2015年12月22日火曜日

ランド 世界を支配した研究所 / アレックス・アベラ

原題は"Soldiers of Reason: The RAND Corporation and the Rise of the American Empire"ということだから、「合理性の兵士:ランド社とアメリカ帝国の勃興」といったような意味でしょうか。
"RAND"とは、"Research and Development"の略なので"R&D"ということになります。

第2次世界大戦後、空軍のシンクタンクとして始まり、冷戦時の核戦略理論の支柱となり、ケネディ政権に大量に人を供給し、レーガン政権で軍拡を先導し、ブッシュ政権ではネオコンとしてイラク戦争を主導していきます。
初めは、対ソ連という反共から、次第にアメリカ的理想と合理性を追求し、世界をアメリカ的にしていくことが組織の目的となっていく姿を描いています。

レーガン以降は、ランドが直接関与したというより、ランドの中心的人物でこの本の主人公のようになっているウォルステッターのシカゴ大学時代の教え子や信奉者たちの活躍ということになります。
ラムズフェルド、ウォルフォウィッツ、リチャード・パール、コンドリーザ・ライスたち。無能なブッシュは、多様な意見を尊重せずに彼らだけを信じて、無謀な戦争に突き進んでいってしまったのでしょう。

第二次大戦での日本への無差別空爆と原爆投下について、著者が批判しているところはアメリカの良識を感じます。
あとがきの冒頭で取り上げている「もしこの戦争に負けていたら、我々は全員、戦争犯罪人として刑事告発されていたことだろう」というルメイ元空軍将軍の言葉はいろいろ考えさせられます。
第一次大戦は一時はドイツが勝利の直前まで行ったことを考えると、単に勝負に負けただけで、国家破産寸前まで賠償を負わされたことは理不尽に感じます。
日本もバカな戦争はしたけど、自己否定をするまでは悪行を尽くしてたわけではないのです。

2015年12月7日月曜日

ジャック・ウェルチ わが経営 jack:Straight from the Gut / ジャック・ウェルチ、ジョン・A・バーン

上巻にほぼすべてが詰まっています。
官僚主義の打破、バウンダリレス、ワークアウト、家族的な雰囲気...
自分らしくあろうとし、巨大な会社組織と敢然と戦いを挑んだ勇気ある男の物語です。

ここにあるのは、会社への愛でもなく、事業への執着でもなく、ただ自分でありたいという思いだけです。母の教えと愛情が強調されています。
みんな官僚主義は嫌いですが、普通はここまでやれません。創業者でもないのに、大企業を文字通り「変革」したのですから、ものすごいことです。

下巻は、4つのイニシアチブ(サービス化、グローバル化、シックスシグマ、Eビジネス)やNBC買収などについて書かれていますが、自慢話にも聞こえるし、アメリカに生活してなければ、ピンときません。
しかし、こういった戦略は当時の日本侵攻の危機意識から来ていますし、シックスシグマやバウンダリレスなどは日本経営から学んだことだろうと思いますので、少し日本を誇らしく思います。

僕は、本人に接したことがないので、確たることは言えませんが、目の前の存在だとしたら、正直苦手なタイプですね。自信家で押しが強い、自分が触れたものを推し、時には強圧的、冗談が笑えない。避けたいですね。

しかし、名だたる経営学者やコンサルタントは、いまだウェルチのやり方の影響下にあるのではないかと思うと、本当に不世出の経営者だなと感心します。
ただ、この本に書かれてあるのは神のような経営者ではありません。

2015年11月14日土曜日

14歳からの哲学 考えるための教科書 / 池田晶子

最初は考えることとは何か、から入り、少し面倒な感じがしたし、科学(物質科学)よりも精神を優先する考え方はなじまないところもあったが、はっと気付かせてくれることもいくつかあった。

まず、自分を愛する、ということだ。自分を愛せない人がどうして他人を愛せるのか。愛するということと愛されたいということは、全く違うことを言っている。
ホイットニー・ヒューストンの歌にもあるように、自分を愛することは最も大切なことなのだ。自分の可能性を信じることができる人になってはじめて、人を応援できるようになる。

