2017年11月20日月曜日

虹色のチョーク / 小松成美 (2017)

川崎市にあるチョーク製造会社、日本理化学工業の物語です。
社員の4分の3が障害者という会社です。
ここで語られているのは、働くことの喜び。「働く」ということが素朴に喜びになることを再発見したことの驚き。そういうことです。

ここでは、障害者の家族の物語、障害者の会社を継いだ社長の物語、障害者本人の物語、障害者を雇うことを決めた会長の物語が語られます。

会長は、働くことが障害者の生きがいになることを発見して、障害者のための会社になることを決意します。障害者ができる仕事を社業にしようと業務開拓をし、障害者が仕事をしやすいような仕組みやルール、障害者ではない社員との融和などの施策を行っていきます。それは、「慈悲の心」からのものなのか。そのせいで業績が苦しくなたったこともあるようです。

その会社を継いだ現社長は、はじめビジネス優先の考え方でしたが、会社で働く中で、働くことの意味を障害者の社員の働きから教えられ、考えを入れ替えます。こちらの気づきの方が重要で、これを気づいた瞬間こそが核心だと思うのですが、その部分が淡白なのがこの本でイマイチ残念なところです。つまり、障害者はその存在自体が意味のあることなのです。

それにしても働くことの喜びを働く人が感じ、それが会社の業績に結びつくという、すばらしい循環です。

2017年9月20日水曜日

人工知能は人間を超えるか / 松尾豊 (2015)


人工知能は人間を超えるか ~ディープラーニングの先にあるもの~

人工知能は人間を超えるのか、その日は、いつやってくるのか?


東大の松尾准教授が、人工知能を解説してくれます。
第1次ブーム、第2次ブームを経て、現在第3次ブーム。
これまでの人工知能の発展をそのブームの山とともに分かりやすく伝えてくれます。
たぶんかなり難しいことを、いたって簡単に、いろんな例えを用いて、それこそ素人にわかるように書かれてあり、すべてを理解したとは言えませんが、人工知能ってこんな感じか、というのが分かりました。

人工知能についての方法論のほとんどは黎明期に出されたものだったのですが、ディープラーニングが、ブレークスルーをもたらしそうだということのようです。
それまでの人工知能は、第2次ブームのエキスパートシステムのように、大量のデータと正解がこれというのを教え込む必要があったのを、自分で正解はこれ、というのを導き出せるようになる感じですかね。

ちゃんとは理解できませんでしたが、入力画像に対して同じ画像を正解として入力し、さらにノイズを入れるのがディープラーニングだそうです。データの圧縮も絡んでいるらしいです。
人工知能の世界では、将棋で勝つことより、猫を認識する方が何倍もすごいことのようです。将棋は黎明期から研究が続けられている「探索」の世界で、簡単に言えば選択の分岐を大量に考える、ということの延長だそうです。猫を画像として認識するのは、ビッグデータによる機械学習の結果とディープラーニングがないと成功しないのかな。入力されたデータを「概念化」して、これって猫のパターンだな、というくらいまで複数認識し、ちょっと違うデータも混ぜることによって、より抽象度を高める。手書きの「3」を大量に読み込み、これが「3」という概念を認識し、最後にこれが「3」だ、と名前を付けてやる。
こういった「概念化」って人間のやってることだなあ、となんとなく思いました。

タイトルは売れるように調整しているのでしょう。内容的には人工知能の解説です。
「人工知能は人間を超えるか?」という問いに対する著者の答えは、「超える」ですが、おそらくそこまで到達するのはまだまだ先だ、と著者は考えています。
ターミネーターのような世界が来るとは思えない。人工知能を前に進めてきた著者ならではの実感でしょう。

2017年9月10日日曜日

ダントツ経営 / 坂根正弘 (2011)

―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」―


ザ・製造業の社長といえるのではないでしょうか。
世界の流れを見通し、アメリカ駐在の経験を生かしてアメリカの強みと弱み、日本の強みと弱みを理解し、製品開発においては何を犠牲にするかを強要する。思い切ってリストラし、現地の経営を現地の人に任せる。
ここには、製造業の進むべき道が示されています。

コムトラックスに少し興味があって読んでみたのですが、思いのほかいい本でした。

それにしても、おっさんの顔を大写しにしたカバーはちょっといただけないですね。電車では読めません。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110411/266554/

2017年8月11日金曜日

ORIGINALS / アダム・グラント (2016)


