2022年3月14日月曜日

サピエンス全史 ―文明の構造と人類の幸福― / ユヴァル・ノア・ハラリ (2011)

SAPIENS : A Brief History of Humankind by Yuval Noah Harari

文明批評の本です。
我々ホモ・サピエンスの誕生から未来までの歴史をたどりながら、果たして私たちは幸福になったのか?というクエスチョンを提示します。

ホモ・サピエンスは20万年の歴史のうち、ほとんどが狩猟採集の生活をしていたようです。
ホモ・サピエンス以前の人類全体でとらえると、実に250万年間狩猟採集の生活をしていました。
1万年前に農業を始め、狩猟採集生活が終了したのですが、私たちは狩猟採集に適応した体になっているのは、様々な研究で明らかになっている通りです。
食べ物は豊富で、今のように少数の食物に頼ることはない。したがって栄養状態もバランスが取れていて、土地に縛られることもなく、時間もたっぷりあった。
それが、農業を始めることにより、土地に縛られ、偏った栄養で病気も蔓延し、日々穀物の育成に時間を取られ、紛争も起こすようになった。本当に幸せになったのか?

著者は、長い歴史の中で重要な革命が3つあったと言います。第1は「認知革命」、第2は「農業革命」、第3は「科学革命」です。その間に、貨幣システム、帝国、宗教という3つの重要な要素も誕生しました。
一番重要なのは「認知革命」です。これこそが、他の人類とホモ・サピエンスを分けるべきものだからです。認知革命とは、神話のような架空のものを共通で信じる力のようです。そのことにより、より多くの人を協力に結びつけることができた。
ネアンデルタール人は、個人の力はサピエンスより優れていたけど、より縁の薄い多くの人が協力する能力ではサピエンスの方が優っていて、その数の力や協力分担によりサピエンスの方が生き残ったとのこと。
サピエンスはアフリカから出て、北極圏を超え、アメリカ大陸やオーストラリアに生活圏を伸ばししていきますが、その過程で現地の大型動物はほとんど絶滅してしまったようです。つまり、大勢で狩りをして、大量の動物を獲物にしていったということでしょう。
善悪は別として、そういった薄い縁の者が協力できる力こそがサピエンスが繁栄した原動力のようです。
貨幣システムなどはその最たるものでしょう。全く知らない者同士が貨幣を通じて交易をする。交易をするということは社会の営みを何らか分担・分業しているということで、小さなコミュニティでは実現できなかったような大きな世界を構成することができています。
思えば僕は1人では全く生活できません。朝飯にパンを焼こうと思っても、小麦を自分では育てられないし、パンの作り方も知らない。パン焼き機のための鉄も作れなければ、電気も起こせない。着る服の木綿も育てられなければ紡ぐことさえできない。ポリエステルの原料の原油を採掘することももちろんできない。そう思うと、僕の生活は知らない人が作ってくれたモノで成り立っています。
様々な革命の起こる前の狩猟採集民は、自分の生活で必要なものは、ほぼ自給自足、あるいは小さなコミュニティで充足していたのだから、すごいなあと改めて思います。食べられるものの区別や、天気予想、矢じりの作り方、日の起こし方、衣服の作り方など、知っておくべきことは山ほどあります。文字で残すことができなかったでしょうから、全部記憶だより。しかも世代を超えて伝えていかなければならない。現代人が脳の一部しか使っていないのも分かるような気がします。

「科学革命」によって、私たちの生活はさらに大きく変わりました。いろいろなことが便利になった以上に「発展」の概念が根付いたことも大きいようです。度重なる科学の発見で、過去よりも未来は良くなる、と思うようになった、ということです。中国の王朝は繰り返しの概念で、西洋は革命などにより社会が良い方に変わってきたと考えているのは、科学革命が西洋中心に起こり「発展」の概念があったからでしょう。日本も明治維新までは、国家形態は異なれど、世の中が良くなってきた歴史とは捉えていなかったかもしれません。

もちろんサピエンスの歴史は現代で終わりではありません。長い歴史の中では、現代は異常な生活をしているとも言えます。今の状況を普通と考えない、メタ認知の重要性を教えられました。


Get it on Apple Books