2018年12月24日月曜日

あなたの人生の物語 / テッド・チャン (2002)

Stories of Your Life and Others by Ted Chiang

僕はほとんど小説を読まないのですが、これは面白い!
8編の短編からなる短編集ですが、それぞれが全然違う文体とテーマで、驚きます。
短編と言っても、中短編というか、密度が濃いせいか普通の長編といってもいいと思います。
ジャンルとしては、サイエンス・フィクション、あるいはファンタジーということになるのでしょうか。現代の生活様式そのままではなく、そこに「もし」を持ち込んだもので、「もし」があるからこそ、問題意識が強く表現されているように感じます。

もともとこの本を読むきっかけは、映画"メッセージ"でした。この本の中の"あなたの人生の物語"が原作となっています。エイリアンとの交流によって得た、未来を知ることができる特殊能力と、未来のことが全てわかりつつ、その人生を運命として生きていくという世界観に感銘しました。映画がエイリアンとの交流に重心があるのに対して、原作では「あなたの人生」に焦点が当たっているところが違いましたが、ほぼ小説の世界観を再現していると言っていいのではないでしょうか。

僕がこの短編集の中で一番心が動かされたのが、"地獄とは神の不在なり"です。
天使の降臨と天変地異を同期させて、神の意思を表現しています。神は公正ではなく、優しくなく、慈悲深くない。神の行いをギフトとして受け入れること、それが信仰だということを言っています。登場人物の一人ジャニスは、生まれつき足がないことを、神が特別な使命を与えたと認識して人生を生きていきます。
これは僕にとっての一種の信仰体験でした。
作者によれば、ヨブ記の中で最後に神がヨブに報いることが不満だそうです。

作者は、僕とほぼ同年代、アジア系ということもあり、親近感を覚えます。

  1. バビロンの塔 "Tower of Babylon" (1990)
  2. 理解 "Understand" (1991)
  3. ゼロで割る "Division by Zero" (1991)
  4. あなたの人生の物語 "Story of Your Life" (1998)
  5. 七十二文字 "Seventy-Two Letters" (2000)
  6. 人類科学の進化 "The Evolustion of Human Science" (2000)
  7. 地獄とは神の不在なり "Hell Is the Absence of God" (2001)
  8. 顔の美醜について : ドキュメンタリー "Liking What You See: A Documentary" (2002)

2018年12月2日日曜日

マネー・ボール / マイケル ルイス (2003)

MONEYBALL

The art of winning an unfair game by Michael Lewis

ブラッド・ピットの映画を見てずっと気になっていた原作を読んでみました。
基本的には、原作とかけ離れたとことろはありません(ノンフィクションですから当たり前ですよね)が、映画が主人公ビリー・ビーンだけにスポットライトを当てているのに比べ、原作はもっと広範な人物の物語も紹介しています。

例えば、ビリー・ビーンの前任のゼネラル・マネージャーであるサンディ・アルダーソンは、野球を統計学的な手法で眺め直そうとしたビル・ジェイムズの著作を全部持っており、ビリー・ビーンも影響を受けます。例えば「エラー」は主観に基づいた判定であり、分析に値しない。僕も前々からファインプレーは、スタートダッシュの遅い選手や守備位置がまずい選手がやっと追いついたプレーであることも多いんじゃないかと思ってましたので、まったく同感です。とすればヒットの定義も怪しくなる。後にボロス・マクラッケンという人が、フェアゾーンに飛んだ打球がヒットになるかアウトになるかは全くの運ではないか、と言い出したことも紹介していますが、もしかしたらそうかもしれません。

腕を手術して捕手をあきらめたが、アスレチックスに一塁手としてトレードされたスコット・ハッテバーグ、アンダースローというメジャーでは特異な投げ方をしているチャド・ブラッドフォード、デブであるがために他球団に見向きもされない大学選手ジェレミー・ブラウン。
みんな「傷もの」ですが、アスレチックスの中では価値を認められ、活躍します。

この本で感じたのは3つ。
1つめは、投資効率の追求です。選手の給料が高くなったことにより、より選手を選ぶ力が重要になります。そのときにイチかバチかではなく、より活躍の確率の高い選手を選ぶにはどうするか。活躍している選手の過去を振り返り、分析し、より確率の高い選手をドラフト指名する、あるいはトレードでもらい受ける。オーナーが出せる金の上限がある中で、どうやりくりするのか、ビリー・ビーンはそればかり考えていたのではないでしょうか。

2つめは、統計分析の重視です。選手選びもそうですが、試合に勝つにはどうするのか。試合に勝つことが集客に最も影響があることが分かっていますので、イコール経営の好転につながります。そのためには、相手よりより多く得点すること。得点のために一番きくのが、出塁率と長打です。要はアウトにならないことですね。そのために作戦上では、犠打、盗塁を嫌い、四球を選ぶことを奨励し、ドラフト、トレードでは体格や運動神経をあまり考慮せず、出塁率を重視します。

3つ目は、分析に基づいた人の評価です。従来も野球選手は数字で評価されていたのでしょうが、評価軸がチーム戦術と完全に一致しています。運に任せたヒットや守備の評価(打率やエラー数の評価)を、打球の初速や方向、着弾点を記録して、あるいは何アウトで何塁の場面だったのか、相手は右投手なのか左投手なのか、球種は、といったことを記録して分析していこうという動きがありますが、それを評価にも使えるのでしょう。翻って、会社の評価ってどうなんでしょう。まったく科学的ではありません。

