ぎたリベラルが正義かつ多数になっていくことに我慢がならない、しかも公共の場がそれに加担するなどあり得ない、という主張です。
つまり、よりキリスト教的懐古的思想の下、公権力を使ってそういった思想を推し進めるべき、ということです。

キリスト教的と言いましたが、ニューライトは福音派あるいはカトリックが多いようです。福音派の教義はあまりよく分かりませんでしたが、以前は原理主義と呼ばれていたようです。聖書に書かれていることが全て的な。イスラム原理主義みたいなもんですかね。アメリカのキリスト教人口のうち1/4は福音派だというから驚きです。
そういった宗教的価値観をベースにしているので、我々には正確には理解が及ばないところがあります。

戦後日本のリベラルな考え方、あるいはアメリカのフラワームーブメントや公民権運動のような個人の自由を重んじる風潮は、当然のことと肌身で感じてきましたが、それは前提ではない、ということが目から鱗でした。

「多様性」という社会正義の下に、ゲイ文化や中絶が当然といった開かれた性の考え方が広まり、「グローバリズム」の下で多量の移民が発生し、元の文化が破壊されていくことへの反発があるんですね。共感はしませんが理解はしました。

一方でニューライトといっても、一枚岩ではなさそうです。
オルトライト、ナトコン(ナショナルコンサバティブ)、テック右派、ポストリベラル右派等、右派ではあるものの、主義主張が少しずつずれている人たちをひっくるめてニューライトと言っているからです。
これらが混在しているのが第2期トランプ政権です。ポストリベラルのヴァンスやテック右派のマスク(今はいない)がそれぞれの主張をし、打ち出す施策が揺れています。

本書では、様々な論客の主張を紹介することにより、現代のニューライトの全体像を浮かび上がらせようとしています。

  • パトリック・デニーン(ポストリベラル右派)
  • タッカー・カールソン(ポストリベラル右派)
  • ソーラブ・アーマリ(ポストリベラル右派)
  • ピーター・ティール(テック右派)
  • ルノー・カミュ(「大いなる置き換え」、フランス)
  • ロッド・ドレア(ポストリベラル右派)
  • マーク・アンドリーセン(テック右派)
  • イーロン・マスク(テック右派)
  • ケヴィン・ロバーツ(ヘリテージ財団)....

ヨーロッパでは、アフリカからの移民が増加し、ヨーロッパの古くからの文化、伝統が蔑ろにされていく(と捉えている人が多数出てきたという)状況から、極右思想が蔓延っていきました。ハンガリーではオルバンがキリスト教的、強権的政権運営し、アメリカのニューライトの理想郷とされます。
ただ、アメリカとヨーロッパの国は成り立ちが違いますよね。ヨーロッパでは原住民が形作ってきた文化の上に近代に国が成立していきましたが、アメリカは原住民を排斥して、移民が自由思想を原理として作った国です。そういう意味ではソ連と同じなのかも。侵略者が持ち込んだ文化を守ろうとするのは、何だかおこがましく感じます。1776年を建国年とすることも含めて。

https://www.shinchosha.co.jp/book/603932/

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2026年4月4日土曜日

『種の起源』を読んだふりができる本 / 更科功 (2025)

まぁ『種の起源』は読まないですよね。
でも、興味はある、そんな人がほとんどじゃないでしょうか。

『種の起源』は、ダーウィンが1859年に出した画期的な書物ですが、その後も何度も改訂版が出されています。
当時は、生物の種は神が創造したという「個別創造説」が主流で、自然淘汰による進化論はかなり異端だった様です。
その背景があり、『種の起源』では、「個別創造説」に対する反論や、自然淘汰説の優位性の主張がほとんどを占めいているように思えました。

個別創造論者からも、当然反論があった様です。

  1. 移行段階の種がなぜ至る所で見つからないのか?
  2. 自然淘汰で目のような複雑な構造を作り上げれることが信じられるか?
  3. 本能が自然淘汰によって獲得されたり変化したりすることが可能だろうか?
  4. 種の間の交雑は不妊となるのに、変種では不妊とならないのは説明できるか?