誰もが「人と違うこと」ができる時代


サブタイトルの「誰もが「人と違うこと」ができる時代」というのは少しずれているような気がしますが、オリジナリティというのは特別な人のものではなく、普通の人に備わっているもの、というのが著者の言いたいことです。
そういう意味もあって、この本の中では突飛なことは言われておらず、どれも聞くと「当たり前」に思えるものばかりです。

ただし、オリジナルな人になるには少し飛躍やコツが必要です。

例えば、クリエイティブなアイデアは、多作から生まれる、といったこと。多作であるがゆえに優れたものを出す確率が上がります。モーツアルトしかりダビンチしかり。優れたアイデアを出せ、ということではなく、多くアイデアを出せ、ということは何か自分でもできそうな気もしますが、やってみようとすると意外と難しいような気もします。

あるいは、同調性の回避。どうしても今ある常識、価値観、満足感にとらわれ、新しいことを発送するのが難しくなります。また、人間関係を円滑に進めるために、人に同調することも必要でしょう。僕なんかは同調圧力に負けやすいというか、同調志向が高い方の人間なので、健全な議論、といったものが得意ではありません。

あと、ちょっとの勇気。

オリジナルな人生を歩もうよ、という応援の書のように思えました。

なお、本書では、ものすごい量の知識と多くのケースが描かれてありますので、 一部を備忘として書いておきます。
  1. 変化を生み出す「創造的破壊」
    • 眼鏡のオンラインビジネスを始めたワービー・パーカーの4人の創業者
  2. 大胆に発想し、緻密に進める
    • セグウェイの失敗
    • TV番組「となりのサインフェルド」の成功
  3. “無関心”を“情熱”へ変える法
    • CIA分析官による情報共有プラットフォーム構築
    • バブル社のディズニーへの売り込み
  4. 賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ
    • キング牧師の締め切りとの闘い
  5. 「誰と組むか」が勝敗を決める
    • ルーシー・ストーンとアンソニー、スタントンとの確執
  6. 「はみ出す人」こそ時代をつくる
    • ジャッキー・ロビンソンは長男ではない
  7. ダメになる組織、飛躍する組織
    • ポラロイドの凋落
    • ブリッジウォーター社の社風
  8. どんな「荒波」も、しなやかに乗りこなせ
    • ルイス・ピュー 北極海での遠泳
    • ミロシェビッチを退陣させた草の根運動

2017年6月5日月曜日

イノベーションのジレンマ / クレイトン・M・クリステンセン (1997)

もう20年前の本なんですね。
確かに事例は古いので、そうかなとは思いますが、言っている主旨は全く古さを感じさせません。

既存の成功した企業が、技術的に劣り、既存の顧客の要求に応えられない、かつ小さな市場しかない破壊的技術の前に、つねに敗れ去るのはなぜなのか。
それは、成功した企業が成功した行動原理によると看破しています。
  • 顧客の声に耳を傾ける。
  • 求められたものを供給する技術に積極的に投資する。
  • 利益率の向上をめざす。
  • 小さな市場より大きな市場を目標とする。
既存の顧客と市場、あるいは築き上げたバリューチェーンが、そして賢明な中堅社員が、破壊的製品の市場への進出を妨げます。

しかし、これは破壊的技術が出てきたときの既存企業の反応であって、汎用的なものではありません。むしろ、この本でいう「持続的技術」の方が多いのかもしれません。
ビジネスの流れが早く、ベンチャーが活躍する今だからこそ活きると思います。

かなり知的な刺激を与えてくれる本でした。

2017年5月28日日曜日

戦後経済史 / 野口悠紀雄 (2015)

私たちはどこで間違えたのか


著者の主張は次のようなものです。
  • 1940年台に革新官僚が作った戦時統制経済体制が、戦後の復興や高度経済成長の基盤になった。統制型の経済と、垂直統合型の重化学工業は相性が良く、80年代まではうまくいっていた。
    復興期においては、傾斜生産方式や、為替、資金の政府統制などで経済を支えていった。
  • (80年代のバブル期について痛烈な批判を浴びせていますが、それは置いておいて)
  • 90年代以降のIT革命で、水平分業型の企業が勃興し、台湾や韓国や中国の下請けが力をつけてきた。その時代の変化に日本企業は全く立ち遅れてしまった。
    目指すべきはアップルのように、水平分業により、付加価値が高い得意分野で戦うべきだったのではないか。
つまり、80年代に、実体のない経済で浮かれ、日本型経済方式が世界の賞賛を浴びているという誤った自信を持ったその時期に、時代は変わりつつあり、その時代についていけなくなった、そう言っています。