著者は、こういった手法を「おたく」とよびますが、カッコいいですよね。

2018年11月25日日曜日

ジョブ理論 / クレイトン・M・クリステンセン (2016)

イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

COMPETING AGAINST LUCK
by Clayton M. Christensen, Taddy Hall, Karen Dillton, and David S. Duncan

"イノベーションのジレンマ" のクリステンセン教授の最新の本です。
通勤途上の客がドライブスルーでミルクシェイクを買うのは、「車の中で時間をつぶす」という「ジョブ」を雇用しているということだ、というアナロジーで説明できるジョブ理論。
英語で言えば、"Job to be done" 。
レビット教授の「客は1/4インチのドライバーが欲しいのではない。1/4インチの穴が欲しいのだ」という有名な話とほぼ共通です。
売る方はどうしても自社の「プロダクト」に目が行ってしまいますが、そうではなく客の「プログレス」に注目しなければならない。片付けるべきジョブに注目することがイノベーションの近道だというわけです。
はたしてこれが「理論」と呼べるものなのかどうかは分かりませんが、ビジネス上では深い洞察を与えられます。

第1章 ミルクシェイクのジレンマ
第2章 プロダクトではなく、プログレス
第3章 埋もれているジョブ
第4章 ジョブ・ハンティング
第5章 顧客が言わないことを聞き取る
第6章 レジュメを書く
第7章 ジョブ中心の統合
第8章 ジョブから目を離さない
第9章 ジョブを中心とした組織

https://www.harpercollins.co.jp/job/

2018年11月11日日曜日

JTの変人採用 / 米田靖之 (2018)

「成長を続ける人」の共通点はどこにあるのか

タイトルどおり採用の話かと思ったら、違いました。正確には、採用の話も少し出てくるのですが、ほんの一部です。

この本でいう「変人」というのは「少し変わった人」ですが、「おもしろい人」というのが一番近いのではないでしょうか。
自分がおもしろい人になって、おもしろい人の繋がりをつけていくと仕事も面白くなる。会社もおもしろい人を大切にするとイノベーションにつながる。職場がおもしろくなると業績も上がる。そんな内容の本でした。
そういう意味では、人事や採用の本ではなく、イノベーションや、若い会社員に向けた仕事に向き合う姿勢を説いた本だと言えます。

「変化球を投げる技術より豪速球を投げる力」とか「必要なムダを捨ててはいけない」とか「小さいけど多少褒められることを企む」とか「アイデアの二段ロケットは別の方向に飛ばす」「高速で、小さな失敗をする」「出る杭は打つよりも、杭の頭らしきものが出てきた瞬間に引っ張り上げてやった方がいい」とかなかなかおもしろい格言がいっぱいであるところも、著者の「おもしろい」ところかなと思います。

遊び心を持って、面白く仕事をしている人って、かっこいいですよね。

https://www.kadokawa.co.jp/product/321712000869/
https://docs.google.com/document/d/1mMEypYQVObg8j7PZFf8XDLj35DppoAWFua4oB7Dhexo/

2018年11月6日火曜日

真理のことば ブッダ / 佐々木 閑 (2012)

NHK「100分で名著」を本にしたものですので、非常に読みやすく、かつ分かりやすい本でした。
ブッダの言葉を詩の形にして四百二十三句集めたのが「ダンマパダ」で、それを日本語に訳すと「真理のことば」だそうです。

ブッダの思想を要約すると、
  • この世の中は全て苦に結実していくという「一切皆苦」
  • すべてのことは因果で影響し合っており変化するものだという「諸行無常」
  • 人間はいくつかの機能が結びついたものでその中心となるような自分というものはないという「諸法無我」
で言い表せます。

この中で一番分かりづらいのが「諸法無我」です。「この世の一切の事物は自分のものではないと自覚して、自我の虚しい主張と縁を切った時、執著との縁も切れ、初めて苦しみのない状態を達成できる」とのことです。世界の中心に自分を置かない、そう捉えることで、何の偏見もなくありのままを理解できる、ということかもしれません。いずれにしてもうまくイメージできない言葉です。2500年前の人がこういった境地に達したというのは驚愕です。

幸せな時が続いて欲しいと欲するから執着が生まれ、苦となる。自分を中心に物事を考えるから欲が生まれ、苦となる。そういう理解でいいのでしょうか?
熱力学第二法則、エントロピー増大の法則をベースとした人生哲学に思えます。

2018年10月29日月曜日

巨匠に学ぶ構図の基本 / 視覚デザイン研究所編

――名画はなぜ名画なのか?

こんな面白い本は久しぶりです。アートは構図だ、ということに改めて感心したと同時に、構図に対して僕がほとんど何も知らないことに驚きました。

また、中学の時に、東京オリンピックのポスターが三角構図だということを教えられ、そのデザインに感激たことを思い出しました。改めて調べてみると、このポスターのデザイナーは亀倉雄策で、先日読んだばかりの江副浩正の本にもかなり出てきてました。

主役が中央にない構図、地平を低く空を大きくとった構図、主人公の後ろの空間が大きい構図、縦の線ばかりの構図、逆に斜め線だけの構図...絵の作者はいろいろ考えて構図を考えてるんですね。印象派なんて、見たままの風景を描いてるようで、実はかなり考えているのだと分かりました。

見る楽しみ、構図を考える楽しみが増えました。

名画の3条件
第1編 構図の基本型 構図の9型式
第2編 構図の組み立て 構図の14要素
第3編 主役を引き立てる 絵画は5役4景でくみたてる
第4編 人体のメッセージ 視線 手足

2018年10月24日水曜日

ご冗談でしょう、ファインマンさん / R.P.ファインマン (1985)

"Surely you're joking, Mr. Feynman!"