それと、死の意味と「今」ということだ。
宇宙は膨大な継続が続いており、僕もその継続、そして宇宙の一部である。地球上の生物はDNAのキャリアととらえたのは、ドーキンスだった。その意味で死というは意味を持たない。したがって死は恐れることではないのだ。
死を恐れず、「今」は自分の可能性をただ応援すること、そういう生き方を続けることだ。

すべてのものは二度作られる。人の「理想」が現実を作り上げる。これも忘れてはならない。

2015年11月7日土曜日

ジャック・ウェルチのGE革命 / ノエル・M・ティシー, ストラトフォード・シャーマン

ジャック・ウェルチは前世紀後半のアメリカ企業をリードしたスター経営者であるのはもちろんだが、いまだに日本でも最も影響力のある人ではないだろうか。

この本の日本版の題名には「革命」という言葉が使われているが、本書を読むとまさしく「革命」的だということが分かる。事業を売り買いし、従業員を不安に陥れ、新しい価値観を示し、組織内の討議で価値観の共有を進めていく。ある意味、共産主義革命や毛沢東のやり口と似ているのかもしれない。

驚愕なのは、こうしたことを始めたのが、GEが業績的に絶好調だった時だ、ということである。リーダーにとって、時代を見通し先取りする力の重要性が分かる。あるいは、ウェルチが傍流の小さな事業部門出身だということも関係しているのかもしれない。巨大な官僚組織や内向きの組織風土に辟易していた、ということは容易に想像がつく。

いずれにしても、こうしたことを進めていくには、驚異的な精神力が必要だろう。アイデアを思い付いても、強力な抵抗に合い、精神的にズタズタになるからだ。最後の本人へのインタビューで、「多くの人に同意を得ようとしすぎで、実行が遅くなってしまった」と言っているように、強靭な精神力で力づくで推進していったのではなく、ウェルチ自身も悩み、苦しみながらも、タフでフェアな経営者たらんと努力した結果なのだということも感じられ、少し安心した。

この本は、偉大な経営者や改革を進めた当事者の自慢話ではなく、改革の途中の社内の混乱や抵抗も描いた、トゥルー・ストーリーです。

2015年10月25日日曜日

学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話 / 坪田信貴

これは、能力のリミッターを外すことを教え、目標に到達する「方法」で指導した講師と、素直にそれを信じて頑張った本人の物語であると同時に、徹底的に娘を応援しきった母親の物語でもあります。この母親の、育て方に対する信念が、本人をここまで導いたんだろうと思わせます。

髪を染めスカートを短くし、夜な夜な遊び歩き、授業中に居眠りばかりするわが子を信じ、咎める学校にも抗弁する。徹頭徹尾子どもの味方になる。しからない。なかなかできません。
最後に味方になってくれる人がいたから、人から見ればバカバカしいと思われるような高い目標を受け入れられたのではないでしょうか。勇気とは、人の目線を気にしないことなのかもしれません。まず、自分。7つの習慣の第一です。

育て方の違いからギクシャクしていた夫婦関係も、子の頑張りを機に修復していったようです。そうありたいものです。

2015年10月24日土曜日

直観力 / 羽生善治

「ただひとつ思っているのは、少なくとも今自分が思い描いているものとは違う姿にはなっていたいということ。」

ピカソしかり、マイルス・デイビスしかり、偉大なアーチストに共通するスタンスに思えます。
変化への挑戦、なのか、何か新しいことへの興味、なのか。
やはり、守りに入っちゃいけないんでしょうね。

「現状への不満足ではなく、違う何かを探し求めていく姿勢」
こういう考え方の転換は難しいようにも思えます。
がんばります。

2015年10月17日土曜日

甘えの構造 / 土居健郎

最近「甘えの構造」という言葉を2度聞いたので、一度本を読んでみようと思った。

ここで言う「甘え」とは依存欲求のことであり、西洋社会と日本との対比の中で、日本はこの依存体質が特徴的な社会だということを縷々述べている。
もちろん、依存体質がいい、悪い、ということではなく、人と人との依存関係が強い社会だ、ということである。むしろ「甘え」の社会の豊かさを説いた本とも言える。