かといって、今からチャンスはあるのか?全て手遅れのようにも思えてなりません。

戦後自由型の経済(アメリカ)が繁栄している中で、統制型の経済(日本、西ドイツ)が実力をつけ、統制型の経済がまさに自由型の経済を抜き去ったその時に、自由型の経済はIT革命を起こし、新たな統制型の経済(中国)と結び、大逆転をした。中国を避け、アメリカ型を指向すべきか、あるいは中国と真っ向勝負するか。その2択しかないのだろうか?

2017年5月14日日曜日

「良い質問」をする技術 / 粟津恭一郎 (2016)

著者は、エグゼクティブ・コーチを職業とする、「質問」のプロです。

「良い質問には、自分と周囲の人々の人生を、よりよい方向へ変える、大きな力がある。」「『質問の差』が『人生の差』になる。」と著者は言います。

私も仕事上で、あるいは親子関係で、質問によって動機づけしたいと常々思っているのですが、ほとんどできません。どうしても、答えを自分で言っていたり、アドバイスになっていたりばかりです。
良い質問をする技術があれば、と思っていたところ、そのままずばりの本のタイトルに出会いました。

中身は、いたって平易で分かりやすく、さっそく実践してみよう、と思えるようなものでした。

やはり、コーチングのプロだけあって、本質的な「重い質問」の問いかけもあるのですが、それを、5W1Hに分解するといい、とか過去よりも未来について聞く方がいい、「私」「あなた」を主語にするといい、といった「技術」を教えてくれます。
なによりも、自分自身に質問する時間を取り、自分の3つのV(Vision、Value、Vocabulary)を探ることを習慣づけると行動が必ず変わる、というメッセージが大切かな、と思いました。
ああでもない、こうでもないと考え続けるのではなく、違った角度の質問をし直してみることも肝要だと。

どれだけできるか自信ありませんが、トライしてみる価値はありそうです。

ピーター・ドラッカーが、若いとき恩師に「あなたは何によって憶えられたいか?」 "What do you want to be remembered for?" と問われ、それが人生の大きな気づきと、軸になっている、という話を思い出しました。その質問がドラッカーを偉大な経営学者にさせたのでしょう。まさに「良い質問には、自分と周囲の人々の人生を、よりよい方向へ変える、大きな力がある」んですね。
この質問も"What"で始まっています。

https://www.coacha.com/coach/awazu.html

2017年5月11日木曜日

戦後日本海運造船経営史 5 造船業の復興と発展 世界の王座へ / 寺谷武明 (1993)

1993年に出たこの本は、その20年前、1970年代までの、日本の造船が絶頂に上り詰めるまでを描いています。

まず、戦中から始め、その戦標船の経済性が基本になり、戦後の造船の基礎になったことが描かれてあります。
戦後苦しい時代を経て、復員船、漁船、政府による保護、朝鮮戦争、中東の石油発掘からのタンカーブーム、スエズ危機などにより、造船業は発展を遂げていきます。
土壌としては、日本の造船技術者の仲間意識により、会社を超えた技術的なつながりにより、生産プロセスや溶接技術の開発が進んだことも大きいようです。

また、戦後の日本の造船業界は、石川島播磨がリードしていったようにも書かれてあります。石川島と播磨の合併(土光敏夫)、生産プロセスの革新(真藤恒)、定型船の連続建造など。特に真藤恒については多くのページを割いています。NBC呉というアメリカ企業の中で、徹底した合理的な考えを叩き込まれ、革新的なアイデアを試していく姿はカッコいいですし、それが日本をリードして成功していくということですから、拍手を送りたくなります。

日本企業が成功した要因としては、技術開発(生産プロセス、ブロック工法、溶接技術)+経営環境(世界情勢)+設備投資(船の巨大化への投資)ということになるのではないかと理解しました。中でも、ライバルであるヨーロッパの造船所が、船の巨大化に伴う工場の拡張などの余力がなかったのに比べ、日本は高度成長期で新興埋立地が林立した時期と重なったことが一番の要因ではないかと思います。そういう意味では、船の大型化に賭けて成功したともとれますが、戦略というよりは、時勢的に波に乗れて、イケイケで設備投資したらうまくいった、というようにもとれます。