Adventures of a curious charactor

by Richard P. Feynman with Ralph Leighton

実はファインマン氏の物理学的功績は何も知りませんでした。ノーベル賞をもらっているのも初めて知りました。僕が生まれる前、1965年に、朝永教授と同じにです。
この本では、幸運なことに物理学の内容はほとんど出てきません。ファインマン氏の人生のエピソード集といってもいいのではないでしょうか。

ファインマン氏の独特な人生への向き合い方に感銘を受けます。
権威は考慮せず、物事を公平に平たく考える。人の作った公式によらず、可能な限り自分なりの考えで物事を理解しようとする。物理学も楽しむ、遊ぶ。いろいろなことに興味を持ち、深入りする。
学者であることの最も正しい姿勢であると同時に、人生の達人の姿勢だと思いました。

実際の彼に会ったこともありませんし、話を聞いたこともないので、本当は偏屈で、付き合いづらい人かもしれませんが、教授の授業はいつも人気だったようですので、この本で表現しているように、フェアでユーモアあふれる人物だったんでしょうね。

物理学だけでなく、サンバのボンゴドラムや絵を描くことものめり込み、ラスベガスを観察したり、教科書の選定を頼まれれば、一生懸命に取り組み、ヌード喫茶のお得意様でもある。本の副題にあるように、curious だと思います。どうせ curious なら、ここまで curious になるべきですね。
​ファインマン氏は「ファインマンと聞いたとたん思い出してもらいたいのは、ノーベル賞をもらったことでもなければ、理論物理学者であったことでもなく、ボンゴドラムでもマンハッタン計画でもない。僕が好奇心でいっぱいの男だったということ。それだけだ」といつも言っていたようです。

また、最初の奥さんとの間で「人がどう思おうとも、ちっとも構わない」というモットーを決めていたそうで、これはこれで言うは易し、行うは難し。それを実行していることが素晴らしいことだと思います。

最後の解説で、江沢洋教授はこう書いています。「彼については、『愉快な人生』などいろいろに言われている。確かに彼は自分を彩り豊かに語った。読者は愉快な人物を想像するかもしれない。しかし、それは彼の外面でしかない。ほんの短い接触しかなかったが、ぼくはそう思う。彼が多くの語りの中で本当に言いたかったことは、とらわれない発想の価値だと思う。そして、追及の執念の力。読者は彼の語りの行間を読まなければならない。」

2018年10月1日月曜日

定年後 / 楠木新 (2017)

50歳からの生き方、終わり方

これは、定年後の生き方、というよりは人生の書でした。

この本で分かったことは2つ。
1つは、定年は断絶だということ。定年前の仕事の連続を期待してもダメ。会社は退職した人に何か聞いたりしないし、続けて欲しいと誰も思っていない。全く違う人生を生きなければならない。
2つ目は、定年後は孤立するということ。会社を通じて社会とつながっていた人は、会社がなくなると社会とつながるつてがなくなる。会社のようにいろんな年代の人と話すこともなくなる。

今の甘い考えで、大した人脈のない僕のことをズバリ言い当てているようです。
そう思うと、会社が手取り足取り手を引いてくれた会社人生と違って、何もかも自由、自分で切り開いて行く必要のある定年後の方が、本当の人生に思えてきます。

何かを始めるのは、子供の頃に好きだったこと、得意だったことに立ち返るのがいい、とのこと。どうせやるなら、お金を稼げるのを目指せ、と著者もアドバイスを受けたと言います。趣味に生きるよりは、人の役に立ちたいものです。

しかも、50歳くらいから始動しなければいけないようです。僕はもう既に出遅れています。
自分の興味や得意なものをいくつかピックアップしてかなければいけません。
ビジネス書や自己啓発書を読んでいる暇はない、ゴルフをやっている暇もないかもしれません。それこそ選択と集中かな。でも息抜きも必要。

『定年後』/楠木新インタビュー

2018年9月28日金曜日

孤高の挑戦者たち / 今北 純一 (1983)

―バッテル研究所―現代のピタゴラス集団

1983年といえば、僕が高3の時、さらに著者がバッテルに在籍したのは1977年から1981年なので、この本の主人公の時代は、もう40年も前になる。
その時代において、このバッテル研究所は、コスモポリタンで短期的なキャリアを積み重ねるプロフェッショナルが活躍する舞台だったのだということが分かる。
欧米の「プロフェッショナル」のイメージはこの本が確立したのかもしれない。

この本では3部にわたって、合計13人のプロフェッショナルが紹介されている。それぞれ、「燃焼」「科目」「孤高」「能動」「自己表現」「好奇心」「国際人脈」「潜在能力」「開講」「牽引車」「大転身」「行動」「五感」というタイトルがつけられているが、タイトルだけでは言い表せないような、個々人の人生の厚みがある。いずれも母国から離れ、自分を試すことを人生の主題にし、2年~3年というタームで職を変えている。

