2021年5月8日土曜日

星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン (1977)

Inherit the Stars / James P Hogan

宇宙をテーマにした壮大なSFです。面白い!

太陽系をステージにしているので、宇宙全体の広がりは限られますが、時間の単位が想像できないくらい長大です。

フィクションとはいえ、あくまでリアルで、科学に立脚しています。これ、ホントじゃないの?と思うくらいです。
こういうのをハードSFと言うらしいのですが、SF初心者の私には違いはよく分かりません。
宇宙物理×生物進化学×謎解き×SFってところでしょうか。

月で発見されたヒトの死体が5万年前のものだった、というスタート時点でもう引き込まれます。
サスペンス的に、謎解きが続き、長編小説ですが最後まで楽しませてくれます。
ガニメデにまで行って、しかもそこで発見された宇宙船が1,200万年前。
エピローグで出てきた巨人と、ガニメデで発見された巨人は関係があるのか?
他の動物と比べて超越している人類の起源は?
あとから地球の衛星となったと言われる月の存在は?
途中まで「こうじゃねえの?」と答えが見つけられないまま、フィナーレで全貌が明らかになるところは、ストーリー展開が素晴らしいんでしょうね。

細かく見ると、そんなの成り立たないだろう、と思いますがエンターテインメントとしては十分です。
これ、映画化されてないんですかね?いかにも映画的な描写で、映画向きだなあと思うのですが。

1981年第12回星雲賞海外長編賞


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2021年1月4日月曜日

祈りの海 / グレッグ・イーガン

Oceans / Greg Egan

90年代の中短編を日本独自に編集した一冊ですが、僕は、SFは長編より、短編の方が好きです。

SF はいつも根柢の前提を覆してくれます。もしもこの世の中がこうだったら、人間はどうなるのか?

しかし、Greg Egan はよくもまあこれだけ違うシチュエーションを思いつくもんだと感心します。

そして、この中短編集でも、様々な「もしも」で、僕の宗教感、思想、意識をくすぐってきます。なかなか沁みついた常識をはなれることができず、ストーリーを理解するのが難しいところもありますが、それだけに味わい深い展開になっています。

  1. 貸金庫 The Self-Deposit Box : 毎日自分が新しい自分になったら...
  2. キューティ The Cutie : 男性が懐胎するとしたら...
  3. ぼくになることを Learning to be Me : 学習が機械でできるなら、機械の頭脳に取り換えると永遠の人生があるのか...
  4. 繭 Cocoon : トランスジェンダーにならないことを選別することができる生物学をめぐるミステリー
  5. 百光年ダイアリー The Hundred Light-Year Diary : 未来が全て日記に書かれているとしたら...
  6. 誘拐 A Kidnapping : 最愛の人は、自分が彼女に抱いている「イメージ」が全てなのか...
  7. 放浪者の軌道 Unstable Orbits in the Space of Lies : イデオロギーを重力とする世界があったら、そこから逃れられるのか...
  8. ミトコンドリア・イヴ Mitochondrial Eve : 人類の祖先がたった1つのミトコンドリアに収れんするとしたら...
  9. 無限の暗殺者 The Infinite Assassin : いくつかのパラレルワールドが表れる世界があるとしたら...
  10. イェユーカ Yeyuka : すべてのガンが根治できる世界で医者の存在意義とは...
  11. 祈りの海 Oceanic : 信仰心が化学物質が生むものだとしたら...


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2020年11月5日木曜日

夏への扉 / ロバート・A・ハインライン (1957)

The Door Into Summer by Robert A. Heinlein

「ひとつでも信じてることさえあれば扉はきっと見つかるさ
もしか君今すぐに連れて行けなくても涙を流すことはない
僕は未来を作り出してる
過去へと向かいさかのぼる
そしてピートと連れ立って君を迎えに戻るだろう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ
あきらめてしまうにはまだ早すぎる扉の鍵を見つけよう
もしか君今ここでやり直せなくても淋しく生きることはない
僕は過去から幸せをもち未来へ向かい眠るのさ
そしてピートと永遠の夏への扉開け放とう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ
心には冬景色輝く夏をつかまえよう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ」

