2019年10月27日日曜日

しあわせの理由 / グレッグ・イーガン (2003)

これぞSFって感じですかね。
あまりこういった種類の本を読まないので、新鮮でした。
もともと読もうと思ったのは、テッド・チャンの「あなたの人生の物語」を読んだからでしたが、テッド・チャンの文体よりも、より「サイエンス」系でした。

生物学、数学、IT技術といった科学の断片が、深い理解を基に、しかも小説の中心になっています。多分、これはマニアにとってはたまらんのでしょうが、分からない部分を未理解のまま読み進めても面白いのが不思議なところです。

最終的に、空想科学を中心としつつも、哲学的テーマに迫っているのがすごいですね。もしこうなったら、どう考えたらいいのか?って感じで。

9篇の短編集ですが、どれもテーマが違い、よくもこれだけ考えられるもんだと感心します。

2019年3月14日木曜日

ソニー 盛田昭夫 / 森健二

“時代の才能”を本気にさせたリーダー

この本を読めば、経営は生きたきわめて人間的な実学だということが分かります。
理想を掲げ、ビジョンを持ち、製品にこだわるだけでなく、人を見出し、動機づけ、勇気づけ、応援し、先頭になって進んでいく。こういった姿勢が、会社という組織に命とやる気とやりがいをもたらし、文化を形成する。
任せるけど、自分が一番考える。だから周りのみんなもそれ以上に没頭する。

最後の方に、盛田の3代後の社長、出井伸之のことが語られています。彼は優れたアナリストであり、優れた経営戦略家だったようですが、それを実現する組織に命を吹き込むことができなかった。それが、ファウンダー世代と決定的に違うことだったようです。
そのあたりのくだりが、一番僕には響きました。

また、たいして英語も話せないのに、副社長自らアメリカに移住するところもすごいなと思いました。住むだけではなく、その人脈を広げる努力もものすごかったようです。
「自らチャンスを作り、チャンスにより自らを変える」を実践してるんですね。

https://www.diamond.co.jp/book/9784478028698.html

2019年1月23日水曜日

田中角栄 100の言葉 (2015)

日本人に贈る人生と仕事の心得

まあ、なんと読みやすい本なんでしょう。
角栄の一言が右ページにあって、左ページには写真と一言にまつわる多少のエピソード。

なぜこの100なのかは分かりませんが、心に響くのもいくつかありました。

  • 「手柄はすべて連中に与えてやればいい。ドロは当方がかぶる。名指しで批判はするな。叱るときはサシのときにしろ。ほめるときは大勢の前でほめてやれ。」
  • 「人から受けた恩を忘れてはならない。必ず恩返しをしろ。ただ、これみよがしに「お礼に参上した」とやってはいけない。相手が困ったとき、遠くから、慎み深く返してやるんだ。」

基本的には人間関係の政治家だったんでしょうね。義理と人情。人に関する深い洞察。人に信を得てものごとを進める。信を得ることはなんでもやる。
僕にないものを持っているので惹かれるのかもしれません。

小さい頃にロッキード事件が起こり、基本的には悪人のイメージがあります。しかし、人としては人間味にあふれた人だったんでしょうね。最近政治家田中角栄の見直しがされていると言いますが、政治家としてというより一人間として見直されるべきなのかもしれません。

https://tkj.jp/book/?cd=02373201

2019年1月4日金曜日

天皇と儒教思想 / 小島毅 (2018)

伝統はいかに創られたのか?

  • 古来中国では王の田植えと妃の養蚕の儀式が行われたことがあるが、日本においては田植えは昭和天皇が、養蚕は殖産興業のために明治期から行われたに過ぎない。
  • 神武天皇陵は、神武復古を唱えた明治政府が立派に整備したものである。ちなみに古墳は中世以降一顧だにされず、田畑として使われていた。そもそもある時期から明治になるまで天皇家は仏教徒であったため、火葬であり土葬である墳墓は造られなくなった。
  • 天皇が祖先を祭る皇霊祭というのは、仏教の彼岸の神道版として明治期につくられたものである。
等々、我々が日本の伝統として捉えてきたものが、明治以降の政権の思惑により、「つくり出されてきた」ものであることを数多く説明しています。
元号にしても一世一元になったのは明治天皇からです。
これが儒教思想という「思想」とは思いませんが、古代中国のの儀式、典礼あるいは朱子学などの儒教の教えから色濃く影響を受けていることが分かります。
そう思うと、日本の文化というのは、大和言葉に代表される日本古来の文化に、中国を手本とする各種の仕組みが混じり、さらに仏教思想が入り込んだ、結構グローバルな文化だと思えてきます。明治以降に西欧の文化を取り入れ過ぎたことに心情的には反対の気分ですが、古来からの文化交流を考えると当然なのかもしれないなと思いました。

第一章 お田植えとご養蚕
第二章 山稜
第三章 祭祀
第四章 皇統
第五章 暦
第六章 元号