2021年7月23日金曜日

華氏451度 / レイ・ブラッドベリ (1953)

Fahrenheit 451 / Ray Bradbury

紙は華氏451度(摂氏233度)になると燃え始める。本を焼くというテーマからつけられた題名です。

文体(と言っても訳文ですが)は非常に独特で、こんな書き方をする作家は初めてでした。
ややもすると難解に感じられるほど、細部を書き込んでいます。

全体は3部で構成されていますが、それとは関係なく前半と後半に分かれます。ちょうど分量も。
背景描写を丹念に書き込んだ前半が静だとすると、後半は一気にダイナミックに展開し、大きくストーリーも動きます。

こんなのをよく映画化したなと思いますが(Truffaut の映画は実際観ていません)、後半はアクション映画に向いているかもしれません。

戦後のマッカーシズムへの異議申し立てとして焚書というテーマを取り上げたのはちょっと無理を感じましたが、これがクライマックスへ結実していくというのは想像がつきませんでした。

サイエンス・フィクションというよりは、カルチャー・フィクションって感じでしょうか。


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2021年6月26日土曜日

われはロボット / アイザック・アシモフ (1950)

I, Robot / Isaac Asimov

冒頭で、ロボット工学三原則が示され、小説ではこの原則によりロボットの行動が解き明かされていきます。

第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条:ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条:ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

この三原則はアシモフの創作で、ロボットが人間を襲う的なフランケンシュタイン・コンプレックスに対する安全装置です。

同じ三原則をテーマとした短編集ですが、全体としては、USロボット社の主任スーザン・キャルヴィンの回顧録という形を取っており、一貫性が保たれています。

このキャルヴィンは、なんと「ロボット心理学者」であり、三原則に則りロボットがどういう思考回路で、なぜ不可解な行動を取るのかというのを解明していきます。そんなような職業が今後出てくるとは思えませんが、三原則も含めこのへんがアシモフの独創性の高さでしょうね。

1950年という、第二次世界大戦が終了して間もなくの頃に、こういった完成されたロボットの小説を書くというのはすごいことだなと思いました。2021年の現代ではまだ産業用ロボットがほとんどで、人型ロボットはニーズすらはっきりしませんが、ピノキオにあるような、人に仮託するものは想像がしやすいのかもしれません。


  • ロビイ(Robbie):子守りロボット「ロビイ」と少女グロリアの物語
  • 堂々めぐり(Runaround):水星の採鉱ロボットの救出劇
  • われ思う、ゆえに…(Reason):ロボットの存在意義の自覚
  • 野うさぎを追って(Catch that Rabbit):6台のサブ・ロボット付ロボットの行動
  • うそつき(Liar!):人間の心が読めるロボット?
  • 迷子のロボット(Little Lost Robot):第一原則が改変された実験型ロボットを見つけ出せ
  • 逃避(Escape!):人工頭脳による星間航行用エンジンの設計
  • 証拠(Evidence):政治家はロボット?
  • 災厄のとき(The Evitable Conflict):ロボットによる統治


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2021年6月9日水曜日

三体 / 劉慈欣 (2008)

世界的にヒットしている SF ということで読んでみました。

中国の文学ということで、国家礼賛的な先入観があったのですが、全くそんなことは感じませんでした。
逆に、冒頭の文革時代の苛烈な表現が、政治的に大丈夫か、と思うくらいでした。

小説としては、非常に面白かったです。
エンターテインメントですね。

謎解きの要素が多分にあり、結末はどうなっていくんだろうというワクワク感、この人の役割は何、という謎感で、グイグイ引き込まれます。科学の部分も分かりやすく、初心者的レベルの満足を与えてくれます。

残念なのは、終盤の三体世界の描写です。
全ての謎が明らかになるのですが、それが若干チンケというか、無理矢理というか、ちょっと非科学的というか。
デスラーやスター・ウォーズみたいな安っぽい感じになってしまいました。

でも、途中までは十分楽しめました。


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2021年5月20日木曜日

君主論 / ニッコロ・マキアヴェリ (1532)