吉田美奈子の歌詞で山下達郎の曲がアルバムとして発売されたのが1980年。
この物語は、1970年と2000年が主な舞台になっています。
そして、ハインラインがこの物語を書いたのが1957年。すでに近未来のことから書き始めてます。

1970年において家事代行ロボットが既に世に出ており、コールド・スリープという技術までできています。

そして2000年には、新しい方式のジッパーが開発され、言葉の分かる人型ロボットが活躍し、タイムマシンまで(公ではありませんが)開発されています。


そこにあるのは、昨日より今日、今日より明日はきっと良くなる。そしてそれは科学技術によってもたらされる、という信念に近い世の中の空気です。夏への扉は諦めなければ人の力によってきっと開けられる。

リンドバーグが大西洋を飛行機で横断するのに成功したのは1927年。そのたった42年後には人類は月に降り立つまでになりました。原子力という夢のエネルギーを生み出し、遠隔に映像を映し出すテレ・ビジョンという装置も開発しました。ものすごいスピードで変わっていった時代だったんでしょう。

僕も小さい頃は、石ノ森章太郎や手塚治虫の漫画を読んで、近い将来、空飛ぶ自動車ができて、ロボットと共生する時代が来るだろうと信じていました。

最近になってようやくそういったことも現実化しそうな雰囲気になってきました。ようやくです。


2015年の未来に行ったマーティとドクは、立体ビジョンや空中スケボーと自動で伸び縮みする服のある世界を見ますが、現実の2015年はそんな世界ではありませんでした。そんな風に世界は発展しなかったのです。

開発のツケで環境汚染と二酸化炭素削減に取り組まざるを得ず、人口は爆発的に増えて、貧富の差は大きくなるばかり。

最も発展したのは、物理技術ではなく、もっと人間的な情報技術でした。インターネットの発展。パソコンを予想した人はいたでしょうが、それがコミュニケーション手段になっていることは想像できなかったと思います。バック・ツー・ザ・フューチャーにもスマホの姿はどこにもありません。


この小説を人気づけているのは、タイムトラベルというSF的要素だけではなく、ラブ・ストーリーだということでしょう。

ベルという悪役がリッキィとの恋のピュアさを引き立てています。

年の差をタイムトラベルによって超えた恋の物語はSFでしかあり得ませんが、どうしても主人公に肩入れしたくなる展開になっています。

そしてハッピィエンド。始まりが最悪だっただけに幸せな気分になります。


所々に布石があって、未来の後に過去が語られた時、あれはそういうことだったのか、と後で気付かされるのも面白いところです。


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2020年9月29日火曜日

こんな夜に野茂英雄が読みたい / Number特集 (2020)

メジャー挑戦25周年 完全保存版

僕の小さい頃のヒーローは王選手でした。

714号か756号か忘れたけど、父親に頼んで記念メダルを買ってもらったのを覚えています。

野球をテレビで見るのがホント楽しかった。

野茂は大人になってからなので、それほど熱狂しなかったけど、やっぱりメジャーリーグの活躍は興奮しました。

それと、イチロー。球場に行ったら、必ずヒットを打ってくれる選手って、やっぱ観に行きたいと思うよな。

この3人は僕にとっての特別なスーパースターですが、共通するのはフォームがオリジナルであること。

一本足にトルネード、振り子打法。

野茂を見た時は、王選手の興奮が蘇ってきたような感じを受けました。

僕も野球やってましたから、それはもう、こんなユニークなフォームというのは考えられないことです。基本フォームを繰り返し教えられる中で、よっぽど自分に自信がないと、貫き通せません。王選手もイチローもプロになってからコーチと編み出したものですが、野茂は高校に入った時はもうトルネードだったということですから、本当に自分で編み出したフォームだというところが違います。