この中でも一番気になったのが、「牽引車」のタイトルがあるジャン・クロード・リシュー氏である。彼はあらゆることに頭を突っ込み、普通ではない数の案件をこなすが、会議などはできるだけ避けるような唯我独尊タイプの人間だが、関わった案件ではロコモティブとして成約に結びつける力を持っているために、誰も文句を言わない。その彼が管理職に抜擢されてからは、見事にマネジメントの力を開花させ、あれほど避けていた会議も立派に運営し、チームの力を最大限に発揮することにやりがいを見出した。この「ロコモティブ」と「マネジメントへの変身」が何か心を打った。

https://docs.google.com/document/d/1H4q-dZF80vBnFnUTpjvNsZStrMwr3b20fA96t1X5JAE/

2018年9月19日水曜日

江副浩正 / 馬場マコト,土屋 洋 (2017)

大学の同級生がリクルートに入社したのは1989年。その前年にリクルート事件があったばかりで、さぞ不安だったろうと思いますが、入社研修後の彼から聞いたのは、みんな「エゾリンって呼んでる」ということでした。バカ明るい会社だなあ、と思ったのを思い出します。

その後、何かの本で「自ら機会を創り出し 機会によって自らを変えよ」という江副氏が作った言葉を知り、非常に感銘を受けました。江副氏はこの言葉を社員全員の机の上に置くようにしたと言います。この本を読むと、この言葉は単なる掛け声だけでなく、江副氏の生き様そのもののようです。会社を興し大声で顧客のフロアで感謝を述べ、社員とのキャンプファイヤーでさだまさしを歌い、お世話になった人に贈り物をし、人の輪を広げて新しい事業に挑戦する。おそらく彼はまさしく自分でチャンスを作り、自分で自分を変えていったのだろうと思います。

江副氏の最大の功績は、リクルートという会社、企業文化を作ったことではないかと思います。リクルートは僕にとってはいつもあこがれの会社であり、若さあふれるバイタリティの会社でした。HRシステムを手掛けているときは、手ごわい絶対的なライバルでもありました。
常に高い目標に挑み、みんなで助け合い、若さを保ち、フランクであり公平、自由。彼の(自分で作っていった)個性にもよるし、彼の信条にもよるところが大きかったのだろうと思います。
この本では、実はそういった組織開発や組織を作る策については多くは語られていません。人間の輪郭を描き、もちろん内面までは踏み込んでいません。何せ本人ではないのですから。

目立たない学生だった江副氏が、東大新聞の広告営業として自分の才能に目覚め、おそらくそれが嬉しくて、ビジネスの道に邁進していったことは想像に難くありません。おそらく、自分がやっているビジネスの意味合いは後づけで、ビジネスをやる→うまくいく、というサイクルに快感を見出していたのではないかと思います。したがって、「誰もやらないことをやる」という哲学のもと、とりとめのない世界にビジネスを広げて行くことになったのではないでしょうか。住宅、回線リセール、不動産...。バブル期の高揚した社会の中で、バブルの波に乗った、典型的なバブル会社の動きをし、足元をすくわれてしまいました。
事業家としては、先を読む力があったとも言えますし、時代に踊らされたとも言えます。
リクルート事件が彼が今の僕より若い51歳の時だったというのは驚きでした。

リクルートイズムと言われる唯一無二ともいえる企業文化、これこそが江副氏の後世に残る作品だと思います。

https://docs.google.com/document/d/1fvTMM1BCKrzADIrfgTOcoJndUfB_A7-KR8CxRVKBM3Y/

2018年9月9日日曜日

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」 / 木村 泰司 (2017)

タイトルがイヤですね。でも出版社によるこのタイトルのつけ方が絶妙で、ベストセラーになっているのでしょう。

著者は「美術は見るものではなく読むもの」と言います。時代背景や歴史を知ったうえでその絵画を見、絵画に表そうとしている意味を解釈する、といったことが絵画鑑賞だということですね。
それが全てだとは思いませんが、歴史の流れの中の位置づけを知っておくと、より面白みが増すのは確かです。

僕は絵を見るのは大好きなのですが、タイトルや画家名や何とか派、というのが全く頭に入らないんですね。 でも、この本と、前に読んだ「鑑賞のための西洋美術史入門」(早坂優子著)のおかげで、だいぶ理解が進みました。「鑑賞のための西洋美術史入門」はカラーで絵がたくさんありますが、この本は、その時代の経済状況や国際状況が書かれてあるところが優っています。

グローバルなビジネスエリートになるためには、西洋だけでなく、東洋、とりわけ自国の美術史も理解する必要があると思いますので、出版社にはそちらもよろしくお願いしたいところです。

2018年注目の教養「西洋美術史」の面白さに迫る

2018年9月4日火曜日

仏陀 ―その生涯と思想― / 増谷文雄(1969)

タイトルにあるように、ブッダの生涯を簡潔にまとめ、教えの主なものを紹介した本で、時にはイエス・キリストとの対比なども交え、非常に平たい本だと思いました。

ブッダといえども、二千数百年前の人なので、はっきりした生涯は分からないのです。百年以後に書かれた経典(阿含経)などでその教えと、教えの中に垣間見れる生涯、あるいはアショカ王の碑文などからの推測になるようです。

生老病死、一切皆苦の根本原理は、正直よく理解できませんが、苦しい状況下では心の救いになります。楽と苦には縁があり、楽があるから苦が生じる、苦があるから楽もある。一切をあるがままに受け入れることが心の平和につながる。良くなりたいと渇望することが苦しみを生む。良くなりたいと思うことは大事だが、それにより苦しむことはない、それが解脱なのでしょうか。
自分、周りの人、社会、自然その一切を、あるがままに受け入れる。