一番興味深く読んだのは、「甘えと自由」の項である。
自由(Freedom)は、西洋、特にキリスト教に特徴的な概念で、個人と神との関係の中で、個人が起立しているという思想だ、とのことである。個人主義と自由主義は、神との関係の中で結びついているのである。
そう考えると、自由主義というのは実はキリスト教の思想であり、人類普遍の思想ではかったのだ、ということに思い至る。アメリカが自由のために戦う、と言っているのは、キリスト教的信条の押しつけとも言える。戦後の日本はあまりに、このアメリカ的考え方に洗脳されてきたのだろう。もうすでに、個人主義、自由主義は「当たり前」のこととして考えられている。

明治のエリートはお国のために一生懸命だった。戦後のサラリーマンは会社のために一生懸命に働いた。こういうメンタリティは、少しずつ薄らいできている。日本人らしい「甘え」が少しずつなくなっていくが、それほどドラスティックにも変われない。これから日本人はどこに向かっていくのだろう。

2015年10月11日日曜日

武士道 / 新渡戸稲造

北大のポプラ並木で、新渡戸稲造の銅像を見たことがきっかけで読んでみました。

明治時代にはまだ色濃く「武士の世」が残っていて、列強の侵略を受けなかったのは武士道があったからだと、強く信じていたのでしょう。中国との対比において、そう信じることもできます。

西郷隆盛は武士身分の廃止に反対したようですが、慧眼とも言えます。しかし、諸外国に負けないためには避けては通れないことだったとも言えます。
  • 義ー誠実と正義
  • 勇気ー大胆さと忍耐の精神
  • 仁「慈悲心」―人の苦しみを感じる心
から続き、以下、礼儀、名誉、忠義、克己心等々と続いていきます。
幕府側も朝廷側もいずれも武士だったわけで、忠実に武士たらんとした競争が維新の原動力になったのかもしれません。

現代に生きる我々は、胆力や、自分への厳しさという武士の精神に思いを致し、同じ日本人として受け継ぐことが必要でしょう。

なお、訳者の倉田さんは高松大手前の先生ということで、少し親近感を感じました。

戦略プロフェッショナル・経営パワーの危機 / 三枝匡

いずれの本も実話をベースにしたケースで、おそらく主人公は著者本人だろう。修羅場を経験しての、経営者としての成長を描いている。

<戦略プロフェッショナル>
少し問題のある事業部門が、一人の戦略リーダーによって劇的に変わり、シェアが逆転していくストーリー。
  • 情報を集め、技術優位性、市場ポジション、価格決定のロジックを見極める
  • ユーザに会う
  • 社内体制の強み弱みを見極める
  • 競合の力を探る
  • 時間軸を見定める
  • 営業戦略を立てる
  • 市場をセグメント化して営業する
といったことを主人公は主導していく。
結局年7台しか売れなかった製品を、年150台売れるようにしていった。
キーは「戦略」。戦略論の知識があるだけでなく、実際に使うことが重要だ。

<経営パワーの危機>
経営危機に陥った中堅企業に社長として送り込まれたリーダーが、会社を変え、成長軌道に乗せていく。
  • 部門間の壁を取り払い、協力体制をひく
  • 戦略マトリクスを使い、成長のマップを描く
  • 開発を絞る
  • 人間関係に気を配る
  • 慢心しない
経営トップになるということは、今までの部門の長と違い、大きな責任、重圧、バランス感覚、リーダーシップが必要となる。
その中で、戦略を作り、みんなを巻き込んでいくことが必要だ。

いずれのストーリーも、ある戦略アイデアを基に、うまく組織を変えていくことがベースになっているが、そのアイデアの源と苦悩をもっと知りたい。
「改革中は大部屋で」「朝早く来て、少人数で朝会をする」「親会社の都合の人事は断固拒否する」、僕の関わった事業部門の再建の道のりでやられたことは、ここでも再現されている。
僕がやろうとした、各部門をまたいだ責任者を作ろうとしたことは間違いじゃなかったのだ、と思える。

2015年9月22日火曜日

偶然とは何か / イーヴェル・エクランド

「北欧神話で読む現代数学理論 全6章」という副題がついているように、北欧の荒っぽい神話をきっかけに、偶然とは、運命とは、予想とは、カオスとは、リスクとは、統計とは何か、を哲学的見地を交えながら綴っている。
人為的に「偶然」を作り出すことは非常に難しそうだ。
いかに我々はこの偶然に満ちた世界を、統計的経験値に基づいて生活しているのだろう。量子論が出てきたのは物理学にとって、生まれもっての必然だったのかもしれない。
数学は数字遊びではなく、自然を表現するためにある。

