2017年5月2日火曜日

チャーチル・ファクター / ボリス・ジョンソン (2014)


THE CHURCHILL FACTOR
How One Man Made History / Boris Johnson


「チャーチル的要素とは」を問う長い思考的伝記であり、没後50年を記念した長編でもあります。

融和策の嵐の中でたった一人でナチスに立ち向かい、その後の世界を作った、という基本認識の下、彼のいいところだけではなく、失敗したことや、過ち、失言なども率直に取り上げ、公平に評価しているところが気に入りました。

著者(ロンドン市長、保守党下院議員)自身、チャーチルが死ぬ1年前に生まれたので、時代の空気感は分からないのですが、丹念にいろいろな材料から拾おうとしています。
1940年より前のチャーチルは政治的にも、軍事的にも失敗の山のようです。
よくこれで政治家として生き残れたなと思います。しかし時代は彼を首相にする、ということですから、失敗の山だけでは測れない「何か」を持っていたんでしょうね。彼の気質、勇気、意思を通す押し出しの良さ、ユーモアなどでしょうか。著者はその、失敗を恐れない、間違いをおかすことをいとわない精神、リスクを冒す意欲を賞賛しています。
スキルとしては、言葉の使い方かもしれません。多くの詩を諳んじていたようですし、意味と同じく響きも大切にしていたようです。

しかも彼のすごいのは、いいところばかりではないということです。下品なジョークを言い、人種差別的であり、大酒飲みであり、太っていて背が低いブルドッグ、数学には弱く大学も入れなかった、しかも失敗続き。それでも自分を信じて突き進みます。
人に認められたいという自己顕示欲もあるんでしょうが、それを超越した自信は母や乳母から愛されているという何にも代えがたい心の芯があったからのように思えてなりません。そう思うと、親というものの存在価値は大きいなと思います。結果的には世界を変えてしまったのですから。

著者自身が首相を目指す政治家であることから、純粋なチャーチル像というよりは、自身の政治信条を重ね合わせた政治主張の部分も含まれているかもしれません。

序章 チャーチルという犬
第1章 ヒトラーと断固として交渉せず
第2章 もしチャーチルがいなかったら
第3章 裏切り者のいかさま師
第4章 毒父、ランドルフ
第5章 命知らずの恥知らず
第6章 ノーベル文学賞を受賞した文才
第7章 演説の名手は一日にして成らず
第8章 尊大にして寛大
第9章 妻クレメンティーン
第10章 代表的英国人
第11章 時代を先取りした政治家
第12章 報復にはノー、毒ガスにはイエス
第13章 戦車の発明者
第14章 超人的エネルギー
第15章 「歴史的失敗」のリスト
第16章 同盟国フランスの艦隊を撃沈
第17章 アメリカを口説き落とす
第18章 縮みゆく大帝国の巨人
第19章 鉄のカーテン
第20章 ヨーロッパ合衆国構想
第21章 「中東問題」の起源
第22章 100万ドルの絵
第23章 チャーチル・ファクター

書評:http://president.jp/category/c00275

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