2020年5月6日水曜日

偉大な組織の最小抵抗経路 / ロバート・フリッツ (1999, 2011)

リーダーのための組織デザイン法則 / 田村洋一訳

The Path of Least Resistance for Managers by Robert Fritz

Designing Organizations to Succeed


組織の成果はその構造に従う、という分かったような分からないような主張が気になり読んでみました。

構造思考、最小抵抗経路、緊張構造、葛藤構造といった少し分かりづらい単語がポンポンとび出しますが、作者の主張は意外と単純だと受け取りました。

緊張構造というのは、きちっと目標が立てられていて、現実を正しく認識できていていると、最小の抵抗で目標の方へ進む。
一方で、目標がブレると組織内で葛藤が起こり、揺り戻しが来る。葛藤を起こさないためには、目標の優先順位をつけることが必要。
組織の中では、目標=ビジョンと現実を共有しすることが最大のパワーの源になる。

いたって当たり前のことですが、本書の中では、これらを法則化したり、フレーム化、チャート化してくれているのが嬉しいところです。

組織構造の法則

  1. 組織は、揺り戻すか、あるいは前進する。
  2. 揺り戻す組織では、成功が相殺される。前進する組織では、成功が持続する。
  3. 組織構造が変わらなければ、組織行動は元に戻る。
  4. 組織構造が変われば、組織行動は変わる。
  5. 緊張構造が組織を支配しているとき、組織は前進する。
  6. 葛藤構造が組織を支配するとき、揺り戻しが起こる。
  7. 組織構造が不適切な場合、直すことはできない。その代わり、不適切な構造から適切な構造に移行できる。
  8. 上位の組織化原則が不在だと、組織は揺り戻す。上位の組織化原則が支配すれば、組織は前進する。
  9. 組織の支配的な価値は、競合する他の小さな価値を追い払う。

ビジネス戦略構築法

  1. 何が売り物か
  2. 顧客は誰か
  3. 顧客は何を求めているか
  4. 我々は何を求めているか
  5. 顧客の求めているものと我々の求めているものは合致しているか
  6. 顧客はどうやって我々を知るのか
  7. 顧客はどうやって我々の売り物を手に入れるのか
  8. 現在の市場は何か
  9. 将来の市場は何か
  10. 我々の売り物はどう変わるのか
  11. 我々はどこに向かっているのか

2019年10月27日日曜日

しあわせの理由 / グレッグ・イーガン (2003)

これぞSFって感じですかね。
あまりこういった種類の本を読まないので、新鮮でした。
もともと読もうと思ったのは、テッド・チャンの「あなたの人生の物語」を読んだからでしたが、テッド・チャンの文体よりも、より「サイエンス」系でした。

生物学、数学、IT技術といった科学の断片が、深い理解を基に、しかも小説の中心になっています。多分、これはマニアにとってはたまらんのでしょうが、分からない部分を未理解のまま読み進めても面白いのが不思議なところです。

最終的に、空想科学を中心としつつも、哲学的テーマに迫っているのがすごいですね。もしこうなったら、どう考えたらいいのか?って感じで。

9篇の短編集ですが、どれもテーマが違い、よくもこれだけ考えられるもんだと感心します。

2019年3月14日木曜日

ソニー 盛田昭夫 / 森健二

“時代の才能”を本気にさせたリーダー

この本を読めば、経営は生きたきわめて人間的な実学だということが分かります。
理想を掲げ、ビジョンを持ち、製品にこだわるだけでなく、人を見出し、動機づけ、勇気づけ、応援し、先頭になって進んでいく。こういった姿勢が、会社という組織に命とやる気とやりがいをもたらし、文化を形成する。
任せるけど、自分が一番考える。だから周りのみんなもそれ以上に没頭する。

最後の方に、盛田の3代後の社長、出井伸之のことが語られています。彼は優れたアナリストであり、優れた経営戦略家だったようですが、それを実現する組織に命を吹き込むことができなかった。それが、ファウンダー世代と決定的に違うことだったようです。
そのあたりのくだりが、一番僕には響きました。

また、たいして英語も話せないのに、副社長自らアメリカに移住するところもすごいなと思いました。住むだけではなく、その人脈を広げる努力もものすごかったようです。
「自らチャンスを作り、チャンスにより自らを変える」を実践してるんですね。

https://www.diamond.co.jp/book/9784478028698.html

2019年1月23日水曜日

田中角栄 100の言葉 (2015)

