2016年12月18日日曜日

ワーク・シフト / リンダ・グラットン (2012)

孤独と貧困から自由になる働き方の未来図《2025》

2025年の世界を予想して、働き方を「シフト」させることを提案しています。
これからの世界をを考えるにあたり、5つの要因があるそうです。
  1. テクノロジーの進化
  2. グローバル化の進展
  3. 人口構成の変化と長寿化
  4. 社会の変化
  5. エネルギー・環境問題の深刻化
その未来には次の3つの暗い側面があります。
  1. いつも時間に追われ続ける未来
  2. 孤独にさいなまれる未来
  3. 繁栄から締め出される未来
逆に、3つの明るい側面もあります。
  1. コ・クリエーションの未来
  2. 積極的に社会とかかわる未来
  3. ミニ起業家が活躍する未来
漫然と未来を迎えると、暗い側面が現れ、主体的に築くと明るい側面が現れる。
そのうえで、次の3つのシフトを提案しています。
  1. ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
  2. 孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
  3. 大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ
ここに描かれてあることは、日本にありがちだと思っていたことです。思った以上に世界でも同じ状況なんですね。教授がロンドン在住であることも影響しているのでしょうか。

2016年12月10日土曜日

理系思考 / 大滝令嗣 (2005)

~エンジニアだからできること~

大滝先生は、会社の研修の講師に来られたことがあり、そのフランクな人柄でマネジメントについていろいろ教えてくれました。
その関係で少し気になり、この著書を読んでみました。
理系の思考方法を解説した本ではなく、エンジニアを応援する本でした。理系の会社にいる今の僕にとって興味深い内容でもありました。

まず大滝先生は、東芝に入りショックを受けます。ヒエラルキーの無駄、年功主義の無駄の中で、つぶしのきかないエンジニアを量産している日本社会に対してです。エンジニアは自律を重んじ自分の専門性にプライドを持つ。
やはりそうなんだ、と思わされます。どうしても「企業」は業績第一のもと、いろいろなことを管理したがり、業績にインパクトを与えない仕事はやめたがります。

そんな中であっても、大滝先生は東芝で「本当にやりたいことはアンダー・ザーテーブルで」という不文律も教わります。こういったことがあるから東芝も脈々と生き残ってきたのでしょう。

また、エンジニアであっても、人脈は大切、ということも説いています。「ビジネスとは、ピープルビジネスである」「ドント・バーン・ザ・ブリッジ!」。文系であろうと理系であろうと関係ありません。
海外経験が豊富で、理系から文系分野で仕事をしている大滝先生だからこそ、説得力があるんでしょうね。

理系だけが新たな価値を創造する、とエンジニアにエールを送っています。理系の息子にも聞かせてあげたいです。

序章 「つぶしのきかないサラリーマン」になるという危機感
第1章 エンジニアを大切にしない日本
第2章 見方を変えれば、今の仕事もうまくいく
第3章 いつか、人の上に立ったとき
第4章 エンジニアを卒業するなら
終章 エンジニアは錬金術師

2016年12月3日土曜日

仕事で「一皮むける」/ 金井壽宏 (2002)

関経連で2001年に、経営者20人にインタビューした結果を報告書にまとめたのですが、それを金井先生が新書版に編集し直したものです。
それぞれのインタビューの「さわり」を書いているだけなので、その時のバックグランドなり、大変さは正直わかりません。
ちなみに、 カテゴライズすると下のようなケース数になるようです。
  • 新規事業・新市場開発などゼロからの立ち上げ (20)
  • 悲惨な部門・業務の事態改善・再構築 (10)
  • 昇格・昇進による権限拡大 (7)
  • 入社初期の配属 (5)
  • プロジェクトチームへの参画 (4)
  • はじめての管理職 (2)
  • ラインからスタッフ部門・業務への配属 (2)
  • その他、移動・配置など (12)
修羅場と言えるようなものすごい体験をしてそうな人もいますし、それほどでもないような人もいます。
全編読んだ正直な感想は、「なんだその程度の経験でいいのか」ということでした。
僕だって、事業の立ち上げ時期に関わったことがあるし、20年に一度のプロジェクトにも加わったことがある。潰れかけの事業部門にいたこともある。
この本を読んでわかったことは、その経験から何を学ぶか、だということです。
いくら大変な経験をしても、そこから教訓を得なければ、単なる経験だし、どんな小さな経験でも、そこから大きな気づきを得られれば、一皮むける経験になります。
それは、どれだけ正面から向き合ったかということなのか、感性なのか。