ここから先の、日本の造船の下降がどうなっていくのかが非常に気になりますが、現代を見ると、中韓の圧勝です。そう思えば、これも設備投資余力なのかもしれず、日本が来た道を忠実にたどっているようでもあります。

2017年5月5日金曜日

人材覚醒経済 / 鶴 光太郎 (2016)

政府の規制改革会議のメンバーであった著者が、ここ10年ほど関わっている労働・雇用分野におけるテーマを総合的にまとめた著作といえるのではないでしょうか。

単に意見を述べるだけでなく、欧米との制度比較などの実証を多く積み上げ、自論を構成しているところが見事です。参考になります。

いちばん大きな提案は「ジョブ型」社員のデフォルト化です。言われるように数多くの現在の日本の問題を解決するソリューションであろうと思いますが、企業が前提としている雇用システムのすべてに影響を与えることになるので、一朝一夕では進まないことが予想されるのが残念です。

序章 人材覚醒——アベノミクス第三ステージからの出発

次の4つにより人材覚醒経済を実現する。
  1. 「ジョブ型社員+夫婦共働き」のデフォルト化とICT徹底活用による新たな働き方の普及による「多様な働き方改革」
  2. 健康の確保、公平公正な処遇の実現、雇用の入口・出口の整備による、「多様な働き方改革を支える環境整備」
  3. 社会保障制度改革などの「働き方改革と補完的な公的インフラ整備」
  4. 性格スキルの向上と新たな機械化と補完的スキルの養成による「教育・人材力強化」

第1章 問題の根源——無限定正社員システム

「メンバーシップ制」「企業別労働組合」「後払い賃金」「遅い昇進」「頻繁な配置転換、水平的なコーディネーション」「解雇ルール (解雇回避義務)」「家族システム (正社員が男性中心)」を特徴とする、日本的な無限定正社員システムが、次の問題を引き起こしている。
  1. 正社員の新規採用・賃金抑制、有期雇用(雇用が不安定)の大幅増
  2. ワーク・ライフ・バランスが掛け声ばかりで進まない。
  3. 女性の労働参加、活躍を阻害。
  4. 「何でも屋」=特定の能力や技能を身につけにくい。

第2章 人材が覚醒する雇用システム

次の雇用システムを提案する。
  1. ジョブ型正社員:労働条件明示、後払い賃金システムの見直し
  2. ICTを徹底活用:時間、場所を選ばない働き方へ
これらにより生産性を高めると同時に、働き方や従業員の異質性・多様性を活かしたイノベーションを起こす。

第3章 女性の活躍を阻む2つの壁

長時間労働と女性活躍の相関は高い。男性の長時間労働や長期雇用慣行などの無限定な働き方を改める必要がある。
女性活躍のため女性たちは「男」になることを求められたが、夫が限定的な働き方を選ぶということも重要。夫の家事・育児参画(日常的なサポート)が妻の就業に影響を与えることが分かっている。

第4章 聖域なき労働時間改革——健康確保と働き方の柔軟化の両立

労働時間規制は健康確保のために行われるべき。残業上限の他、インターバルや労働時間貯蓄制度などが参考になる。

第5章 格差固定打破——多様な雇用形態と均衡処遇の実現

有期雇用増大により、かえって生産性が落ちている。賃金格差も問題だが、職能給が中心の日本では同一労働同一賃金へのハードルは高い。また、最賃の引き上げは、逆に雇用減少につながり低所得者対策としては効果が薄い。

第6章 「入口」と「出口」の整備——よりよいマッチングを実現する

定年を残して有期による雇用継続をするとした現在の制度の維持は難しい。賃金の後払いを是正して、賃金カーブをなだらかにする必要がある。
また、解雇の場合の金銭的解決は労使双方にメリットがあるが、様々な問題をクリアする必要がある。

第7章 性格スキルの向上−−職業人生成功の決め手

人的資本・人材力の強化のために、「性格スキル」の向上が必要。家庭、学校教育に引き続き、職業上での教育も重要となる。

第8章 働き方の革新を生み出す公的インフラの整備

社会保障制度を見直すと同時に、政策決定プロセスも見直す必要がある。

終章 2050年働き方未来図——新たな機械化・人工知能の衝撃を超えて

技術進歩によりなくなる仕事もあるが、代替が効かない仕事もある。機械化と補完的スキルを身につける必要がある。

書評 : http://style.nikkei.com/article/DGXKZO09978810W6A121C1MY5001

2017年5月2日火曜日

チャーチル・ファクター / ボリス・ジョンソン (2014)