近鉄での実績は素晴らしいものですが、やっぱり野茂が一番輝いていたのは、メジャーに行ってからでしょう。

オリジナルな上に、パイオニアなんです。
それも、実績を作って成功しました。

あの時は、日本人の誰もが野茂を応援したと思います。英語も喋れない日本人が単身乗り込んで、ホップする直球と鋭角に落ちるフォークでメジャーリーもきりきり舞い。胸がスッとしました。
日本球界を袖にした時は反感を感じる人もいたでしょうが、ドジャーズに決まってからは、そんなことはどうでも良くなりました。みんなラソーダとピアッツァの味方でした。

もうあれから25年。改めてこの特集を読むと、あの頃の興奮が蘇ります。
やっぱり近鉄のユニフォームより断然ドジャーズのユニフォームの方が似合ってます。

ストレートとフォークの2種類しかないのも、またいい。
イチローと違って、凄いだけじゃなく、コントロール悪いし、ストレートに伸びがない時は打ち込まれるし、完全じゃないところもまたよし。

特集の中で一番印象に残ったのは、ドジャーズ時代でも近鉄時代でもない、新日鐵堺時代のエピソードです。
1年目の大切な試合で打たれた野茂に、チームのエース清水さんが諭します。
「”こいつが投げたら絶対勝てる”、味方にそう思われるのがエースや。せやからまず、投げた試合は絶対抑える。その気概でマウンドに立て。エラーが出ても援護がなくても打たれても、すべて自分で処理しろ。それから、マウンドでは一喜一憂するな。あんなのは味方を不安にさせるだけや。喜んだり悔しがったりするのは、試合が終わってから。それができて初めてエースや」
野茂のその後は、これを忠実に守っています。それから野茂は胸を張って大きくワインドアップするようになりました。フォークも清水さんの投球からヒントを得たことで大きく落ちるようになったそうです。
王者のように堂々と。ライオンハート。そうでありたいと思います。


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2020年9月27日日曜日

ソラリス / スタニスワフ・レム (1961)

Solaris / Stanisław Lem

映画で見る宇宙の生命体(主に知的生命体)が、何か地球の生物に似ているのに、いつも違和感を感じてました。

眼が二つあったり、手足があったり、言葉を喋れたり。

地球上の生物の形は、必然なのか偶然なのか。

生命のためには、水が必要というが、本当なのか。

知性は、たんぱく質でできたニューロン細胞の中に宿っているが、この物質的なフォーマットが必要なのか。果たして知性とは何か。精神とは何か。

レムのこの小説は、まさしくそういう疑問に正面から取り組んだ、ぶっ飛んだ作品です。


惑星ソラリスの「海」は、人間から見ると「知性」のように見える振る舞いをします。

形態としては「海」であり、まったく人間の形態と違います。

人間の記憶に働きかけて、一番深い意識のものを複製します。

意識があるようにも、ないようにも捉えられます。

人間の常識とはかけ離れすぎています。

ニュートン力学で見る世界に対して、アインシュタインの世界は理解を超えているのに似ています。自分の身の丈以上のものは理解しがたいのです。旧世界はコペルニクスを理解できず、地球上の力学はアインシュタインを理解できず、アインシュタインは量子力学を理解できませんでした。


小説としては、ディテイルを書き込むスタイルで、読み進めるのにかなり努力が必要でした。伊藤若冲の絵は、微細が素晴らしいですが、これが全体のイメージを決定づけています。そぎ落としていくのもいいですが、必要以上に詳細化するのもスタイルなんですね。


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2020年7月25日土曜日

幼年期の終わり / アーサー C. クラーク (1953, 1989)

Childhood's End

by Arthur C. Clarke


人類というのが進化の過程にあり、現在がその幼年期に当たる、という仮定に基づいたSFです。

異星人 Overlord つまり、神を超える存在に支配される地球。
やがて特定の子供達に異変が現れ、新しい人類が誕生する。
それは、フィジカルな生命を超越した、精神の生命であり、宇宙の摂理と完全に一体化していく。

