2017年5月5日金曜日

人材覚醒経済 / 鶴 光太郎 (2016)

政府の規制改革会議のメンバーであった著者が、ここ10年ほど関わっている労働・雇用分野におけるテーマを総合的にまとめた著作といえるのではないでしょうか。

単に意見を述べるだけでなく、欧米との制度比較などの実証を多く積み上げ、自論を構成しているところが見事です。参考になります。

いちばん大きな提案は「ジョブ型」社員のデフォルト化です。言われるように数多くの現在の日本の問題を解決するソリューションであろうと思いますが、企業が前提としている雇用システムのすべてに影響を与えることになるので、一朝一夕では進まないことが予想されるのが残念です。

序章 人材覚醒——アベノミクス第三ステージからの出発

次の4つにより人材覚醒経済を実現する。
  1. 「ジョブ型社員+夫婦共働き」のデフォルト化とICT徹底活用による新たな働き方の普及による「多様な働き方改革」
  2. 健康の確保、公平公正な処遇の実現、雇用の入口・出口の整備による、「多様な働き方改革を支える環境整備」
  3. 社会保障制度改革などの「働き方改革と補完的な公的インフラ整備」
  4. 性格スキルの向上と新たな機械化と補完的スキルの養成による「教育・人材力強化」

第1章 問題の根源——無限定正社員システム

「メンバーシップ制」「企業別労働組合」「後払い賃金」「遅い昇進」「頻繁な配置転換、水平的なコーディネーション」「解雇ルール (解雇回避義務)」「家族システム (正社員が男性中心)」を特徴とする、日本的な無限定正社員システムが、次の問題を引き起こしている。
  1. 正社員の新規採用・賃金抑制、有期雇用(雇用が不安定)の大幅増
  2. ワーク・ライフ・バランスが掛け声ばかりで進まない。
  3. 女性の労働参加、活躍を阻害。
  4. 「何でも屋」=特定の能力や技能を身につけにくい。

第2章 人材が覚醒する雇用システム

次の雇用システムを提案する。
  1. ジョブ型正社員:労働条件明示、後払い賃金システムの見直し
  2. ICTを徹底活用:時間、場所を選ばない働き方へ
これらにより生産性を高めると同時に、働き方や従業員の異質性・多様性を活かしたイノベーションを起こす。

第3章 女性の活躍を阻む2つの壁

長時間労働と女性活躍の相関は高い。男性の長時間労働や長期雇用慣行などの無限定な働き方を改める必要がある。
女性活躍のため女性たちは「男」になることを求められたが、夫が限定的な働き方を選ぶということも重要。夫の家事・育児参画(日常的なサポート)が妻の就業に影響を与えることが分かっている。

第4章 聖域なき労働時間改革——健康確保と働き方の柔軟化の両立

労働時間規制は健康確保のために行われるべき。残業上限の他、インターバルや労働時間貯蓄制度などが参考になる。

第5章 格差固定打破——多様な雇用形態と均衡処遇の実現

有期雇用増大により、かえって生産性が落ちている。賃金格差も問題だが、職能給が中心の日本では同一労働同一賃金へのハードルは高い。また、最賃の引き上げは、逆に雇用減少につながり低所得者対策としては効果が薄い。

第6章 「入口」と「出口」の整備——よりよいマッチングを実現する

定年を残して有期による雇用継続をするとした現在の制度の維持は難しい。賃金の後払いを是正して、賃金カーブをなだらかにする必要がある。
また、解雇の場合の金銭的解決は労使双方にメリットがあるが、様々な問題をクリアする必要がある。

第7章 性格スキルの向上−−職業人生成功の決め手

人的資本・人材力の強化のために、「性格スキル」の向上が必要。家庭、学校教育に引き続き、職業上での教育も重要となる。

第8章 働き方の革新を生み出す公的インフラの整備

社会保障制度を見直すと同時に、政策決定プロセスも見直す必要がある。

終章 2050年働き方未来図——新たな機械化・人工知能の衝撃を超えて

技術進歩によりなくなる仕事もあるが、代替が効かない仕事もある。機械化と補完的スキルを身につける必要がある。

書評 : http://style.nikkei.com/article/DGXKZO09978810W6A121C1MY5001

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