THE CHURCHILL FACTOR
How One Man Made History / Boris Johnson


「チャーチル的要素とは」を問う長い思考的伝記であり、没後50年を記念した長編でもあります。

融和策の嵐の中でたった一人でナチスに立ち向かい、その後の世界を作った、という基本認識の下、彼のいいところだけではなく、失敗したことや、過ち、失言なども率直に取り上げ、公平に評価しているところが気に入りました。

著者(ロンドン市長、保守党下院議員)自身、チャーチルが死ぬ1年前に生まれたので、時代の空気感は分からないのですが、丹念にいろいろな材料から拾おうとしています。
1940年より前のチャーチルは政治的にも、軍事的にも失敗の山のようです。
よくこれで政治家として生き残れたなと思います。しかし時代は彼を首相にする、ということですから、失敗の山だけでは測れない「何か」を持っていたんでしょうね。彼の気質、勇気、意思を通す押し出しの良さ、ユーモアなどでしょうか。著者はその、失敗を恐れない、間違いをおかすことをいとわない精神、リスクを冒す意欲を賞賛しています。
スキルとしては、言葉の使い方かもしれません。多くの詩を諳んじていたようですし、意味と同じく響きも大切にしていたようです。

しかも彼のすごいのは、いいところばかりではないということです。下品なジョークを言い、人種差別的であり、大酒飲みであり、太っていて背が低いブルドッグ、数学には弱く大学も入れなかった、しかも失敗続き。それでも自分を信じて突き進みます。
人に認められたいという自己顕示欲もあるんでしょうが、それを超越した自信は母や乳母から愛されているという何にも代えがたい心の芯があったからのように思えてなりません。そう思うと、親というものの存在価値は大きいなと思います。結果的には世界を変えてしまったのですから。

著者自身が首相を目指す政治家であることから、純粋なチャーチル像というよりは、自身の政治信条を重ね合わせた政治主張の部分も含まれているかもしれません。

序章 チャーチルという犬
第1章 ヒトラーと断固として交渉せず
第2章 もしチャーチルがいなかったら
第3章 裏切り者のいかさま師
第4章 毒父、ランドルフ
第5章 命知らずの恥知らず
第6章 ノーベル文学賞を受賞した文才
第7章 演説の名手は一日にして成らず
第8章 尊大にして寛大
第9章 妻クレメンティーン
第10章 代表的英国人
第11章 時代を先取りした政治家
第12章 報復にはノー、毒ガスにはイエス
第13章 戦車の発明者
第14章 超人的エネルギー
第15章 「歴史的失敗」のリスト
第16章 同盟国フランスの艦隊を撃沈
第17章 アメリカを口説き落とす
第18章 縮みゆく大帝国の巨人
第19章 鉄のカーテン
第20章 ヨーロッパ合衆国構想
第21章 「中東問題」の起源
第22章 100万ドルの絵
第23章 チャーチル・ファクター

書評:http://president.jp/category/c00275

2017年4月30日日曜日

経営戦略を問いなおす / 三品和広 (2006)

経営戦略とは、「機」を捉える経営者の時代認識の下、「立地」を選び「構え」を築き「均整」を整えることだそうです。
経営者の歴史観、世界観、人間観に裏打ちされた事業観により導き出され、コンテキストと人に依存する特殊解が、戦略だと言います。そういう意味で、経営は「為す」のではなく「読む」が真髄となります。
そこでは、売上は伸ばすものではなく、選ぶものとなります。

なるほど、と思いますが、自分でやるとなると、どうしていいのやら...
厳しいものだと思います。

第1章 誤信
  1. いつでも誰でも戦略?
  2. 何が何でも成長戦略?
  3. 戦略はサイエンス系?
第2章 核心
  1. 立地
  2. 構え
  3. 均整
第3章 所在
  1. 戦略は部課長が考えろ?
  2. 我が社には戦略がない?
  3. 戦略は観と経験と度胸!
第4章 人材
  1. 企業は人選により戦略を選ぶ
  2. 傑物は気質と手口で人を選ぶ
  3. 人事は実績と知識で人を選ぶ
第5章 修練
  1. 1.文系学生に送るメッセージ
  2. 2.中堅社員に送るメッセージ
  3. 3.幹部社員に送るメッセージ