一方でブッダは、宗教団体のリーダーらしく、正しい方向への道程も示しており、弟子たちとの問答でそれが表れます。現代の僕からみれば少し説教くさくも感じます。
神を信じるような宗教とは違い、人間が主人公の人のための教えを説いた偉大な人間であり、かつ穏やかで心広く理性的な人物像が浮かんできます。

https://docs.google.com/document/d/1rNftgdVBS_5GrKraldhM-IQMkq1tphglxzFLcoQwpRE/edit?usp=sharing

2018年8月16日木曜日

リンカン / D.K.グッドウィン (2005)

"Team of Rivals : the political genius of Abraham Lincoln" by Doris Kearns Goodwin

リンカンが大統領になったのが1961年、日本はまさに幕末です(前年には桜田門外の変)。
南部反乱派に対する正統中央政府という構図は、日本の西南藩対幕府とも取れます。中央政府期待の反奴隷制を担って登場したリンカンは、幕府による政治改革を期待された慶喜と重なるように感じます。違うのは、慶喜が貴族であり、リンカンが西部の庶民の出であること。慶喜は同時代のアメリカに学ぶべきだったのかもしれません。

奴隷制が支点となり、時代は大きく動いていきます。奴隷制に反対の諸派が合同して共和党ができ、できたばかりの共和党が大統領を出すことによって、南部が反発し南北戦争が勃発します。リンカンが大統領になることによって始まった戦争が終結した6日後に暗殺されるわけですから、リンカンの残任期間は全て戦争といってもいいでしょう。

結果的にリンカンは合衆国の分裂を回避し、奴隷制を廃止できましたが、それができたのは民主主義の力ではなく武力によるものだったということも確認できます。北軍は何度も敗北し、何度も危機が訪れますが、相手が勝っていればまた違った合衆国の歴史になっていたと思うと、軍事力の大切さも分かります。大儀や主義主張や民意の正当性ではないところが考えさせられます。
独立戦争で掲げた自由主義が、南北戦争で確固としたものとなり、公民権運動などを経て今につながっているという点では、合衆国はいい歴史を国民で共有している、と言えるのではないでしょうか。

原題が "Team of Rivals" ということで、3人の大統領選の相手候補者について書かれてある部分が本書の前半3分の1を占め、冗長さは否めませんが、そこが新しいアプローチなのかもしれません。自らが全能でないことを認め、不足するところをかつてのライバルの力を借り、猛獣遣いのように統御していくのは、確かに政治的才能でしょう。

政治的には、中庸、主義主張を頑なに通すことはせず、ほとんどが妥協という姿勢は驚かされます。現代ビジネス風のマッチョなリーダーシップとは程遠い姿です。
急進派と保守派の統合を常に考え、彼の手柄とされている奴隷解放宣言も、急進派からすれば何年も前から唱えていたもので、民意が高まった時期を計ってリンカンが宣言を出したにすぎません。
その政治姿勢の中核を成すのは、人格、そして人へのきめ細かな気遣いです。いつもユーモアを忘れず、温情に流される。巨大な人格者というのが正当な評価でしょうか。西郷を思わせます。

本書のテーマとは関係ありませんが、150年前はよく人が病気で死んでいます。今では信じられないくらいに。リンカンの親兄弟もけっこう死んでますし、リンカンの4人の子供のうち成人したのは1人しかいません。心痛みますが、この時代の人はそれを幾度も乗り越えていかなければならなかったのです。
また、奴隷解放を指導したリンカンも黒人の市民権拡大を前進させたケネディも暗殺時の副大統領がジョンソンだったのは因縁を感じます。

2018年7月20日金曜日

儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇 / ケント・ギルバート (2017)

ケント・ギルバートさんって、かなり過激な右翼思想の方だったんですね。
日本の武士魂を呼び起こすことは必要なんでしょうが、中国、北朝鮮、韓国への偏見はすごいです。そういう思想の本だと認識して読むことが必要です。ああ、こういう捉え方もあるんやって。

儒教の親族至上主義的な考え方が、ジコチューな行動につながっている、という主張ですが、逆に「それだけ?」って感じでした。結局、異教徒批判なのでしょうか。

いずれにしても中国が要注意の国であることは確かです。チベット、ウイグルのひどい弾圧や尖閣諸島への拡大主義、香港への統制、情報制御と汚職。そういう国が世界の覇権を取ろうとしていることに、不安を感じざるをえません。鄧小平の時代が唯一のまともな時代で、それ以前もそれ以後もまともな方向に進んでいるとは思えません。ただし、その「まとも」ですが、日本の常識が世界の常識と思わないことも重要だと思います。

2018年6月28日木曜日

ブッダ入門 / 中村 元 (2011)

お釈迦さまは、釈迦、仏陀、ゴータマ、シッダールタといろんな呼び名があり、どういうことかと思っていましたが、この本を読んでまあまあ分かりました。
ゴータマ・シッダールタというのが実名で、釈迦族の人。ブッダは「目覚めた人」という意味だそうです。キリストが救世主というのと同じようです。

厳しい修行を宗旨とするバラモン教に対して、ブッダは瞑想することにより悟りを開くのが大きな違いのようです。厳しいより簡単、これを突き詰めていくと、念仏のような超簡単なものにもなっていくのかもしれません。

ブッダ入門とはいえ、ブッダの教えの入門ではなく、ブッダの生涯の概観と、ブッダにまつわるうんちくの披露のようです。そういう意味では、別の本でもう少し掘り下げたいですね。

2018年5月13日日曜日

鑑賞のための西洋美術史入門 / 早坂 優子 (2006)

