2021年11月10日水曜日

夜来たる / アイザック・アシモフ

Nightfall and Other Stories / Isaac Asimov

名作「夜来たる」から数年間の、初期に書いた短編を自薦により集めています。

「夜来たる」は、SF雑誌の編集長から見せられた、エマーソンの「もし星が千年に一度、一夜のみ輝くとするならば...」という詩からインスピレーションを受けて2〜3週間で書き上げたものだそうです。
この短い詩から、この特殊な天体環境と人間心理を絡ませたストーリーをよく思いつくものだと感心します。
しかも、初めはどういう話かよくわからないのが、少しずつ状況がわかってくる語り口も巧妙です。

この前読んだ「三体」は、この小説から大きな影響を受けているように感じました。
複雑な天体運動と、繰り返す文明という「夜来たる」のモチーフを下敷きにしていますよね。
誰もが知るSFの古典なので、オマージュも多いのでしょう。

いずれの短編も宇宙と未来をテーマにしていて、SFの典型ですが、どれも着想が飛び抜けてますね。
こんなのを、人間が月へ行く十何年も前に書いたなんて。


夜来たる Nightfall (1941)

6つの太陽を持ち、夜を経験することがない天体に訪れる日食。その時人間(?)は...

緑の斑点 Green Patches (1950)

はじめ編集長により「不名誉な任務(Misbegotten Missionary)」と改名させられていた短編。セイブルック星では共同体原理で生命体の秩序が保たれている。生存競争を原理とする地球の生命が接触すると...

ホステス Hostess (1951)

ホーキンズ星からきた来た奇妙な生き物とのやりとり。異星人の目的は...?

人間培養中 Breeds There a Man...? (1951)

天才原子力科学者はクレイジー。1945年の日本への原爆投下によって、SFというものを深く考え直した怪作。

C-シュート C-Chute (1951)

閉じ込められた宇宙船の奪還劇。英雄的行動は理想主義が起こすものなのか...?


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2021年9月30日木曜日

トータル・リコール / フィリップ・K・ディック

We Can Remember It for You Wholesale and Other Stories by Philip K. Dick

やっぱ、SFは短編が面白いなあ。ブレード・ランナーの原作者 Dick の短編集。

10 の短編が収められていますが、そのうち2つは映画化されています。

1つは、表題の「トータル・リコール」。
Schwarzenegger 主演の大ヒット映画の原作になります。映画は面白い印象はなかったのですが、原作は奇想天外で面白いです。
「もし」に「もし」が重なり、不思議の世界に連れて行かれます。
タイトルも内容も「トータル・リコール」じゃないけどね。

2つ目は「マイノリティ・リポート」。
Spielberg 監督、Tom Cruise 主演の、これまた大ヒット映画ですが、Spielberg にしてはストーリーが追いにくく、ちょっとこむずかしい印象がありました。
原作のストーリーはだいぶ違ってますが、これまたストーリー展開が速い。めくるめく展開で、スピード感あふれる短編です。

やはりこの2編が断然面白いですが、それ以外の短編も予想しないシチュエーションで、さすが、という感想を持ちました。


  1. トータル・リコール "We Can Remember It for You Wholesale"

    火星に行くことに取り憑かれた主人公に、記憶埋め込み業が施術しようとしたら、逆に意外な過去が発覚した...
  2. 出口はどこかへの入口 "The Exit Door Leads In"
    懸賞に当たったのは策略で、あるところへ連れて行かれ、試験される...
  3. 地球防衛軍 "The Defenders"
    地下に潜った人間たちは地上で戦争が続いていると思っているが、実は...
  4. 訪問者 "Planet for Transients"
    放射能汚染で人間が住めなくなった地球には、環境に適応した変異種が...
  5. 世界をわが手に "The Trouble with Bubbles"
    世界を育てるゲームが大流行...
  6. ミスター・スペースシップ "Mr. Spaceship"
    人間の脳を宇宙船に搭載したら...
  7. 非0(null) "Null-0"
    共感能力を一切持たない、完璧なパラノイドが世界を還元する...
  8. フード・メーカー "The Hood Maker"
    内心の自由を剥奪された、テレパスによる監視社会...
  9. 吊るされたよそ者 "The Hanging Stranger"
    街頭からぶら下がる死体を発見したのは罠だった...
  10. マイノリティ・リポート "The Minority Report"
    プレコグによる犯罪予知システムに罠が...