自然の法則を解き明かそうという、こういった試みはとてもクールだと思うが、なにせ数学が苦手だった僕には、残念ながら難しかった。

2015年9月8日火曜日

日本の「運命」について語ろう / 浅田次郎

「語ろう」というだけあって、講演録でした。
しゃべったものなので、非常に読みやすい内容です。
日本の近代、現代史についての洞察が多くあるのかと思っていましたが、そうでもありませんでした。正しく歴史を知ることが大切だ、と主張されていますが、中身は僕の理解しているものと大筋では一致していたからです。
ただ、中国についての歴史については僕の知らないことが多く、科挙の歴史や、北方民族国家の清によっていくつかの中国のイメージができていることなど、面白く読めました。あるいは参勤交代の蘊蓄もなかなかでした。

2015年8月22日土曜日

俘虜記 / 大岡昇平

戦後70年、改めて「俘虜記」を読んでみた。
米軍に捉まるまで、俘虜となって米軍病院での入院生活、俘虜収容所生活、敗戦、敗戦後の収容所の堕落、帰国と、それぞれでテーマが変遷している。
捉まるまでは、自身の生と死の葛藤、米兵をなぜ殺さなかったかを描いている。(が、少し弁解気味のところもある)
俘虜生活は、日本社会の縮図模様、人間のエゴを描いており、冷徹な観察眼とニヒルな文体に好感が持てる。戦後に書かれたとはいえ、戦中派のまっとうな市民の感覚が表わされているようだ。
一番胸に迫ったのは、敗戦の項だ。単純に負けた悔しさと、国家をつぶしてしまった悔恨(偉大な明治の先人の功績を3代目がつぶしてしまった)、軍部への怒りが表わされている。米軍では8月10日にポツダム宣言受入れの打診があり、収容所では8月10日が敗戦の日と認識されている。
戦争小説というよりは、戦争を題材にして、生と死、人間社会を描いた批評小説である。

2015年7月25日土曜日

JFK未完の人生 / ロバート・ダレク

"An Unfinished Life JOHN F. KENNEDY 1917-1963 by Robert Dallek"

アレックス・ファーガソンの自伝で紹介されてたのをきっかけに興味を持ちました。過半が大統領になる前までが書かれてますが、やはり興味深かったのは大統領になってからですかね。

大統領になる前の姿は、不完全な、少し偏った政治家像として描かれています。
大統領になってからは、いろいろな事案に対処する中で、まさに学習を繰り返して政治家として成長していったようです。その意味では成長途中での暗殺は、まさに彼の人生が「未完」だったと言えるでしょう。
ピッグス湾、ウィーン会談、キューバ危機、ベルリン危機、公民権運動、宇宙開発、ベトナム、核実験制限...よくもこれほど事件が起こるものだと思いますが、これらを「ブライテスト」の仲間の意見を集約しながら対処してきた姿は身近に感じます。

よく言われるように、彼の大統領としての実績はそれほどではないのですが、大統領としての人気は絶大なものがあります。僕が生まれる前のことなので、時代の空気は分かりませんが、おそらく人々はこの若くて志のある政治家を、自分の延長として感じていたのではないでしょうか。必ずしも成熟していない政治行動も、成金家族によるバックアップも、TV映りも、ウィットも親近感を得たのだと思いますし、こうなりたい、おうありたいというあこがれの姿だったのでしょう。

「経験」と「学習」(正しく認識して、正しく教訓を得る)が、何事にも大切なんだなと思いました。
松狛社

2015年7月11日土曜日

異端児たちの決断 日立製作所 川村改革の2000日 / 小板橋 太郎

日立が真のグローバル企業に変身していった数年間を、ドキュメンタリー風に追っていますが、なぜグローバル企業になろうとしたのか、その施策によってなぜグローバル企業に変身していったのか、そのあたりの分析はなされていません。あくまでドラマですね。
したがって、再現性のある施策の参考にはなりません。
ただ、川村氏のように、「終わった」人を起用して、ドラスティックな改革を断行していったところに、日立の奥深さを感じました。
以前松下と一緒に仕事をさせていただいた時と同じような、ロジカルを貫き通す、ある意味の「軽々しさ」です。