美術史はギリシャから始まっていますが、このギリシャ美術の完成度は高く、長い歴史の中で、何度もギリシャ回帰のムーブメントが起きていることは驚きです。ルネサンスはまさにそういった動きの最初のものです。

また、西洋美術はやはりキリスト教との関係が深く、特に絵のテーマでは圧倒的な影響力があります。キリストやマリアそのものを描いたり、聖書の内容を遇したり。結局はパトロンの言いなりなんでしょうね。職業絵描きは職人であり、現在のアーティストのように自らを表現するというより、注文主の意向を忠実に表現する、という立場だったと想像できます。言い換えれば、美術史は自らの表現への拡大の歴史とも言えるのではないかと思います。

一方で、美術史は前提の否定、タブーへの挑戦、新しい表現方法への開放の歴史とも言えます。特にそれが顕著になってきたのが、後期印象派以降。ヴァン・ゴッホ、ゴーガン、セザンヌは、自らを絵で表現することと、絵の前提の否定で画期的だったと思います。パンドラの箱が開けられたように、アートは拡散していきます。マティス、カンディンスキー、クレー、ピカソ、モンドリアン...

僕が一番興味を惹かれたのは、素朴派です。日曜画家から大成したアンリ・ルソー、郵便配達夫退職後絵に専念したヴィヴィアン、70歳を過ぎてから絵を描き始めたグランマ・モーゼス、きれいにうまく描こう、という意気込みはなく、自分の表したい内容を描く、それが共感を得るのでしょうね。

  • 紀元前5000年~紀元0年 西洋美術のルーツ
  • 紀元0年~10世紀 キリスト教徒多種異文化の混合時代
  • 11世紀~14世紀 かつて暗黒時代と言われた中世
  • 15世紀~16世紀 古典と科学と人文主義のルネサンス時代
  • 17世紀~18世紀 芸術が一般人にも浸透したバロック・ロココ時代
  • 19世紀 テーマはより個人的になった19世紀の技術
  • 20世紀~現在 疑念と表現の問題は現在まで進行中

2018年4月22日日曜日

モチベーション3.0 / ダニエル・ピンク(2010)


持続する「やる気!」をいかに引き出すか


第1部はモチベーションの研究、学術の紹介の中で、アメとムチ型が、モチベーションへの効果がないか、場合によってはモチベーションを下げることもあることを縷々説明している。「交換条件付き」報酬は特に危険だ。
テイラー、「欲求5段階説」のマズロー、「X理論、Y理論」のマグレガー、チクセントミハイら、モチベーションに関係のある巨人の研究成果も紹介されます。このあたりは、自説というよりは、モチベーション3.0の前提となる世の中の考え方の整理といったところ。

そのうえで、外部動機のタイプX(エクスターナル)、内部動機のタイプI(インターナル)を設定し、第2部でその3つの要素を提示してくれます。
1つ目はオートノミー(自律性)。自由度とも言えます。職場に自由を。そうすると内発的モチベーションが高まる!
2つ目はマスタリー(熟達)。フロー体験と日々の地道な努力。
3つ目は目的。金もうけだけではなく、人生に意味を与える目的が必要、ということ。
第3部はタイプIのための、ツールキットの提供ですので、この本のハートは第2部になります。

日本では純粋に「アメとムチ」型のマネジメントをする人はいないと思いますし、どっちかというと任せて伸ばすタイプのマネジメントが主流だと思いますので、この本の主張は奇異なものではありません。どこまでオートノミーを追求するか、ということかと思います。

はじめに ハリー・ハーロウとエドワード・デシの直面した謎
第1部 新しいオペレーティング・システム
・第1章 〈モチベーション2.0〉の盛衰
・第2章 アメとムチが(たいてい)うまくいかない7つの理由
・第3章 タイプIとタイプX
第2部 〈モチベーション3.0〉3つの要素
・第4章 自律性〈オートノミー〉
・第5章 マスタリー(熟達)
・第6章 目的
第3部 タイプIのツールキット

2018年3月24日土曜日

イシューからはじめよ / 安宅和人 (2010)

知的生産の「シンプルな本質」

issueとは、「重要な点、論(争)点、問題(点)」。
生産性高く仕事をするには、何をテーマにすべきか、ということが一番大事、ということです。どう解決するか、ではなく。
答えを出すべき問いに答えを出せ、ということですね。
確かに、仕事してると、みんな答えを出したがりますよね。解決策というかソリューションというか。「何をするのか」というより、どういう問題意識を持っているのか、ということが大切だというのは、僕も気づいていましたが、さらに問題意識を選ばないといけないんですね。

手あたり次第、問いに答えを出していくのを、筆者は「犬の道」と言っていますが、犬の道ではいくらやってもよい成果に結びつかない。うさぎ跳びをいくらやってもイチローにはなれない。

よいイシューの条件とは「本質的な選択肢である」「深い仮説がある」「答えを出せる」とのこと。
よいイシューを選んだあと、仮説を立て、アウトプット(答え)に結びつけ、メッセージを明確にして届けるべき相手に届ける。そのあたりのノウ・ハウもふんだんに公開してくれてます。

難は、少し抽象度が高いこと。賢い人だとこれくらいのがいいのかもしれません。

序章 この本の考え方―脱「犬の道」
第1章 イシュードリブン―「解く」前に「見極める」
第2章 仮説ドリブン(1)―イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
第3章 仮説ドリブン(2)―ストーリーを絵コンテにする
第4章 アウトプットドリブン―実際の分析を進める
第5章 メッセージドリブン―「伝えるもの」をまとめる
コラム:「コンプリートワーク」をしよう