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2021年9月22日水曜日

宇宙からの帰還 / 立花隆 (1983)

知の巨人と言われる立花隆氏が死去したことから、本書を読み返してみました。
彼の本を全て読破しているわけではありませんが、私が読んだ著書の中で一番印象深かったのがこの本でした。

いくつかの宇宙飛行士(アメリカの)のエピソードに入る前、宇宙に行くとはいかなるものか、を丹念に解説してくれています。
人間は宇宙空間では生きていけない。従って、人間が宇宙に行くときは、地球環境をそのまま持っていく、という当たり前といえば当たり前の説明があります。例えば、1Gの大気圧と窒素その他の空気の成分がないと、血液に酸素をうまく取り込めない。大気のシールドがないと紫外線に耐えられない。もちろん大気がないので、音は伝わらない。
そう、宇宙空間は無の世界、人間にとっては死の世界なのです。

月に行った宇宙飛行士は、自分と地球との強い結びつきを感じています。そこにしか自分が生きる環境がないと知覚するからこその感覚でしょう。
私たちが見る地球の写真は、「それ以外」の部分があまりありません。月から地球を見た宇宙飛行士の目には、地球以外の「無」の空間が無限に見えたことでしょう。地球はマーブル大に見え、それ以外は漆黒なのです。エーテルで満たされているのではなく、無=死なのです。
地球の美しさは奇跡だと感じるのも、地球環境に生を受けた我々人類だからこその感覚かもしれません。太陽に反射する海と大気の青と水蒸気の白、大地の色。それは私たちの生を育む貴重な環境だからです。少なくとも月の上からは、同じような環境の星は見当たりません。

月には神がいた、と感じた宇宙飛行士も何人もいました。あまりにも生活に密着した地球では感じられない感覚だと思います。想像でしかありませんが、きっと僕も月に行けたら同じように感じるに違いないと確信しています。宇宙の存在自体が神だと感じるでしょう。
思えば、圧倒的な自然の力が大きかった太古の世界では、もっと神を感じることができたのかもしれません。神を感じてきた人類が、言葉文明を持ち出した時期に宗教が成立し、今に伝わっているのは、文明以降神を感じることが希薄になったからかもしれません

月に行かずとも、宇宙から地球を眺めることができた宇宙飛行士は、人類の同一性を感じています。民族の違いはマイナーな違いでしかなく、土地にはもちろん国境もない。One Nation とでもいうのでしょうか。これは比較的想像しやすい、身近な感覚です。これから始まる宇宙旅行時代では、この感覚が一番感じやすいのではないでしょうか。

宇宙をこういう知覚で捉えようとする人類の知性は、大気と水と適当な重力がある地球という特殊な環境下で発達した特異なものなのか、それとも、宇宙が初めから内在している進化の帰結なのか。この広い宇宙には、人類と同じような知覚を持った生命体がいるのか、それとも、全く違う知覚を持った生命体がいるのか。それとも、生命体という捉え方自体が、特異なものなのか。

昨日は中秋の名月でした。犬の散歩のとき、東の空に大きく満月が出ていました。犬は当然「月」自体を認識していないのでしょう。関心がなさそうです。


宇宙からの帰還
第一章 上下・縦横・高低のない世界
第二章 地球は宇宙のオアシス

神との邂逅
第一章 伝道者になったアーウィン
第二章 宇宙飛行士の家庭生活
第三章 神秘体験と切手事件

狂気と情事
第一章 宇宙体験を語らないオルドリン
第二章 苦痛の祝賀行事
第三章 マリアンヌとの情事

政治とビジネス
第一章 英雄グレンとドン・ファン・スワイガート
第二章 ビジネス界入りした宇宙飛行士
第三章 宇宙体験における神の存在認識

宇宙人への進化
第一章 白髪の宇宙飛行士
第二章 宇宙体験と意識の変化
第三章 宇宙からの超能力実験
第四章 積極的無宗教者シュワイカート


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2021年7月23日金曜日

華氏451度 / レイ・ブラッドベリ (1953)

