2016年3月12日土曜日

大局観 / 羽生善治

羽生善治は、僕の世代にとってはスーパースターですが、その挑戦する姿勢と同時に、非常に自然体である文体に惹かれます。おそらく、彼自身が自然体なのでしょう。

この本のタイトルは「大局観」ですが、大局観について書かれてあるのは一部で、大半はいろいろなテーマに関するエッセイです。

一番驚いたのは、『私はこれまで、何と闘うという目標を立ててやってきていない。信じていただけないと思うが、常に無計画、他力志向である。人生は突き詰めてはいけないと思う。』というところです。
レベルがあるとは思いますが、長期的目標を定めず、目の前のことを精いっぱいやる、というのは天才ならではなのか、才能あることを生業にできる幸福な人生だからなのか。坂東玉三郎も同じようなことを言ってました。
確かに人生を突き詰めすぎると、確かに窮屈になります。
さっぱりとした生き方ですよね。

2016年3月5日土曜日

失敗の本質 日本軍の組織論的研究 / 野中郁次郎他

大東亜戦争の敗戦原因を、日本軍という組織研究に焦点を当てて研究した名著です。
この本では6つの戦闘をテーマに分析していますが、どれも日本軍の負け戦ですので、非常につらい気持ちになります。

緒戦は快進撃を続け、真珠湾攻撃から半年後のミッドウェー海戦においてターニングポイントが訪れます。そこからの敗戦史を見ていくと、なぜあと3年も戦争を続けなければならなかったのか疑問に思います。多くの人を犠牲にして。

この本では、日本軍を敗戦に導いたいくつかの特徴を挙げています。
  • 戦略や目的を共有することを怠ったまま、戦略や目的が異なった現場行動を許容し、または現場を知らない参謀が戦闘現場の指揮に口を出す。
  • 軍の人事において、結果よりプロセス、合理性より人間関係を重視。=空気の支配→猪突性重視より、異端の意見者を排除。
  • 誰でも使える標準化兵器の大量生産ではなく、職人芸と強固な精神により個々の戦闘に勝つ。
  • 戦略、戦術の柔軟性なし。日露の成功体験を純化し、コンティンジェンシー・プランなし
  • 大陸制覇を目的とした陸軍(想定敵=ロシア)と、大洋制覇を目的とした海軍(想定敵=アメリカ)のバラバラな戦争。
  • 敵戦力の過小評価。
  • 終戦観が欠如したまま戦争に突入。
これらが徹底的にダメだったわけではなく、連合国軍との比較の中で、「より」ダメだっただけですが、連合国軍、特にアメリカ軍は、緒戦の敗退の後、敗戦から学習し、反攻を始めます。
そういった自己否定を含む学習ができる組織であったことを本書では評価しています。

この時代のこの戦場での反省ではありますが、教訓は現代の日本にも共通するところがあります。だからこそ著者らはこの数十年前の戦争を取り上げ、研究をしようと思ったのではないでしょうか。