2015年8月22日土曜日

俘虜記 / 大岡昇平

戦後70年、改めて「俘虜記」を読んでみた。
米軍に捉まるまで、俘虜となって米軍病院での入院生活、俘虜収容所生活、敗戦、敗戦後の収容所の堕落、帰国と、それぞれでテーマが変遷している。
捉まるまでは、自身の生と死の葛藤、米兵をなぜ殺さなかったかを描いている。(が、少し弁解気味のところもある)
俘虜生活は、日本社会の縮図模様、人間のエゴを描いており、冷徹な観察眼とニヒルな文体に好感が持てる。戦後に書かれたとはいえ、戦中派のまっとうな市民の感覚が表わされているようだ。
一番胸に迫ったのは、敗戦の項だ。単純に負けた悔しさと、国家をつぶしてしまった悔恨(偉大な明治の先人の功績を3代目がつぶしてしまった)、軍部への怒りが表わされている。米軍では8月10日にポツダム宣言受入れの打診があり、収容所では8月10日が敗戦の日と認識されている。
戦争小説というよりは、戦争を題材にして、生と死、人間社会を描いた批評小説である。