奇しくもこの本でも「他人の『一皮むけた経験』を読んでも、一皮むけることはない」と書かれてあります。経験を「持論」にしていかかなければならない。
これを機に、自分の人生を見つめ直して、整理し直してみようという気になりました。

また、「40過ぎたら『ジェネラティビティ(世代性)』が必要」ということも書かれてあります。つまり、次世代の人を育てよ、ということ。僕の苦手分野ですが、意識していかないとね。

2016年11月26日土曜日

気分はもう戦争 / 矢作俊彦・大友克洋 (1982)

まあ、30年ぶりに読みました。大学のときに買った本は、卒業の時に誰かにあげたので。

カバーには「ニューウェーブの旗手 大友克洋」と書かれてあり、「そうか、ニューウェーブかぁ」と思いました。
当時は音楽でもニューウェーブってことが言われてましたもんね。
子供むけの漫画ではなく、大人向けの劇画をベースにした漫画ってところが新しかったのかな?

改めて、大友克洋の絵ってかっこいいなあと思います。葛飾北斎の影響も感じますが、完全に独自の絵画観を確立しています。
江口寿史が影響を受けたように、大友前と大友後で、漫画の世界が変わったんじゃないでしょうか。漫画家が好きな漫画家でしょう。

一方で、矢作俊彦のストーリーが軽妙で、当時の大友克洋原作の他の漫画も含めてこれが一番好きです。

2016年11月18日金曜日

最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと / マーカス・バッキンガム (2005)

The One Thing You Need to Know : ...about great managing, great leading, and sustained individual success
by Marcus Buckingham

原題の通り、マネジメント、リーダーそして個人の継続的な成功について、それぞれ知っておくべきたったひとつのことがある、と説いています。

過去の著作では、マネジメントでは部下の強みを活かし、個人も自分の強みを活かすようにしなければいけない、と言っていましたが、今回はそこから少し進化した主張となっています。

簡単にまとめると、それぞれのたったひとつのことは、

  • マネジャー:部下の個性や強みを活用することに集中せよ
  • リーダー:未来を明確にあざやかに描き、人々を一致団結させよ
  • 個人:継続的に成功するには自分がしたくないことを見つけ、それをやめよ
ということだと思います。
個人の継続的な成功の部分については少しわかりづらい展開ですが、著者自身の経験に基づいているようです。

上のように主張しながらも、本人はマネジメントに向いていないというあたり、なんだか親近感がわき、いままでの著作とは少し趣を異にしているように思います。

いずれにしても、リーダー、マネジャーについて必要なことを、端的にそして明確に示してくれるのはありがたいです。

2016年11月6日日曜日

問いかける技術 / エドガー・H・シャイン (2013)

確かな人間関係と優れた組織をつくる
Humble Inquiry: The Gentle Art of Asking Instead of Telling

結局、うまく問いかけられていないなあ、と思って読んでみようと思いました。

「技術」と書いてますが、ハウ・ツーはほとんどありません。
原題にあるように「謙虚に」問いかけることの重要性を縷々説いています。
特定の答えを期待して質問してはいけないし、誘導的な質問もダメ。謙虚に問いかけるのです。
それがよい人間関係の始まりなのです。

