Stories of Your Life and Others by Ted Chiang
僕はほとんど小説を読まないのですが、これは面白い!8編の短編からなる短編集ですが、それぞれが全然違う文体とテーマで、驚きます。
短編と言っても、中短編というか、密度が濃いせいか普通の長編といってもいいと思います。
ジャンルとしては、サイエンス・フィクション、あるいはファンタジーということになるのでしょうか。現代の生活様式そのままではなく、そこに「もし」を持ち込んだもので、「もし」があるからこそ、問題意識が強く表現されているように感じます。
もともとこの本を読むきっかけは、映画"メッセージ"でした。この本の中の"あなたの人生の物語"が原作となっています。エイリアンとの交流によって得た、未来を知ることができる特殊能力と、未来のことが全てわかりつつ、その人生を運命として生きていくという世界観に感銘しました。映画がエイリアンとの交流に重心があるのに対して、原作では「あなたの人生」に焦点が当たっているところが違いましたが、ほぼ小説の世界観を再現していると言っていいのではないでしょうか。
僕がこの短編集の中で一番心が動かされたのが、"地獄とは神の不在なり"です。
天使の降臨と天変地異を同期させて、神の意思を表現しています。神は公正ではなく、優しくなく、慈悲深くない。神の行いをギフトとして受け入れること、それが信仰だということを言っています。登場人物の一人ジャニスは、生まれつき足がないことを、神が特別な使命を与えたと認識して人生を生きていきます。
これは僕にとっての一種の信仰体験でした。
作者によれば、ヨブ記の中で最後に神がヨブに報いることが不満だそうです。
作者は、僕とほぼ同年代、アジア系ということもあり、親近感を覚えます。
- バビロンの塔 "Tower of Babylon" (1990)
- 理解 "Understand" (1991)
- ゼロで割る "Division by Zero" (1991)
- あなたの人生の物語 "Story of Your Life" (1998)
- 七十二文字 "Seventy-Two Letters" (2000)
- 人類科学の進化 "The Evolustion of Human Science" (2000)
- 地獄とは神の不在なり "Hell Is the Absence of God" (2001)
- 顔の美醜について : ドキュメンタリー "Liking What You See: A Documentary" (2002)