といったもので、この反論に対する反論に『種の起源』は大半を費やしています。
ちなみに、ダーウィンの説明は私が理解した限り次の様なものです。かなり簡略化してますし、正しく理解しているかどうかは甚だ疑問です。

  1. 1つ目。種の変異により、優位な変異型が出ると旧種は駆逐され、移行期の種は稀となる。
  2. 2つ目。中途半端な機能の変異があったとしても、それが有用であるなら進化に繋がる。
  3. 3つ目。本能も方向性のない変異がある。
  4. 4つ目。種と種の間は連続しており、不妊かどうかは種の区別とはならない。

これらを、ダーウィンは自ら集めた膨大な実例を元に説明しています。そういう実証的な姿勢が研究者として偉大なところなんでしょうね。
ダーウィンの説を認めていない人も、ダーウィンには友情をいだいていた様です。研究者としての姿勢が尊敬されてたんでしょう。

ダーウィンの主張する進化の仕組みは、自然淘汰、用不用、生活条件の直接作用、習性の4つですが、このうち自然淘汰を除く3つは一部の例外を除いて誤りとされているそうです。こういう知識がないと、確かに『種の起源』を読んでも誤った考えを読み込んでしまうことになってしまいます。

この本を読んで驚いたのは『種の起源』が書かれた時代(ダーウィンの時代)は、遺伝の法則が知られる前だったということです。メンデルの遺伝の法則が「再発見」されたのは1900年代になってからだそうで、ダーウィンはこの法則を知らない前提で自然淘汰論を展開したことになります。

ダーウィンといえば、ガラパゴス、ダーウィン・フィンチ、ビーグル号が有名ですが、『種の起源』でがほとんど触れられていません。色々触れられている実例のほんの一例なんですね。これもこの本を読んだ発見でした。

https://www.diamond.co.jp/book/9784478112380.html

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2025年12月7日日曜日

AKIRA / 大友克洋 (1984-1993)

改めて1〜6刊を買い直して一気読みしました。
改めて読んでみて気づいたことがあります。それは、僕は当時3刊までしか読んでなかったこと。
どうも途中で読むのをやめてたみたいなんですね。
4刊が出たのが1987年、5刊が1990年で、その間に僕にも大友克洋にも大きな変化がありました。
僕は大学を卒業して社会人になり、大友克洋は AKIRA の映画化に取り組みます。
映画化に伴い、漫画の進捗が遅れたようです。
僕は社会人になるに伴い、使える時間が少なくなってしまって、「AKIRA」の優先順位が下がってたのかもしれません。元々週刊漫画を読む習慣がなかったので、余計ですね。

で、改めて読んでみて再確認したこともあります。
絵の情報量が多い、ということです。
コマ割り、セリフ、コマの背景に至るまで細かく、手抜きがない。
というか、手抜きしてるのかもしれませんが、絵が上手なのでひたすら見入ってしまいます。
全部きっちり見てたらストーリーに追いつきません。

大友克洋全集版の方でも言及しましたが、大友克洋の作品の中でも群を抜いて面白い作品です。
若者に焦点を当ててるのと、スタイリッシュという点が他との違いでしょうか。
スピード感があって、暴力的でもあり、ジャンクでもあります。
サイバーパンクの先駆けとなったのは必然、大友克洋のどこにそんな力があったのか。
映画、音楽などのカルチャーからの影響が大きいのかも。

ストーリー的には鉄雄の膨張あたりから迷走気味になりますが、何とか最後にはエンディングを迎えることができました。
イマイチ訳が分からない部分もありますが、元々ストーリーを綿密に組み上げていないものなので、よくここまで持って行ったなと思います。