アメリカの文化では、問いかけることよりも、自分が話す文化だと言います。
課題志向の社会と人間関係志向の社会の対比が、話す文化と問いかける文化の対比と対をなして説明されています。
課題遂行には人間関係のバックボーンが必要だとも説いています。

なるほど。
仕事生活でも家族生活でも生かせればな、と思いました。


2016年10月20日木曜日

China 2049 / マイケル・ピルズベリー (2015)

The Hundred-Year Marathon by Michael Pillsbury

アメリカの中国通である著者が、痛烈に中国を批判しています。
著者は過去'60年代から'80年代にかけて、アメリカと中国の懸け橋になり、この時代にアメリカと中国は急速に接近していったようです。
ところが、天安門事件を機に一気に関係が冷え込み、それとともに著者は中国についての見方を変えていったようです。
あれだけ信頼していたのになんだ!ということなんですかね。

著者によれば、天安門事件から中国が変わったのではなく、毛沢東の時代からいつかは世界一になろうと、使える国は使うという姿勢だということです。(少し恨みが過ぎて、ちょっと言い過ぎのように思います。)
昔の春秋戦国時代の、人の裏をかいて、うまくだまして相手をやっつける、というのが中国人の頭に刷り込まれており、それと同じことを現代にもやっている、ということを主張しています。赤壁の戦のようなだましだまされ、の世界観ですね。100年計画で世界の覇者になろうとしている、のだと。政治的にも、経済的にも、軍事的にも。

そして、予想以上にアメリカの力が低下してきているので、中国が覇権をとるのはより近づいている、と予想しています。
しかも中国が覇権国になると、現在の中国がやっていることが押しつけられ、今とは全く違う非常に住みにくい世界になる、と。

著者に言わせると、中国の指導者は偏狭な情報で世界を見、他国を信じない世界観で世界を見ているそうです。アメリカによる中国大使館の誤爆のときに、江沢民を中心とした中国の指導者たちは、アメリカによる意図的な爆撃だと断じて、ほぼアメリカと断絶状態になります。衝撃ですね。もっと多くの事実を集めて、平たく議論してほしいですね。

仮に著者の言う通りだとしても、果たしてあの時の鄧小平の決断は正しかったのか?という疑問はずっとあります。
著者は言います。「胡耀邦や趙紫陽ではなく、鄧小平や江沢民を信じたのは間違いだった」と。そのとおり。鄧小平は胡耀邦を切り、趙紫陽を切り、後を保守派(筆者に言わせればタカ派)に委ねてしまった。そう決断してなかったら、中国はまた違った道を歩んでいたのではないかと思います。(著者はそうではないと言いそうですが)
僕は鄧小平は、本物のマルキストではなかったのではないかと思っています。もしかしたら毛沢東も。西洋諸国からの尊厳を守るための一番の近道が共産党だったんではないでしょうか。しかし、彼ら第一世代が死んで、次以降の世代は体制の存続が主体となりますよね。維新のときの徳川家しかり、第2次大戦のときの天皇制しかり。
一方で、この勢いのある中国を排除することはできません。少なくとも経済的にはうまく利用する側に回らないといけないと思います。


2016年10月8日土曜日

人工知能 人類最悪にして最後の発明 / ジェイムズ・バラット (2013)

Our Final Invention by James Barrat

僕らが行き着く未来は、「アトム」ではなく「ターミネーター」だった。
本のスリーブにそう書いてある通りの内容です。

AI(Artificial Interigence)=人工知能 が進化して、AGI(Artificial General Inteligence)=汎用人口知能 となり、それがさらに自己成長して ASI(Artificial Super Inteligence)=超人工知能になると言います。
それが、人類にとってどういう影響を与えるかわからない、つまり人類に良いことばかりではない、というのが筆者の主張です。
確かに、機械が遂行するアルゴリズムが、人にとっていいもの、というのは幻想です。
本書の中にもありますが、潜水艦は泳げない、ということです。生物とは違うやり方で潜航するという行為を行います。先日の碁の対戦をしたAIも、人間なら取らないような手を打つようです。
こういった機械が人類よりも高い知能を持つようになったとき、人類は破滅に向かうに違いない、と断言しています。

