2020年11月5日木曜日

夏への扉 / ロバート・A・ハインライン (1957)

The Door Into Summer by Robert A. Heinlein

「ひとつでも信じてることさえあれば扉はきっと見つかるさ
もしか君今すぐに連れて行けなくても涙を流すことはない
僕は未来を作り出してる
過去へと向かいさかのぼる
そしてピートと連れ立って君を迎えに戻るだろう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ
あきらめてしまうにはまだ早すぎる扉の鍵を見つけよう
もしか君今ここでやり直せなくても淋しく生きることはない
僕は過去から幸せをもち未来へ向かい眠るのさ
そしてピートと永遠の夏への扉開け放とう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ
心には冬景色輝く夏をつかまえよう
だからリッキーディッキータビーその日までおやすみ」

吉田美奈子の歌詞で山下達郎の曲がアルバムとして発売されたのが1980年。
この物語は、1970年と2000年が主な舞台になっています。
そして、ハインラインがこの物語を書いたのが1957年。すでに近未来のことから書き始めてます。

1970年において家事代行ロボットが既に世に出ており、コールド・スリープという技術までできています。

そして2000年には、新しい方式のジッパーが開発され、言葉の分かる人型ロボットが活躍し、タイムマシンまで(公ではありませんが)開発されています。


そこにあるのは、昨日より今日、今日より明日はきっと良くなる。そしてそれは科学技術によってもたらされる、という信念に近い世の中の空気です。夏への扉は諦めなければ人の力によってきっと開けられる。

リンドバーグが大西洋を飛行機で横断するのに成功したのは1927年。そのたった42年後には人類は月に降り立つまでになりました。原子力という夢のエネルギーを生み出し、遠隔に映像を映し出すテレ・ビジョンという装置も開発しました。ものすごいスピードで変わっていった時代だったんでしょう。

僕も小さい頃は、石ノ森章太郎や手塚治虫の漫画を読んで、近い将来、空飛ぶ自動車ができて、ロボットと共生する時代が来るだろうと信じていました。

最近になってようやくそういったことも現実化しそうな雰囲気になってきました。ようやくです。


2015年の未来に行ったマーティとドクは、立体ビジョンや空中スケボーと自動で伸び縮みする服のある世界を見ますが、現実の2015年はそんな世界ではありませんでした。そんな風に世界は発展しなかったのです。

開発のツケで環境汚染と二酸化炭素削減に取り組まざるを得ず、人口は爆発的に増えて、貧富の差は大きくなるばかり。

最も発展したのは、物理技術ではなく、もっと人間的な情報技術でした。インターネットの発展。パソコンを予想した人はいたでしょうが、それがコミュニケーション手段になっていることは想像できなかったと思います。バック・ツー・ザ・フューチャーにもスマホの姿はどこにもありません。


この小説を人気づけているのは、タイムトラベルというSF的要素だけではなく、ラブ・ストーリーだということでしょう。

ベルという悪役がリッキィとの恋のピュアさを引き立てています。

年の差をタイムトラベルによって超えた恋の物語はSFでしかあり得ませんが、どうしても主人公に肩入れしたくなる展開になっています。

そしてハッピィエンド。始まりが最悪だっただけに幸せな気分になります。


所々に布石があって、未来の後に過去が語られた時、あれはそういうことだったのか、と後で気付かされるのも面白いところです。


Get it on Apple Books

0 件のコメント:

コメントを投稿