最後は少年たちの世界に戻るところがホッとします。最初に戻る的に。
週刊誌への連載版ではその部分がなく、単行本化に伴って追加したようですが、そのセンスも抜群。

先輩が「AKIRA」が好きすぎて、自分の子供の名前を「アキラ」にしたのを思い出しました。

https://www.kodansha.co.jp/titles/1000000003

2025年10月7日火曜日

塞王の楯 / 今村翔吾 (2021)

2022年の166回直木賞受賞作。
「エンターテインメント戦国小説」という触れ込みですが、まさにそんな感じ。

関ヶ原前夜の大津城の戦いを舞台に、石積みの穴太(あのう)衆と鉄砲製作の国友衆の戦いを描いています。
穴太衆が盾、国友衆が矛というわけですね。
最後は壮絶な大砲と石垣の戦いで、ハラハラドキドキの展開です。
もちろん大砲対石垣の戦いがあったわけではなく、ほぼフィクションのはずです。

前半は穴太衆の石垣作りと主人公匡介の生い立ちなどが丹念に描かれていて、後半で怒涛の戦に流れ込みます。

舞台となった大津城の戦いは実際にあった戦で、慶長5年9月7日から15日まで行われました。
重要なのは、9月15日という日付。関ヶ原の合戦が9月15日なので、大津城に留め置かれた西軍は関ヶ原に参戦できなかったことになります。
その留め置かれた西軍には、西国無双と言われた立花宗茂や毛利元康がおり、西軍にとってはかなり痛手だったようです。

実際の戦いでも立花軍は大砲(大筒)を使い、小説にあったように近くの山から城に撃ち込んだ記録がありますので、これに着想を得たのでしょうか。近くの山から天守に命中させるのは至難の技だったと想像できますが、高度な鉄砲製作技術の進歩があったんでしょうね。
小説では、対する城方の穴太衆の奮闘が息を呑む展開になりますが、鉄砲の技術、石積みの技術・技能という点では、SF的要素も感じました(サイエンスという意味で)。

大津城主は京極高次。テニスの知り合いの京極さんに話を振ったら、やはり京極高次のことは知ってて、西軍から東軍に寝返った裏切り者的に言ってました。


https://lp.shueisha.co.jp/tatexhoko/

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2024年8月31日土曜日

OTOMO THE COMPLETE WORKS 12 / AKIRA 1 / 大友克洋 (1982-83)

Complete Works シリーズの第12巻。

第一期が遅れて、代わりに第二期の最初の配本が始まることになったらしい。逆にありがたい。

AKIRA」はヤンマガに連載されてましたが、単行本化するにあたり、少し手を入れている模様。加筆、修正、削除、差し替え、ページやコマの入れ替え、仕上げの追加、描き下ろし、各話の扉絵の削除等々。それらをできるだけ連載当時のものに戻したのが今回の Complete Works の模様。どっちもいいけど、すでに単行本が出回っているので、価値をつけようとすると、そういうことになるのね。

いずれにせよ、改めて読むとそれまでの作品に比べてダントツに面白い。
ストーリー的には、主人公たちが若者であること、近未来を描いていること、超能力を主題にしていることなどが面白さを際立たせている理由でしょう。
主人公たちは15歳という、極めて若い年代。怖いもの無しで極端、どの時代でも通じる若者像です。
それにファッショナブルでもあります。それまでの大友克洋作品にはないパターンの。暴走族という、一見オールドファッションな世界でありながら、身なりはこぎれいなんですよね。顔立ちも端正だし。

絵の爆破シーンとか建物が壊れるシーンは、「童夢」以降お手のもの。それに速さの描写や表現が素晴らしく、ストーリー展開と相まって、全体的にスピード感のある作品になっていると思います。そこも魅力ですね。

映画からの影響も強く感じられます。何という技法かは知りませんが、次のシーンに前のセリフが被さるのは多用されてますし、光源の加減で影が大写しになるような表現もあります。面白いですね。