そこに出てくるのは、Overmind という存在であり、その名のとおり宇宙の精神性を表しています。
反射→判断→理性→精神と進んできた地球生命体の進む道が、今後どうなっていくんだろう、というのは考えたくなります。確かに現在の人類は、高度な精神性を持っているとは言え、本能の部分も多く、肉体との相互作用でどうにでも変わります。
それは、肉体=DNAを守るために身につけていった反応力、判断力、知性だからに他なりません。
Clarke はそこにメスを入れ、肉体性を排除して、知性への純化という方向が進むべき道だとしたら、という仮説を提示しています。
今までは、フィジカルとメンタルが混じった中途半端な成長過程、つまり子供時代だということです。

世界が広くなるにつれ、私たちは常識を見直してきました。
空が動いているのではなく、この揺るぎない大地が動いているという転換。光を中心に考えると、誰にでも平等だと思われていた時間が相対的になるという転換。空間が巨大な重力により歪むという転換。
今目の前にあり、身の回りにあるものを前提として考えず、あらゆる可能性を試す、という意味でSFはまさに科学的です。

この “Childhood's End” は.、ストーリーとしては壮大で、かつ奇抜な展開も面白い、優れた小説だと思いますが、2つの点において違和感を感じました。
人類至上的史観と精神至上視点です。
Clarke の関心は宇宙にあり、当時の科学の最先端も宇宙物理学でした。
しかし、現代の最先端は生物科学であるともいえます。私たちの体は、複雑な相互作用によって成り立ち、40億年という長い期間があるとは言え、よくもまあこんなシステムができたものだという驚きがあります。これがすべて適者生存の進化だけででき上がったとはとても思えません。
もちろん人類のシステムが最強なわけではなく、他の生物はその生存環境に合わせた、適切なシステムを構築しています。
人類が獲得した精神性というのはかなり単純なもので、肉体のシステムのように高度で複雑なものではないとも言えます。

それにしても、Clark が示した人類の進化の行く末は衝撃的です。


2020年7月24日金曜日

82年生まれ、キム・ジヨン / チョ・ナムジュ (2016)

これは著者とすべての女性の物語であると同時に、僕の物語です。
涙が出、胸が痛みました。
フィジカルにです。

男と女の間には埋めようのない溝があり、理解できない悲しさがありますが、人と人との間も本当の意味で理解ができない悲しさがあります。
男には男の言い分があり、女には女の感じ方があります。
何気ない一言でも、他人は思いもよらない感じ方と理解をするものです。

この小説は、現代の女性のありのままの姿を描き、共感を得ています。
82年生まれの女の子の一番多い名前が「キム・ジヨン」というリサーチに基づき、その年代の女性のリアルを描いています。
と同時に女として生きる、生きづらさのようなものがずっと底辺に流れています。
韓国の特殊性も少しはありますが、ほぼ日本人女性の物語としても同じようなものでしょう。
韓国では男尊女卑の価値観が強いと言い、この小説でも年配の男性は時代錯誤の行動様式から抜けられませんが、ジオンの同年代の男たちは、現代らしく男と女は平等だとわかっていて、いたってリベラルな考え方の持ち主に描かれています。
でも、本当の意味で女の人生の生きづらさ、悲しさ、辛さはわかっていないのです。

僕の妻はジヨンより15才ほど年上です。大学を出て働いていた妻は子供ができて退職を選びました。僕よりも収入が高かったにもかかわらずです。望んで就職した業種だったにもかかわらずです。
その時は、それが普通だと思っていました。でも普通かどうかなんか関係ないのです。
仕事をしていない間、資格を取り、子供を預けられるようになると再就職しました。
子育てに責任を強く感じた妻は、責任を一人で背負い込み、あるとき僕との会話の中でプッツンと糸が切れてしまいました。
ジヨンがあるときから精神に異常をきたしたのと同じように。
何も共感してやれず、何も助けてあげられませんでした。

この小説の中の男は、夫以外は名前を与えられていません。家族であっても彼氏であっても。
フェミニズム、というイズムを強く意図している小説ですが、それだけではない、心を強く揺さぶられる小説です。

筑摩書房 https://www.chikumashobo.co.jp/special/kimjiyoung/