Fahrenheit 451 / Ray Bradbury

紙は華氏451度(摂氏233度)になると燃え始める。本を焼くというテーマからつけられた題名です。

文体(と言っても訳文ですが)は非常に独特で、こんな書き方をする作家は初めてでした。
ややもすると難解に感じられるほど、細部を書き込んでいます。

全体は3部で構成されていますが、それとは関係なく前半と後半に分かれます。ちょうど分量も。
背景描写を丹念に書き込んだ前半が静だとすると、後半は一気にダイナミックに展開し、大きくストーリーも動きます。

こんなのをよく映画化したなと思いますが(Truffaut の映画は実際観ていません)、後半はアクション映画に向いているかもしれません。

戦後のマッカーシズムへの異議申し立てとして焚書というテーマを取り上げたのはちょっと無理を感じましたが、これがクライマックスへ結実していくというのは想像がつきませんでした。

サイエンス・フィクションというよりは、カルチャー・フィクションって感じでしょうか。


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2021年6月26日土曜日

われはロボット / アイザック・アシモフ (1950)

I, Robot / Isaac Asimov

冒頭で、ロボット工学三原則が示され、小説ではこの原則によりロボットの行動が解き明かされていきます。

第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条:ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条:ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

この三原則はアシモフの創作で、ロボットが人間を襲う的なフランケンシュタイン・コンプレックスに対する安全装置です。

同じ三原則をテーマとした短編集ですが、全体としては、USロボット社の主任スーザン・キャルヴィンの回顧録という形を取っており、一貫性が保たれています。

このキャルヴィンは、なんと「ロボット心理学者」であり、三原則に則りロボットがどういう思考回路で、なぜ不可解な行動を取るのかというのを解明していきます。そんなような職業が今後出てくるとは思えませんが、三原則も含めこのへんがアシモフの独創性の高さでしょうね。

1950年という、第二次世界大戦が終了して間もなくの頃に、こういった完成されたロボットの小説を書くというのはすごいことだなと思いました。2021年の現代ではまだ産業用ロボットがほとんどで、人型ロボットはニーズすらはっきりしませんが、ピノキオにあるような、人に仮託するものは想像がしやすいのかもしれません。


  • ロビイ(Robbie):子守りロボット「ロビイ」と少女グロリアの物語
  • 堂々めぐり(Runaround):水星の採鉱ロボットの救出劇
  • われ思う、ゆえに…(Reason):ロボットの存在意義の自覚
  • 野うさぎを追って(Catch that Rabbit):6台のサブ・ロボット付ロボットの行動
  • うそつき(Liar!):人間の心が読めるロボット?
  • 迷子のロボット(Little Lost Robot):第一原則が改変された実験型ロボットを見つけ出せ
  • 逃避(Escape!):人工頭脳による星間航行用エンジンの設計
  • 証拠(Evidence):政治家はロボット?
  • 災厄のとき(The Evitable Conflict):ロボットによる統治


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2021年6月9日水曜日

三体 / 劉慈欣 (2008)

世界的にヒットしている SF ということで読んでみました。

中国の文学ということで、国家礼賛的な先入観があったのですが、全くそんなことは感じませんでした。
逆に、冒頭の文革時代の苛烈な表現が、政治的に大丈夫か、と思うくらいでした。

小説としては、非常に面白かったです。
エンターテインメントですね。

謎解きの要素が多分にあり、結末はどうなっていくんだろうというワクワク感、この人の役割は何、という謎感で、グイグイ引き込まれます。科学の部分も分かりやすく、初心者的レベルの満足を与えてくれます。