2017年4月25日火曜日

LIFE SHIFT / リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット (2016)

The 100-Year Life

living and working in an age of longevity

100年時代の人生戦略


2012年の「ワーク・シフト」の続編ともいえる、人生100年時代における生き方を示した書です。

産業革命以降、寿命が右肩上がりで伸びており、人生100年時代がそこに来ています。
今までは、教育、仕事、引退という3ステージモデルの人生が普通でしたが、これからはその前提が崩れるであろう、とのことです。
この本の中では、1945年生まれのジャック(典型的な3ステージモデル)、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーン、この3人を例にして、徐々に寿命が延び、それにつれて人生設計が変わってくる様子を描いています。
ジミーは仕事上の転機をさらに1回する3.5ステージ、4ステージモデルとなり、ジェーンは5ステージなどのフレキシブルな人生モデルとなる。
皆、先人の人生を参考にできず、新たな人生を考えなければなりません。
そのためには、レクリエーションで時間を過ごすのではなく、リ・クリエーションして自分を磨いていかなければなりません。金銭的資産も大事ですが、それと同じくらい見えない資産(生産性資産、活力資産、変身資産)を大切にしなければなりません。
いちばん大切なのは、人的ネットワーク、グラットンの言う「ポッセ」あるいはウィーク・タイズの人間関係であるようです。

僕は、ジミーと同じような世代。自分の親や先輩のような3ステージモデルでは生きていけないはずです。示唆に富んだ本です。

序 章 100年ライフ
第1章 長い生涯――長寿という贈り物
第2章 過去の資金計画――教育・仕事・引退モデルの崩壊
第3章 雇用の未来――機械化・AI後の働き方
第4章 見えない「資産」――お金に換算できないもの
  1. 生産性資産 : スキルと知識、仲間、評判
  2. 活力資産 : 健康、バランスのとれた生活、自己再生の友人関係
  3. 変身資産 : 自分についての知識、多様性に富んだネットワーク、新しい経験に対して開かれた姿勢
第5章 新しいシナリオ――可能性を広げる
第6章 新しいステージ――選択肢の多様化
第7章 新しいお金の考え方――必要な資金をどう得るか
第8章 新しい時間の使い方――自分のリ・クリエーションへ
第9章 未来の人間関係――私生活はこう変わる
終 章 変革への課題

2017年4月8日土曜日

戦略暴走 / 三品和広 (2010)

ケース179編から学ぶ経営戦略の落とし穴


資本参加、M&A、多角化、海外進出、川下進出、不動産などの戦略暴走がこれでもか、というくらい集められています。
創業者、二世、サラリーマン経営者、親会社から送り込まれた経営者など、主役は様々ですが、カリスマ経営者ではない普通の人が暴走するのが意外と多いことに驚かされます。

円高や日米貿易不均衡の時代に、アメリカに進取し多額の投資をしたが、中国の台頭に合い、何倍もの損失を喰らったようなケースもありますが、それも三品先生にかかれば、バッサリです。本業が低迷し、違う事業に手を出したケースも多くあります。同情してしまいますが、創造性の欠如だそうです。
普通に状況に対応した結果が悪かっただけではないかと思ってしまうだけに、かなり衝撃的な本でした。

バンドワゴンをさわやかに見送る勇気が必要だと。「みんながやるからやる」ような手は、必ず賭けで負けるはずだと。
暴走して失敗した企業は、利益率の低下か成長率の低下の末に、暴走に走っているとの分析もあります。その時に初めて手を打つのではもうすでに遅い、とのこと。

遠くの一点を見据えて事業を行い、創造的な経営をすべし。そういうメッセージと受け取りました。

2017年3月4日土曜日

データサイエンス超入門 / 工藤卓哉、保科学世 (2013)

~ビジネスで役立つ「統計学」の本当の活かし方~

うーん、統計学のパートはちょっと難しかった。入門に超がつくのでこれくらい普通の人ならわかるのかな?