日本人に贈る人生と仕事の心得

まあ、なんと読みやすい本なんでしょう。
角栄の一言が右ページにあって、左ページには写真と一言にまつわる多少のエピソード。

なぜこの100なのかは分かりませんが、心に響くのもいくつかありました。

  • 「手柄はすべて連中に与えてやればいい。ドロは当方がかぶる。名指しで批判はするな。叱るときはサシのときにしろ。ほめるときは大勢の前でほめてやれ。」
  • 「人から受けた恩を忘れてはならない。必ず恩返しをしろ。ただ、これみよがしに「お礼に参上した」とやってはいけない。相手が困ったとき、遠くから、慎み深く返してやるんだ。」

基本的には人間関係の政治家だったんでしょうね。義理と人情。人に関する深い洞察。人に信を得てものごとを進める。信を得ることはなんでもやる。
僕にないものを持っているので惹かれるのかもしれません。

小さい頃にロッキード事件が起こり、基本的には悪人のイメージがあります。しかし、人としては人間味にあふれた人だったんでしょうね。最近政治家田中角栄の見直しがされていると言いますが、政治家としてというより一人間として見直されるべきなのかもしれません。

https://tkj.jp/book/?cd=02373201

2019年1月4日金曜日

天皇と儒教思想 / 小島毅 (2018)

伝統はいかに創られたのか?

  • 古来中国では王の田植えと妃の養蚕の儀式が行われたことがあるが、日本においては田植えは昭和天皇が、養蚕は殖産興業のために明治期から行われたに過ぎない。
  • 神武天皇陵は、神武復古を唱えた明治政府が立派に整備したものである。ちなみに古墳は中世以降一顧だにされず、田畑として使われていた。そもそもある時期から明治になるまで天皇家は仏教徒であったため、火葬であり土葬である墳墓は造られなくなった。
  • 天皇が祖先を祭る皇霊祭というのは、仏教の彼岸の神道版として明治期につくられたものである。
等々、我々が日本の伝統として捉えてきたものが、明治以降の政権の思惑により、「つくり出されてきた」ものであることを数多く説明しています。
元号にしても一世一元になったのは明治天皇からです。
これが儒教思想という「思想」とは思いませんが、古代中国のの儀式、典礼あるいは朱子学などの儒教の教えから色濃く影響を受けていることが分かります。
そう思うと、日本の文化というのは、大和言葉に代表される日本古来の文化に、中国を手本とする各種の仕組みが混じり、さらに仏教思想が入り込んだ、結構グローバルな文化だと思えてきます。明治以降に西欧の文化を取り入れ過ぎたことに心情的には反対の気分ですが、古来からの文化交流を考えると当然なのかもしれないなと思いました。

第一章 お田植えとご養蚕
第二章 山稜
第三章 祭祀
第四章 皇統
第五章 暦
第六章 元号

2018年12月24日月曜日

あなたの人生の物語 / テッド・チャン (2002)

Stories of Your Life and Others by Ted Chiang

僕はほとんど小説を読まないのですが、これは面白い!
8編の短編からなる短編集ですが、それぞれが全然違う文体とテーマで、驚きます。
短編と言っても、中短編というか、密度が濃いせいか普通の長編といってもいいと思います。
ジャンルとしては、サイエンス・フィクション、あるいはファンタジーということになるのでしょうか。現代の生活様式そのままではなく、そこに「もし」を持ち込んだもので、「もし」があるからこそ、問題意識が強く表現されているように感じます。

もともとこの本を読むきっかけは、映画"メッセージ"でした。この本の中の"あなたの人生の物語"が原作となっています。エイリアンとの交流によって得た、未来を知ることができる特殊能力と、未来のことが全てわかりつつ、その人生を運命として生きていくという世界観に感銘しました。映画がエイリアンとの交流に重心があるのに対して、原作では「あなたの人生」に焦点が当たっているところが違いましたが、ほぼ小説の世界観を再現していると言っていいのではないでしょうか。