残念なのは、終盤の三体世界の描写です。
全ての謎が明らかになるのですが、それが若干チンケというか、無理矢理というか、ちょっと非科学的というか。
デスラーやスター・ウォーズみたいな安っぽい感じになってしまいました。

でも、途中までは十分楽しめました。


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2021年5月20日木曜日

君主論 / ニッコロ・マキアヴェリ (1532)

Il Principe /  Niccolò Machiavelli

マキアヴェリが士官のために書かれた、君主が力を発揮して国を支配するためにどうしたらいいのかを論じた古典です。

過去の君主を類型化して、汎用化を図ろうとしたものです。

日本で言えば、戦国時代の大名のあり方なんかを書いたもののように思いました。
下克上あり、恐怖政治あり、暴力がものを言う世界での生き残り方に近いように思いましたので、世間一般に言われているほどひどい表現はなかったのが正直な感想です。

全体は、論ずるテーマによっていくつかのグループに分けられ、前半は国あるいは軍事の側面で書かれています。興味深かったのは、後半の君主の資質に関するグループです。
「愛されるより恐れられる方がはるかに安全である」
「運命の風向きと事態の変化の命じるがままに、変幻自在の心構えを持つ必要がある」
「決断力のない君主は、当面の危機を回避しようとするあまり、多くの場合中立の道を選ぶ。そして、おおかたの君主がほろんでいく」
とまあ、色々な定説に溢れていて、そういうシチュエーションになったとき、ああそういやそんなこと「君主論」に書いてたな、と思い出しそうな感じです。

ちなみに、本来タイトルはなかったそうで、タイトルは本の内容から他人によってつけられたようです。僕はイタリア語は全くわからないのですが、Il Principe とは The Prince ということらしいです。


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2021年5月8日土曜日

星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン (1977)

Inherit the Stars / James P Hogan

宇宙をテーマにした壮大なSFです。面白い!

太陽系をステージにしているので、宇宙全体の広がりは限られますが、時間の単位が想像できないくらい長大です。

フィクションとはいえ、あくまでリアルで、科学に立脚しています。これ、ホントじゃないの?と思うくらいです。
こういうのをハードSFと言うらしいのですが、SF初心者の私には違いはよく分かりません。
宇宙物理×生物進化学×謎解き×SFってところでしょうか。

月で発見されたヒトの死体が5万年前のものだった、というスタート時点でもう引き込まれます。
サスペンス的に、謎解きが続き、長編小説ですが最後まで楽しませてくれます。
ガニメデにまで行って、しかもそこで発見された宇宙船が1,200万年前。
エピローグで出てきた巨人と、ガニメデで発見された巨人は関係があるのか?
他の動物と比べて超越している人類の起源は?
あとから地球の衛星となったと言われる月の存在は?
途中まで「こうじゃねえの?」と答えが見つけられないまま、フィナーレで全貌が明らかになるところは、ストーリー展開が素晴らしいんでしょうね。

細かく見ると、そんなの成り立たないだろう、と思いますがエンターテインメントとしては十分です。
これ、映画化されてないんですかね?いかにも映画的な描写で、映画向きだなあと思うのですが。

1981年第12回星雲賞海外長編賞


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2021年1月4日月曜日

祈りの海 / グレッグ・イーガン

Oceans / Greg Egan

90年代の中短編を日本独自に編集した一冊ですが、僕は、SFは長編より、短編の方が好きです。

SF はいつも根柢の前提を覆してくれます。もしもこの世の中がこうだったら、人間はどうなるのか?

しかし、Greg Egan はよくもまあこれだけ違うシチュエーションを思いつくもんだと感心します。

そして、この中短編集でも、様々な「もしも」で、僕の宗教感、思想、意識をくすぐってきます。なかなか沁みついた常識をはなれることができず、ストーリーを理解するのが難しいところもありますが、それだけに味わい深い展開になっています。

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