データーサイエンティストは、

  1. データを活用したビジネスを企画する力
  2. データサイエンスを支える統計知識
  3. アナリティクスを実現するITスキル
の3つが必要だと言う。
その筋に沿って、それぞれに解説を加えており、筋書的にはわかりやすかった。

統計については、非常にわかりやすく伝えようという意図も理解するし、書かれてあることは理解できたが、実際に応用しようとすると、難解な数式を活用しなければならないようで、急激にハードルが高くなる。

でも、こういうのを使いこなすことができたらカッコいいんだろうな、と思う。

2017年2月17日金曜日

業務改革の教科書 / 白川克、榊巻亮 (2013)

―成功率9割のプロが教える全ノウハウ―

業務改革の手法を探してこの本を読みましたが、少し中身が違いました。
手法ではなく、プロジェクトの進め方の本でした。

著者は、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(僕も過去に一緒に仕事させてもらったことがあります)のコンサルタントで、その数多くのプロジェクト経験をもとに、「こう進めたらいい」、「こういうところが落とし穴」、といった経験則が率直に、体系的に語られています。
面白いのは、章立てとは別に、各項にアルファベットがつけられていて、ちょうどAからZまでになっていることです。プロジェクトの進め方ABCということでしょうか。

著者の経験の範囲は、広い意味では業務改革プロジェクトなんでしょうが、狭い意味ではシステム構築を伴うプロジェクトが多いのではないかと推測しました。

コンサルという立場上、どうしても社外の目での指摘でもあり、そういう意味では限界があるのでしょうが、なかなか的を射たものも多くあり、共感もできました。プロジェクト管理の教科書的な表現や定見はほとんどなく、本当に経験から導き出されたもののようなのがいいところじゃないでしょうか。
「教科書」と大仰なタイトルになっていますが、確かに手元に置いて、いろんな局面で参考にしたいような本です。

しかし、「成功率9割」というのは、何をもって成功というのかの定義がそれぞれなので、何とも言えません。僕の知っているシステム開発を伴うプロジェクトは、100%の満足度で終結したことはありませんでした。プロジェクトは途中で曲道を迎え、行き止まりを回避しながら、どこかで妥協し、成功と言える一線を引き直し、ある種の不満を抱えながら終結するからです。をれを「成功率9割」というのは、コンサルタントとしての真摯さを疑いますが、出版社がつけたサブタイトルかもしれませんしね。


2017年1月28日土曜日

V字回復の経営 / 三枝匡 (2001)

2年で会社を変えられますか

三枝さんの第3作ですが、相変わらずすごいです。
仕事は、緊張の中で真剣にやらなければいけないんだなということを思い起こさせます。

また、企業は人の「やる気」が一番大事で、人のやる気を出すために、きちっとした戦略を立て、目的を徹底し、成果を出していくのだ、ということをこの本を通して言われているように思います。

今回の舞台である太陽産業アスター事業部は、改革の中でスモール・イズ・ビューティフルということで、組織をBUに分解することを選択します。ここに描かれてあるのは、まさに僕が以前いた事業部でやろうとしたことです。「創る、作る、売る」のサイクルを小さな体制で実現し、意思決定を早くする。人が事業責任を持つようにし、経営者を育成する。そういうことです。

少しガンバリズムというか、「男は仕事、女は家庭」的な少し古い仕事観であるところは、年代的にしょうがないんでしょうね。


2017年1月10日火曜日

中国古典の知恵に学ぶ 菜根譚 / 洪自誠 (2007)

人生足るを知る、といった、道教、儒教、仏教の教義をないまぜにした教訓集ですが、多くは当たり前のようなことに思いました。
いくつかは心に響くものもありました。
  • 与えた恩は忘れ、受けた恩は忘れない。
  • 死に際になって、取り乱さなくてすむように、常日ごろから物事の本質や道理を見極めておかなければならない。
  • 自分本来の心を静かに見つめる努力によって自分という人間がわかるものである。
  • 人の上に立つ人間は、軽々しくふるまってはならない。それはまわりに流されて軽薄な行動をすると、心の落ち着きを失うからである。とはいっても、あまり重々しいのもよくない。柔軟な発想ができなくなったり、きびきびした行動がとれなくなったりするからだ。
  • よいことをしても、それが他人に知られることを期待するようなら、偽善にすぎない。
  • 清廉潔白でありながら、しかも包容力があり、思いやりを持ちながら、しかもすぐれた決断力を持っている。頭脳明晰であるが、他人の考えをやみくもに批判したりはせず、正直であるが、他人の言動に口を挟まない。このような硬軟両面を合わせ持った人こそ、立派な人物と言える。
  • 幸せも不幸も同じことと見なし、喜びも悲しみも忘れ去る。人生の達人は、こうした生き方ができる人のことである。