2021年9月30日木曜日

トータル・リコール / フィリップ・K・ディック

We Can Remember It for You Wholesale and Other Stories by Philip K. Dick

やっぱ、SFは短編が面白いなあ。ブレード・ランナーの原作者 Dick の短編集。

10 の短編が収められていますが、そのうち2つは映画化されています。

1つは、表題の「トータル・リコール」。
Schwarzenegger 主演の大ヒット映画の原作になります。映画は面白い印象はなかったのですが、原作は奇想天外で面白いです。
「もし」に「もし」が重なり、不思議の世界に連れて行かれます。
タイトルも内容も「トータル・リコール」じゃないけどね。

2つ目は「マイノリティ・リポート」。
Spielberg 監督、Tom Cruise 主演の、これまた大ヒット映画ですが、Spielberg にしてはストーリーが追いにくく、ちょっとこむずかしい印象がありました。
原作のストーリーはだいぶ違ってますが、これまたストーリー展開が速い。めくるめく展開で、スピード感あふれる短編です。

やはりこの2編が断然面白いですが、それ以外の短編も予想しないシチュエーションで、さすが、という感想を持ちました。


  1. トータル・リコール "We Can Remember It for You Wholesale"

    火星に行くことに取り憑かれた主人公に、記憶埋め込み業が施術しようとしたら、逆に意外な過去が発覚した...
  2. 出口はどこかへの入口 "The Exit Door Leads In"
    懸賞に当たったのは策略で、あるところへ連れて行かれ、試験される...
  3. 地球防衛軍 "The Defenders"
    地下に潜った人間たちは地上で戦争が続いていると思っているが、実は...
  4. 訪問者 "Planet for Transients"
    放射能汚染で人間が住めなくなった地球には、環境に適応した変異種が...
  5. 世界をわが手に "The Trouble with Bubbles"
    世界を育てるゲームが大流行...
  6. ミスター・スペースシップ "Mr. Spaceship"
    人間の脳を宇宙船に搭載したら...
  7. 非0(null) "Null-0"
    共感能力を一切持たない、完璧なパラノイドが世界を還元する...
  8. フード・メーカー "The Hood Maker"
    内心の自由を剥奪された、テレパスによる監視社会...
  9. 吊るされたよそ者 "The Hanging Stranger"
    街頭からぶら下がる死体を発見したのは罠だった...
  10. マイノリティ・リポート "The Minority Report"
    プレコグによる犯罪予知システムに罠が...

Get it on Apple Books

2021年9月22日水曜日

宇宙からの帰還 / 立花隆 (1983)

知の巨人と言われる立花隆氏が死去したことから、本書を読み返してみました。
彼の本を全て読破しているわけではありませんが、私が読んだ著書の中で一番印象深かったのがこの本でした。

いくつかの宇宙飛行士(アメリカの)のエピソードに入る前、宇宙に行くとはいかなるものか、を丹念に解説してくれています。
人間は宇宙空間では生きていけない。従って、人間が宇宙に行くときは、地球環境をそのまま持っていく、という当たり前といえば当たり前の説明があります。例えば、1Gの大気圧と窒素その他の空気の成分がないと、血液に酸素をうまく取り込めない。大気のシールドがないと紫外線に耐えられない。もちろん大気がないので、音は伝わらない。
そう、宇宙空間は無の世界、人間にとっては死の世界なのです。

月に行った宇宙飛行士は、自分と地球との強い結びつきを感じています。そこにしか自分が生きる環境がないと知覚するからこその感覚でしょう。
私たちが見る地球の写真は、「それ以外」の部分があまりありません。月から地球を見た宇宙飛行士の目には、地球以外の「無」の空間が無限に見えたことでしょう。地球はマーブル大に見え、それ以外は漆黒なのです。エーテルで満たされているのではなく、無=死なのです。
地球の美しさは奇跡だと感じるのも、地球環境に生を受けた我々人類だからこその感覚かもしれません。太陽に反射する海と大気の青と水蒸気の白、大地の色。それは私たちの生を育む貴重な環境だからです。少なくとも月の上からは、同じような環境の星は見当たりません。

月には神がいた、と感じた宇宙飛行士も何人もいました。あまりにも生活に密着した地球では感じられない感覚だと思います。想像でしかありませんが、きっと僕も月に行けたら同じように感じるに違いないと確信しています。宇宙の存在自体が神だと感じるでしょう。
思えば、圧倒的な自然の力が大きかった太古の世界では、もっと神を感じることができたのかもしれません。神を感じてきた人類が、言葉文明を持ち出した時期に宗教が成立し、今に伝わっているのは、文明以降神を感じることが希薄になったからかもしれません

月に行かずとも、宇宙から地球を眺めることができた宇宙飛行士は、人類の同一性を感じています。民族の違いはマイナーな違いでしかなく、土地にはもちろん国境もない。One Nation とでもいうのでしょうか。これは比較的想像しやすい、身近な感覚です。これから始まる宇宙旅行時代では、この感覚が一番感じやすいのではないでしょうか。

宇宙をこういう知覚で捉えようとする人類の知性は、大気と水と適当な重力がある地球という特殊な環境下で発達した特異なものなのか、それとも、宇宙が初めから内在している進化の帰結なのか。この広い宇宙には、人類と同じような知覚を持った生命体がいるのか、それとも、全く違う知覚を持った生命体がいるのか。それとも、生命体という捉え方自体が、特異なものなのか。

昨日は中秋の名月でした。犬の散歩のとき、東の空に大きく満月が出ていました。犬は当然「月」自体を認識していないのでしょう。関心がなさそうです。


宇宙からの帰還
第一章 上下・縦横・高低のない世界
第二章 地球は宇宙のオアシス

神との邂逅
第一章 伝道者になったアーウィン
第二章 宇宙飛行士の家庭生活
第三章 神秘体験と切手事件

狂気と情事
第一章 宇宙体験を語らないオルドリン
第二章 苦痛の祝賀行事
第三章 マリアンヌとの情事

政治とビジネス
第一章 英雄グレンとドン・ファン・スワイガート
第二章 ビジネス界入りした宇宙飛行士
第三章 宇宙体験における神の存在認識

宇宙人への進化
第一章 白髪の宇宙飛行士
第二章 宇宙体験と意識の変化
第三章 宇宙からの超能力実験
第四章 積極的無宗教者シュワイカート


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