2018年9月28日金曜日

孤高の挑戦者たち / 今北 純一 (1983)

―バッテル研究所―現代のピタゴラス集団

1983年といえば、僕が高3の時、さらに著者がバッテルに在籍したのは1977年から1981年なので、この本の主人公の時代は、もう40年も前になる。
その時代において、このバッテル研究所は、コスモポリタンで短期的なキャリアを積み重ねるプロフェッショナルが活躍する舞台だったのだということが分かる。
欧米の「プロフェッショナル」のイメージはこの本が確立したのかもしれない。

この本では3部にわたって、合計13人のプロフェッショナルが紹介されている。それぞれ、「燃焼」「科目」「孤高」「能動」「自己表現」「好奇心」「国際人脈」「潜在能力」「開講」「牽引車」「大転身」「行動」「五感」というタイトルがつけられているが、タイトルだけでは言い表せないような、個々人の人生の厚みがある。いずれも母国から離れ、自分を試すことを人生の主題にし、2年~3年というタームで職を変えている。

この中でも一番気になったのが、「牽引車」のタイトルがあるジャン・クロード・リシュー氏である。彼はあらゆることに頭を突っ込み、普通ではない数の案件をこなすが、会議などはできるだけ避けるような唯我独尊タイプの人間だが、関わった案件ではロコモティブとして成約に結びつける力を持っているために、誰も文句を言わない。その彼が管理職に抜擢されてからは、見事にマネジメントの力を開花させ、あれほど避けていた会議も立派に運営し、チームの力を最大限に発揮することにやりがいを見出した。この「ロコモティブ」と「マネジメントへの変身」が何か心を打った。

https://docs.google.com/document/d/1H4q-dZF80vBnFnUTpjvNsZStrMwr3b20fA96t1X5JAE/

2018年9月19日水曜日

江副浩正 / 馬場マコト,土屋 洋 (2017)

大学の同級生がリクルートに入社したのは1989年。その前年にリクルート事件があったばかりで、さぞ不安だったろうと思いますが、入社研修後の彼から聞いたのは、みんな「エゾリンって呼んでる」ということでした。バカ明るい会社だなあ、と思ったのを思い出します。

その後、何かの本で「自ら機会を創り出し 機会によって自らを変えよ」という江副氏が作った言葉を知り、非常に感銘を受けました。江副氏はこの言葉を社員全員の机の上に置くようにしたと言います。この本を読むと、この言葉は単なる掛け声だけでなく、江副氏の生き様そのもののようです。会社を興し大声で顧客のフロアで感謝を述べ、社員とのキャンプファイヤーでさだまさしを歌い、お世話になった人に贈り物をし、人の輪を広げて新しい事業に挑戦する。おそらく彼はまさしく自分でチャンスを作り、自分で自分を変えていったのだろうと思います。

江副氏の最大の功績は、リクルートという会社、企業文化を作ったことではないかと思います。リクルートは僕にとってはいつもあこがれの会社であり、若さあふれるバイタリティの会社でした。HRシステムを手掛けているときは、手ごわい絶対的なライバルでもありました。
常に高い目標に挑み、みんなで助け合い、若さを保ち、フランクであり公平、自由。彼の(自分で作っていった)個性にもよるし、彼の信条にもよるところが大きかったのだろうと思います。
この本では、実はそういった組織開発や組織を作る策については多くは語られていません。人間の輪郭を描き、もちろん内面までは踏み込んでいません。何せ本人ではないのですから。

目立たない学生だった江副氏が、東大新聞の広告営業として自分の才能に目覚め、おそらくそれが嬉しくて、ビジネスの道に邁進していったことは想像に難くありません。おそらく、自分がやっているビジネスの意味合いは後づけで、ビジネスをやる→うまくいく、というサイクルに快感を見出していたのではないかと思います。したがって、「誰もやらないことをやる」という哲学のもと、とりとめのない世界にビジネスを広げて行くことになったのではないでしょうか。住宅、回線リセール、不動産...。バブル期の高揚した社会の中で、バブルの波に乗った、典型的なバブル会社の動きをし、足元をすくわれてしまいました。
事業家としては、先を読む力があったとも言えますし、時代に踊らされたとも言えます。
リクルート事件が彼が今の僕より若い51歳の時だったというのは驚きでした。

リクルートイズムと言われる唯一無二ともいえる企業文化、これこそが江副氏の後世に残る作品だと思います。

https://docs.google.com/document/d/1fvTMM1BCKrzADIrfgTOcoJndUfB_A7-KR8CxRVKBM3Y/

2018年9月9日日曜日

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」 / 木村 泰司 (2017)

タイトルがイヤですね。でも出版社によるこのタイトルのつけ方が絶妙で、ベストセラーになっているのでしょう。

著者は「美術は見るものではなく読むもの」と言います。時代背景や歴史を知ったうえでその絵画を見、絵画に表そうとしている意味を解釈する、といったことが絵画鑑賞だということですね。
それが全てだとは思いませんが、歴史の流れの中の位置づけを知っておくと、より面白みが増すのは確かです。

僕は絵を見るのは大好きなのですが、タイトルや画家名や何とか派、というのが全く頭に入らないんですね。 でも、この本と、前に読んだ「鑑賞のための西洋美術史入門」(早坂優子著)のおかげで、だいぶ理解が進みました。「鑑賞のための西洋美術史入門」はカラーで絵がたくさんありますが、この本は、その時代の経済状況や国際状況が書かれてあるところが優っています。

グローバルなビジネスエリートになるためには、西洋だけでなく、東洋、とりわけ自国の美術史も理解する必要があると思いますので、出版社にはそちらもよろしくお願いしたいところです。

2018年注目の教養「西洋美術史」の面白さに迫る

2018年9月4日火曜日

仏陀 ―その生涯と思想― / 増谷文雄(1969)

タイトルにあるように、ブッダの生涯を簡潔にまとめ、教えの主なものを紹介した本で、時にはイエス・キリストとの対比なども交え、非常に平たい本だと思いました。

ブッダといえども、二千数百年前の人なので、はっきりした生涯は分からないのです。百年以後に書かれた経典(阿含経)などでその教えと、教えの中に垣間見れる生涯、あるいはアショカ王の碑文などからの推測になるようです。

生老病死、一切皆苦の根本原理は、正直よく理解できませんが、苦しい状況下では心の救いになります。楽と苦には縁があり、楽があるから苦が生じる、苦があるから楽もある。一切をあるがままに受け入れることが心の平和につながる。良くなりたいと渇望することが苦しみを生む。良くなりたいと思うことは大事だが、それにより苦しむことはない、それが解脱なのでしょうか。
自分、周りの人、社会、自然その一切を、あるがままに受け入れる。

一方でブッダは、宗教団体のリーダーらしく、正しい方向への道程も示しており、弟子たちとの問答でそれが表れます。現代の僕からみれば少し説教くさくも感じます。
神を信じるような宗教とは違い、人間が主人公の人のための教えを説いた偉大な人間であり、かつ穏やかで心広く理性的な人物像が浮かんできます。

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