僕がこの短編集の中で一番心が動かされたのが、"地獄とは神の不在なり"です。
天使の降臨と天変地異を同期させて、神の意思を表現しています。神は公正ではなく、優しくなく、慈悲深くない。神の行いをギフトとして受け入れること、それが信仰だということを言っています。登場人物の一人ジャニスは、生まれつき足がないことを、神が特別な使命を与えたと認識して人生を生きていきます。
これは僕にとっての一種の信仰体験でした。
作者によれば、ヨブ記の中で最後に神がヨブに報いることが不満だそうです。

作者は、僕とほぼ同年代、アジア系ということもあり、親近感を覚えます。

  1. バビロンの塔 "Tower of Babylon" (1990)
  2. 理解 "Understand" (1991)
  3. ゼロで割る "Division by Zero" (1991)
  4. あなたの人生の物語 "Story of Your Life" (1998)
  5. 七十二文字 "Seventy-Two Letters" (2000)
  6. 人類科学の進化 "The Evolustion of Human Science" (2000)
  7. 地獄とは神の不在なり "Hell Is the Absence of God" (2001)
  8. 顔の美醜について : ドキュメンタリー "Liking What You See: A Documentary" (2002)

2018年12月2日日曜日

マネー・ボール / マイケル ルイス (2003)

MONEYBALL

The art of winning an unfair game by Michael Lewis

ブラッド・ピットの映画を見てずっと気になっていた原作を読んでみました。
基本的には、原作とかけ離れたとことろはありません(ノンフィクションですから当たり前ですよね)が、映画が主人公ビリー・ビーンだけにスポットライトを当てているのに比べ、原作はもっと広範な人物の物語も紹介しています。

例えば、ビリー・ビーンの前任のゼネラル・マネージャーであるサンディ・アルダーソンは、野球を統計学的な手法で眺め直そうとしたビル・ジェイムズの著作を全部持っており、ビリー・ビーンも影響を受けます。例えば「エラー」は主観に基づいた判定であり、分析に値しない。僕も前々からファインプレーは、スタートダッシュの遅い選手や守備位置がまずい選手がやっと追いついたプレーであることも多いんじゃないかと思ってましたので、まったく同感です。とすればヒットの定義も怪しくなる。後にボロス・マクラッケンという人が、フェアゾーンに飛んだ打球がヒットになるかアウトになるかは全くの運ではないか、と言い出したことも紹介していますが、もしかしたらそうかもしれません。

腕を手術して捕手をあきらめたが、アスレチックスに一塁手としてトレードされたスコット・ハッテバーグ、アンダースローというメジャーでは特異な投げ方をしているチャド・ブラッドフォード、デブであるがために他球団に見向きもされない大学選手ジェレミー・ブラウン。
みんな「傷もの」ですが、アスレチックスの中では価値を認められ、活躍します。

この本で感じたのは3つ。
1つめは、投資効率の追求です。選手の給料が高くなったことにより、より選手を選ぶ力が重要になります。そのときにイチかバチかではなく、より活躍の確率の高い選手を選ぶにはどうするか。活躍している選手の過去を振り返り、分析し、より確率の高い選手をドラフト指名する、あるいはトレードでもらい受ける。オーナーが出せる金の上限がある中で、どうやりくりするのか、ビリー・ビーンはそればかり考えていたのではないでしょうか。

2つめは、統計分析の重視です。選手選びもそうですが、試合に勝つにはどうするのか。試合に勝つことが集客に最も影響があることが分かっていますので、イコール経営の好転につながります。そのためには、相手よりより多く得点すること。得点のために一番きくのが、出塁率と長打です。要はアウトにならないことですね。そのために作戦上では、犠打、盗塁を嫌い、四球を選ぶことを奨励し、ドラフト、トレードでは体格や運動神経をあまり考慮せず、出塁率を重視します。

3つ目は、分析に基づいた人の評価です。従来も野球選手は数字で評価されていたのでしょうが、評価軸がチーム戦術と完全に一致しています。運に任せたヒットや守備の評価(打率やエラー数の評価)を、打球の初速や方向、着弾点を記録して、あるいは何アウトで何塁の場面だったのか、相手は右投手なのか左投手なのか、球種は、といったことを記録して分析していこうという動きがありますが、それを評価にも使えるのでしょう。翻って、会社の評価ってどうなんでしょう。まったく科学的ではありません。

著者は、こういった手法を「おたく」とよびますが、カッコいいですよね。