Il Principe /  Niccolò Machiavelli

マキアヴェリが士官のために書かれた、君主が力を発揮して国を支配するためにどうしたらいいのかを論じた古典です。

過去の君主を類型化して、汎用化を図ろうとしたものです。

日本で言えば、戦国時代の大名のあり方なんかを書いたもののように思いました。
下克上あり、恐怖政治あり、暴力がものを言う世界での生き残り方に近いように思いましたので、世間一般に言われているほどひどい表現はなかったのが正直な感想です。

全体は、論ずるテーマによっていくつかのグループに分けられ、前半は国あるいは軍事の側面で書かれています。興味深かったのは、後半の君主の資質に関するグループです。
「愛されるより恐れられる方がはるかに安全である」
「運命の風向きと事態の変化の命じるがままに、変幻自在の心構えを持つ必要がある」
「決断力のない君主は、当面の危機を回避しようとするあまり、多くの場合中立の道を選ぶ。そして、おおかたの君主がほろんでいく」
とまあ、色々な定説に溢れていて、そういうシチュエーションになったとき、ああそういやそんなこと「君主論」に書いてたな、と思い出しそうな感じです。

ちなみに、本来タイトルはなかったそうで、タイトルは本の内容から他人によってつけられたようです。僕はイタリア語は全くわからないのですが、Il Principe とは The Prince ということらしいです。


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2021年5月8日土曜日

星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン (1977)

Inherit the Stars / James P Hogan

宇宙をテーマにした壮大なSFです。面白い!

太陽系をステージにしているので、宇宙全体の広がりは限られますが、時間の単位が想像できないくらい長大です。

フィクションとはいえ、あくまでリアルで、科学に立脚しています。これ、ホントじゃないの?と思うくらいです。
こういうのをハードSFと言うらしいのですが、SF初心者の私には違いはよく分かりません。
宇宙物理×生物進化学×謎解き×SFってところでしょうか。

月で発見されたヒトの死体が5万年前のものだった、というスタート時点でもう引き込まれます。
サスペンス的に、謎解きが続き、長編小説ですが最後まで楽しませてくれます。
ガニメデにまで行って、しかもそこで発見された宇宙船が1,200万年前。
エピローグで出てきた巨人と、ガニメデで発見された巨人は関係があるのか?
他の動物と比べて超越している人類の起源は?
あとから地球の衛星となったと言われる月の存在は?
途中まで「こうじゃねえの?」と答えが見つけられないまま、フィナーレで全貌が明らかになるところは、ストーリー展開が素晴らしいんでしょうね。

細かく見ると、そんなの成り立たないだろう、と思いますがエンターテインメントとしては十分です。
これ、映画化されてないんですかね?いかにも映画的な描写で、映画向きだなあと思うのですが。

1981年第12回星雲賞海外長編賞


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2021年1月4日月曜日

祈りの海 / グレッグ・イーガン

Oceans / Greg Egan

90年代の中短編を日本独自に編集した一冊ですが、僕は、SFは長編より、短編の方が好きです。

SF はいつも根柢の前提を覆してくれます。もしもこの世の中がこうだったら、人間はどうなるのか?

しかし、Greg Egan はよくもまあこれだけ違うシチュエーションを思いつくもんだと感心します。

そして、この中短編集でも、様々な「もしも」で、僕の宗教感、思想、意識をくすぐってきます。なかなか沁みついた常識をはなれることができず、ストーリーを理解するのが難しいところもありますが、それだけに味わい深い展開になっています。