時代は2019年。すでに過ぎてますが、2020のオリンピックを控えた東京が舞台で、東京オリンピックを予言しているところにまず驚きました。実際はコロナで2021年になりましたが。
さすがに1982年じゃ携帯電話までは予想できてなかったようで、通信手段は電話的なものか口頭です。物語に登場するようなかっこいい形のバイクは開発されていません。

ちなみに、主人公の「金田」というのは、大友克洋が敬愛する「鉄人28号」からきているとのこと。アキラの番号も28号。ちなみにのちなみにでいうと、鉄人28号の「金田」はプロ野球のピッチャー金田正一からきているらしい。確かに鉄人やからね。

残念なのは、巻末に他の Complete Works シリーズのような「解説」がついていないこと。「AKIRA」全巻の最後にあることを期待します。


  1. 第1回 ヤングマガジン1982年12月20日号
  2. 第2回 ヤングマガジン1983年1月3日号
  3. 第3回 ヤングマガジン1983年1月17日号
  4. 第4回 ヤングマガジン1983年2月7日号
  5. 第5回 ヤングマガジン1983年2月21日号
  6. 第6回 ヤングマガジン1983年3月7日号
  7. 第7回 ヤングマガジン1983年3月21日号
  8. 第8回 ヤングマガジン1983年4月4日号
  9. 第9回 ヤングマガジン1983年4月18日号
  10. 第10回 ヤングマガジン1983年5月2日号
  11. 第11回 ヤングマガジン1983年5月16日号
  12. 第12回 ヤングマガジン1983年6月6日号
  13. 第13回 ヤングマガジン1983年6月20日号
  14. 第14回 ヤングマガジン1983年7月4日号


https://otomo-complete.com/list/details/9784065367858.html

2024年3月20日水曜日

OTOMO THE COMPLETE WORKS 2 / BOOGIE WOOGIE WALTZ / 大友克洋 (1974-76)

Complete Works シリーズの第2巻、大友克洋20歳〜22歳の作品です。
全て「漫画アクション」に掲出されたものです。

この頃はまだ漫画が上手くないですね。
大友克洋でもこういう模索時代があったことに驚きました。
背景が比較的雑で、カット割や絵がストーリーとして分かりづらい。
その代わり、実験的なコマの使い方や絵の表現が多いのも特徴です。
この巻の途中くらいからグッとよくなってきます。ものすごい成長だなと思います。
そういう意味では、最初の「BOOGIE WOOGIE WALTZ」と最後の「鏡地獄」では、随分印象が変わってますね。

ストーリー的には、ミステリーものが多いのと、都市の最下層を生きることの「どうしょうもなさ」を描いているものが多いですね。この傾向はしばらく続きますが。
若者らしく青春の葛藤を描いたものもありますが、全体的には大人の視点が中心で、20歳そこそこの人が描くような題材じゃないです。

巻末の解説で本人も言っていますが、当時「イラスト」に強く影響を受けていたとのこと。
ピーター・マックス、伊坂芳太良、宇野亜喜良の名前が上がっています。

また、同時にジャズの趣味も絵の中にのぞきます。
Miles Davis、Wayne Shorter、Charles Mingus らのアップが突然背景に描かれています。
本人曰く、この時期 "On the Corner" に衝撃を受け、Weather Report にハマっていたそう。
"Mysterious Traveller" が出たのが1974年ですから、リアルタイムですね。
ちなみに "BOOGIE WOOGIE WALTZ" は Weather Report  の3枚目のアルバム"Sweetnighter" に入っている Joe Zawinul の曲で、バンドのファンキー路線への転換点となる重要曲です。