2018年3月20日火曜日

生産性 / 伊賀泰代 (2016)

マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

「生産性」について明快な方向性を指し示してくれる貴重な本でした。
各章は、いくつかの大きなパートに分かれているように思います。

第1パート

  • 序 軽視される「生産性」
  • 1章 生産性向上のための4つのアプローチ
  • 2章 ビジネスイノベーションに不可欠な生産性の意識
  • 3章 量から質の評価へ
ここでは、生産性の必要性と、投入量(=分母)の削減だけではなく、成果(=分子)の最大化にも取組む必要性と、分子の効果が大きいということを言われています。
成果の最大化に必要なイノベーションのためにも生産性の意識が重要だと。

第2パート

  • 4章 トップパフォーマーの潜在力を引き出す
  • 5章 人材を諦めない組織へ
ハイパフォーマーレベルではなく、希少なトップパフォーマーを成長させ活用することが企業全体の生産性向上につながるが、現在の日本企業はそれに失敗している(逆に足を引っ張っている)、ということと、圧倒的多数の普通の人のやる気維持こそが重要なのに、現在の日本企業はそれにも失敗している(不要な人扱い)、という主張です。

第3パート

  • 6章 管理職の使命はチームの生産性向上
  • 7章 業務の生産性向上に直結する研修
生産性向上に向けた、上司や人事の役割のことです。上司は年に一回は(懐かしの)「事業仕分け」ならぬ「業務仕分け」をせよ、とか研修では「ロールプレイ」が効果的、といったことを述べられております。

第4パート

  • 8章 マッキンゼー流 資料の作り方
  • 9章 マッキンゼー流 会議の進め方
これは幾分かハウ・ツーの部分をついでに紹介してくれた、というニュアンスでしょうか。ただ、資料のつくり方(「ブランク資料を作る」とか)は意外と一番参考になります。

ベストセラーになるだけあって、分かりやすく、かつ核心を突き、明快な良書だと思います。

https://docs.google.com/document/d/1WlRJNU5nElsU30F-nTJr8m1jhxwX6tzD_wWgVOV0cHw/edit

2018年3月6日火曜日

高校生からわかる イスラム世界 / 池上彰 (2010)

高校生に対する講義を本にしたようです。この人の話は、ホントにわかりやすい。頭の中がきれいに整理されているんでしょうね。
イスラム教の起こりや、基本的な教義という基本的なところを抑えたうえで、
  • スンニ派とシーア派(イラン革命)
  • イスラム原理主義と過激派(イラク問題)
  • 中東問題
  • 湾岸戦争と9.11(アフガニスタン、タリバン、ビンラディン)
  • イスラム金融
などを解説してくれます。

基本的な姿勢は、イスラム=怖い、という先入観を払拭したいということ。
特別な宗教ではなく、宗教であれば一般的に持っているようなユニークな教えがあるのは確かですが、大多数は普通の人で、中に過激な人がいる、ということです。

また、アラブの人たちが、自分たちはイスラム教徒であるという意識をより先鋭化させた、あるいは、パレスチナの人たちが、自分はパレスチナ人であるいというアイデンティティをより強くさせたのは、欧米の国々の身勝手な対応に遠因がある、ということも何回か触れられています。

それにしても、同じ神をあがめるユダヤ教、キリスト教、イスラム教が対立して抗争が生まれている、というのはおかしなものです。

2018年2月26日月曜日

その問題、経済学で解決できます。/ ウリ・ニーズィー; ジョン・A・リスト (2014)


The Why Axis: Hidden Motives and the Undiscovered Economics of Everyday Life


昨年のノーベル経済学賞はシカゴ大学リチャード・セイラー教授が受賞し、行動経済学に注目が集まっているところですが、この本も行動経済学に根ざしたものです。
ユニークなのは、実地実験の徹底です。いろいろな仮説の証明を、すべて実地実験でやろうという。
  • 男と女の経済的成功の差はなぜ起こるの?
  • 人はなぜ互いを差別するの?
  • 貧しい地域で高校の中退率を下げるには?
  • ワインをより高く売るには?
等々、一見経済と無関係な世界を、インセンティブという切り口で仮説を立て、実地実験で実証していく、そんな事例満載です。
しかも単純なインセンティブではなく、インセンティブはより注意深く使う必要があるらしいのです。でないと全く逆の効果を生んでしまう可能性もあります。

https://docs.google.com/document/d/1GM6CRtziXpa4YTBof0-6hyCgg3nESRRPrsSAspk8cc4/

2018年2月12日月曜日

図説 地図とあらすじでわかる! 聖書 / 船本弘毅 監修 (2009)

今まで全く聖書に興味がなかったので、「ああ、そうだったのか」ということは多くありました。

これを読むと、旧約聖書というのは、ユダヤ人の古代の歴史書なんですね。日本でいうところの「日本書紀」とか「古事記」のような。メソポタミアから起こり、エジプトに行き、モーセに率いられて約束の地「カナン」に行く。その間「アダムとイブ」「エデンの園」「カインとアベル」「ノアの方舟」「バベルの塔」など、どこかで聞いたことのあるようなエピソードが満載です。そしてついにイスラエル王国をつくり、ミケランジェロの彫像で有名な「ダビデ」や「ソロモン」が王になって全盛を極めますが、他国に攻められて没落していく。
戦後、キリスト教国家がこぞってイスラエルの建国に尽力した原動力が旧約聖書にあることがよくわかります。