  1. 貸金庫 The Self-Deposit Box : 毎日自分が新しい自分になったら...
  2. キューティ The Cutie : 男性が懐胎するとしたら...
  3. ぼくになることを Learning to be Me : 学習が機械でできるなら、機械の頭脳に取り換えると永遠の人生があるのか...
  4. 繭 Cocoon : トランスジェンダーにならないことを選別することができる生物学をめぐるミステリー
  5. 百光年ダイアリー The Hundred Light-Year Diary : 未来が全て日記に書かれているとしたら...
  6. 誘拐 A Kidnapping : 最愛の人は、自分が彼女に抱いている「イメージ」が全てなのか...
  7. 放浪者の軌道 Unstable Orbits in the Space of Lies : イデオロギーを重力とする世界があったら、そこから逃れられるのか...
  8. ミトコンドリア・イヴ Mitochondrial Eve : 人類の祖先がたった1つのミトコンドリアに収れんするとしたら...
  9. 無限の暗殺者 The Infinite Assassin : いくつかのパラレルワールドが表れる世界があるとしたら...
  10. イェユーカ Yeyuka : すべてのガンが根治できる世界で医者の存在意義とは...
  11. 祈りの海 Oceanic : 信仰心が化学物質が生むものだとしたら...


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2020年11月5日木曜日

夏への扉 / ロバート・A・ハインライン (1957)

The Door Into Summer by Robert A. Heinlein

「ひとつでも信じてることさえあれば扉はきっと見つかるさ
もしか君今すぐに連れて行けなくても涙を流すことはない
僕は未来を作り出してる
過去へと向かいさかのぼる
そしてピートと連れ立って君を迎えに戻るだろう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ
あきらめてしまうにはまだ早すぎる扉の鍵を見つけよう
もしか君今ここでやり直せなくても淋しく生きることはない
僕は過去から幸せをもち未来へ向かい眠るのさ
そしてピートと永遠の夏への扉開け放とう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ
心には冬景色輝く夏をつかまえよう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ」

吉田美奈子の歌詞で山下達郎の曲がアルバムとして発売されたのが1980年。
この物語は、1970年と2000年が主な舞台になっています。
そして、ハインラインがこの物語を書いたのが1957年。すでに近未来のことから書き始めてます。

1970年において家事代行ロボットが既に世に出ており、コールド・スリープという技術までできています。

そして2000年には、新しい方式のジッパーが開発され、言葉の分かる人型ロボットが活躍し、タイムマシンまで(公ではありませんが)開発されています。


そこにあるのは、昨日より今日、今日より明日はきっと良くなる。そしてそれは科学技術によってもたらされる、という信念に近い世の中の空気です。夏への扉は諦めなければ人の力によってきっと開けられる。

リンドバーグが大西洋を飛行機で横断するのに成功したのは1927年。そのたった42年後には人類は月に降り立つまでになりました。原子力という夢のエネルギーを生み出し、遠隔に映像を映し出すテレ・ビジョンという装置も開発しました。ものすごいスピードで変わっていった時代だったんでしょう。

僕も小さい頃は、石ノ森章太郎や手塚治虫の漫画を読んで、近い将来、空飛ぶ自動車ができて、ロボットと共生する時代が来るだろうと信じていました。

最近になってようやくそういったことも現実化しそうな雰囲気になってきました。ようやくです。


2015年の未来に行ったマーティとドクは、立体ビジョンや空中スケボーと自動で伸び縮みする服のある世界を見ますが、現実の2015年はそんな世界ではありませんでした。そんな風に世界は発展しなかったのです。

開発のツケで環境汚染と二酸化炭素削減に取り組まざるを得ず、人口は爆発的に増えて、貧富の差は大きくなるばかり。

最も発展したのは、物理技術ではなく、もっと人間的な情報技術でした。インターネットの発展。パソコンを予想した人はいたでしょうが、それがコミュニケーション手段になっていることは想像できなかったと思います。バック・ツー・ザ・フューチャーにもスマホの姿はどこにもありません。


この小説を人気づけているのは、タイムトラベルというSF的要素だけではなく、ラブ・ストーリーだということでしょう。

ベルという悪役がリッキィとの恋のピュアさを引き立てています。

年の差をタイムトラベルによって超えた恋の物語はSFでしかあり得ませんが、どうしても主人公に肩入れしたくなる展開になっています。

そしてハッピィエンド。始まりが最悪だっただけに幸せな気分になります。


所々に布石があって、未来の後に過去が語られた時、あれはそういうことだったのか、と後で気付かされるのも面白いところです。


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