  1. BOOGIE WOOGIE WALTZ [週刊漫画アクション 1974年4月25日号]
  2. BOOGIE WOOGIE WALTZ [週刊漫画アクション 1974年5月23日号]
  3. ONE DOWN [週刊漫画アクション 1974年7月4日号]
  4. 目覚めよと呼ぶ声あり CHORAL PRELUDE WACHET AUF -「コーラル」より前奏曲 [週刊漫画アクション 1974年8月15日号]
  5. 心中 -’74- [週刊漫画アクション 1974年10月3日号]
  6. 傷だらけの天使 第一話「暗夜行路」 [週刊漫画アクション 1974年10月31日号]
  7. 傷だらけの天使 第二話「パック 糞面白くもなかった今日の終わりに」 [週刊漫画アクション 1974年12月5日号]
  8. 傷だらけの天使 第三話「短距離走者の連帯」 [週刊漫画アクション 1975年2月6日号]
  9. 傷だらけの天使 第四話「醜悪の軋み」 [週刊漫画アクション 1975年3月6日号]
  10. 傷だらけの天使 第五話「チュンパラブギウギチュンパラブギ」 [週刊漫画アクション 1975年6月5日号]
  11. 傷だらけの天使 第六話「スカッとスッキリ」 [週刊漫画アクション 1975年8月7日号]
  12. 辻斬り [漫画アクション増刊 1975年8月23日号]
  13. 傷だらけの天使 第七話「ROCK」 [週刊漫画アクション 1975年11月27日号]
  14. [漫画アクション増刊 1976年1月3日号]
  15. 鏡地獄 [別冊漫画アクション 1976年3月12日号 原作:江戸川乱歩]

https://otomo-complete.com/list/details/9784065273203.html

2023年11月12日日曜日

アレサ・フランクリン リスペクト / デイヴィッド・リッツ (2014)

Respect: The Life of Aretha Franklin by David Ritz

"Hey, Nineteen, That's 'Retha Franklin
She don't remember the Queen of soul
It's hard times befallen, the sole survivors"

1980年に出た、Steely Dan の名曲 "Hey Nineteen" の一節に Aretha Franklin は激怒したといいます。
自分がまるで過去の人になったような歌詞、今でも自分はソウルの女王なんだという自意識。
この本を象徴するようなエピソードだと思います。

自分の殻に閉じこもり都合の悪いことはなかったものにする、コンサートを何度もキャンセルし、親しい人といざこざ。同じカテゴリーの人に対して強烈に妬み、敵愾心を抱き、ポップ領域で売れることに異常に執着する。注目を得るために嘘の噂を流し、男性とも長続きしない。

ソウルの女王の裏側の赤裸々な自の姿が描かれています。
かといって暴露本とも違うのは、著者が Aretha の音楽に、本のタイトルにあるような「リスペクト」を持っていることでしょう。
「リスペクト」に値する桁外れの才能を持った人の、生の姿を描きたい、という欲求がこの本の原点だと思います。

”「アレサについて他人が何を言おうが、僕にはどうでもいい」とビリー・プレストンは言った。「彼女はデトロイトの自宅に何年も隠れているかもしれない。飛行機に乗らずに。あるいはヨーロッパに一度も飛ばずに、何年も過ごすかもしれない。ギグを半分はキャンセルして、国中のプロデューサーやプロモーターを一人残らず激怒させるかもしれない。彼女にまるで相応しくない、ありとあらゆるくだらない曲を歌うかもしれない。女王モードに入って、その振る舞いで世間をうんざりさせるかもしれない。でも、いついかなる晩でも、かの淑女がピアノの前に腰を下ろし、ふさわしい曲に全身全霊を注ぎ込んだ時、君は間違いなく縮み上がらせられる。君は思い知らされ、そして断言する。彼女は今も、このとてつもなくイカれた国が生み出した、とてつもなくイカした最高のシンガーなんだ、と」”

本人へのインタビューでは本当の彼女は分からない、と理解し、兄弟姉妹やマネージャ、プロデューサー、ミュージシャンなど多数の人にインタビューし、記事を丹念に読み、本人を描き出しました。素晴らしい仕事です。

Aretha Franklin が亡くなったのは2018年ですから、この本は生前に出されたものです。この本に対して彼女は訴訟を起こす、と言っていたそうです。


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