そして、イエス(イースス)の登場。ここからが新約聖書の世界ですが、ちなみに「約」というのは神との契約のことのようで、旧約ではモーセの十戒のようなものが契約のようです。
超人的な能力を発揮したり、死んだあと復活したり、という超常現象も書かれてあるようですが、意外と人間臭いイエスの姿があり、意外でした。親との関係はそんなに良くなかったとか、十字架にかけられたが結局軌跡は起きなかったとか。弟子のダメっぷりも面白いところです。

結局、旧約での神はユダヤ人の神(選民思想)でしたが、新約の神は全ての国、全ての人の神と捉えたのが大きな違いで、イエスの教えの特徴は「愛」です。貧しい人や身分の低い人にも救いを与えるところは、仏教にも通ずるところがあります。
親愛のしるしとして口づけするのはキリスト教からきているんですね。

初期の布教活動においては、ローマ帝国などに迫害を受けますが、他の神や帝国の皇帝を崇拝しない、という排他主義の強さがキリスト教を生き残らせたようにも思います。イスラム教の原理主義が問題視されることがありますが、すべての宗教は迫害への抵抗としての団結力と、他宗教への戦いを原則としているのだと感じました。

デイビッド、エイブラハム、サミュエル、ソロモン、マイケル、ガブリエル、マリア、ジョン、フィリップ、アンドリュー、マシュー、ピーター、トーマス、シモン、ジェームズといった名前は全て聖書から来ていて、その影響力の大きさも分かります。

2018年2月6日火曜日

会社人間が会社をつぶす / パク・ジョアン・スックチャ (2002)


ワーク・ライフ・バランスの提案


この本が出されたのは、なんと2002年。今から15年も前になります。
今でこそ「ワーク・ライフ・バランス」は共通語ですが、当時の日本ではなじみのない言葉だったと思います。僕がまだブラック業界であるIT業界にいたころです。その後、5年ほどしてから部下が「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を言い出したように記憶しています。

90年代初頭のアメリカでは、不況によるレイオフなどで社員のモラルが下がる中、「ワーク・ライフ・バランス」に取り組むことが回生の近道であることを悟ったこと、そして共働きが一般的になってきたこととIT技術が発展したことが「ワーク・ライフ・バランス」が拡がった背景にあります。

フォード財団のプロジェクトの紹介が最も印象に残りました。制度やプログラムではなく仕事そのものの見直しに焦点を当てた取り組みであり、意識・風土改革(既成概念の見直し)に続き、仕事のやり方を見直すステップで進めたようです。当時はやっていた「リエンジニアリング」との違いを、社員と企業のwin-winの関係性に求めています。

この新しい考え方を日本にも紹介しようという意図でこの本は書かれたと思いますが、十数年を経て、今の日本は「働き方改革」の大合唱です。ただそこにあるのは残業時間削減や年休取得率向上といった外形の枠ばかりであり、社員の充実した人生へのサポートや仕事の見直しは置き去りにされています。だから、社員側としては「やらされ感」「押しつけ感」しかないのかもしれません。

15年前に書かれた本にすべての解が書かれてあることに驚きました。

http://book.asahi.com/reviews/column/2011072801357.html
https://drive.google.com/open?id=10zJOtRax5UxjcKCEnjGTgiAaZOR0AeHIg30qVozzdQ8

2018年1月30日火曜日

確率思考の戦略論 / 森岡毅、今西聖貴 (2016)


USJでも実証された数学マーケティングの力


前半のマーケター森岡さんのパートは読みやすかったのですが、後半のリサーチャー今西さんのパートになると、途端に読み進むのが難しくなりました。これは単純に数式が多くなったからです。

しかし、この本で言う「数学マーケティング」の力はよく分かります。数学の力を使って確率、統計、分析、予測により経営の意思決定をする重要性ですね。
確率、統計によって戦略を立て、感情を排除して実行することが大切だと著者は言います。熱に数字を込めるのではなく、数字に熱を込める、とも言います。
アートではなくサイエンスだから再現性がある、伝えることができる、ということだと思います。

こういうのが自分でできると、いいなあと思います。ただ、大概のことはある程度までできるような気がしますが、この数式を伴う「確率・統計」については、まったくできるような気がしません。

森岡さんは、72年生まれだから僕より6才年下。数学を愛するマーケターですが、米国P&Gに勤めていた時も、数学を駆使するマーケターはさすがに米国でもいなかったらしく、少し安心しました。

2018年1月20日土曜日

日本の人事を科学する / 大湾秀雄 (2017)

因果推論に基づくデータ活用


これはなかなか革命的な本でした。

統計分析の手法の人事分野への適用が主題の中で、具体的展開として「女性活躍推進」「働き方改革」「採用」「定着率」「中間管理職」「高齢化」を扱っています。それぞれの統計手法も異なっています。

ある会社で分析したところ、「採用時の試験結果とその後の活躍には関連性は見られない」とか「採用した人を母集団にすると誤った分析結果が導かれる」とか「360度評価と業績評価への関連性はない」とか、そういったことを「事実」として捉えられたら、その後のアクションを考えるときに、深い論考ができるだろうな、と思いました。

その事実からどう原因等を推論するか、というのがミソになってきますが、そこは統計では出てきません。統計と分析・推論のインタラクションが必要ですが、将来のAIと人間の役割分担についても示唆があるように思えます。

ただ、統計的数式は僕には難解で、その意味で言えば理解半分といったところでしょうか。言わんとするところは分かるのですが.....
こういうのができたらカッコいいなあと思います。