まさにターミネーターの世界です。映画ターミネーターでは、スカイネットという人工知能が、人類との間で戦争をしています。ネットと名がつくようにおそらくネットワークの中で増殖していったのでしょう。
あるいは、スタンドアローンであれば、2001年宇宙の旅です。HAL9000は、自分を疑った乗組員を船外に放り出します。

電気エネルギーの中でしか生きていけない人工知能が、人類を脅かす存在になる、というのは少し荒唐無稽のようにも思いますが、筆者は何人もの科学者や実務家にインタビューすることで、自説を補強しています。

たった一つの主張のために論証を繰り返し、400ページ近い本を書くのは並大抵ではないと思います。少し冗長です。


2016年9月19日月曜日

WORK RULES! / Laszlo Bock (2015)

書名から、グーグルでの新しい「働き方」の本かと思いましたが、これは「人事」の本でした。
採用、評価、教育、福利厚生といった分野でのグーグルでのやり方、を紹介しています。
グーグルの文化である自由、公平、透明性などと人事のやり方との共存を探った姿を表した本ともいえます。

評価の公平性を求める姿はいたってベーシックなものですが、一方で報酬は不公平に、とも言っています。しかし、報酬はインセンティブではなく貢献を称えるものではければならない、とも言っています。試行錯誤しているんでしょうね。

人事の専門知識をベースとしながらも、IT業界・グーグルという会社に適応し、成果を上げているところが素晴らしいと思いました。
人事の専門知識がある人は、えてして経営的・個別側面に目を向けず、個別経営課題に適応できないか、その逆のことが多いと思いますが、グーグルではこれを両立させています。

また、このグーグルの人事(ピープル・オペレーションズ)の特筆すべきところは、データ分析を重視する姿勢です。
グーグルらしく、社員からアイデアを募り、アンケートをとり、必要に応じてインタビューする。人事の3分の1は分析力に優れた専門家を雇う。実験を多く行い、結果を検証する。採用における科学的アプローチも刺激的です。おそらく、社員の実績と採用時の内容を検証しているのでしょう。IT企業らしく、ITの力を十分に生かしています。

人事というのは、とかく国ごとの労働慣行の違いを言われることが多いと思いますが、ここに描かれてあることのほとんどは、国の違いを超えた普遍性を持っていると思います。

2016年9月11日日曜日

プロフェッショナルマネジャー(Managing) / Harold Geneen (1985)

この人の書いてること、ジャック・ウェルチとよく似てます。
アメリカ的なマッチョな経営者はみんなこうなのか、こういう経営者じゃないと成功しないのか、あるいはウェルチがこの本を読んで意識していたのか。
ハードワークを旨とし、同僚にもストレッチした目標達成を求める。

率直な議論を重要視するが、おそらく自分が一番しゃべっているんじゃないだろうか。
金融を重宝し、人の解雇にはフェアな態度で臨もうとする。
経営チームのチームワークが大切で、組織の壁が嫌い。

二人とも経営者であり、経営者であることが好きで、経営者であることを楽しみ、経営者としての結果を残してます。
結果を残すためには、数字を読み、事実を信じ、行動する。人間が合理的ではないことを理解し、失敗を奨励する。
そういうことが必要のようです。

経営の秘訣は、最後から逆算すること、という話は、「7つの習慣」の「最後から始めよ」と同じ教訓です。

2016年8月26日金曜日

どうする?日本企業 / 三品和広 (2011)

三品教授が日本企業の戦略不全を憂い、6つの問いを投げかけます。
  1. 本当に成長戦略ですか?
  2. 本当にイノベーションですか?
  3. 本当に品質ですか?
  4. 本当に滲み出しですか?
  5. 本当に新興国ですか?
  6. 本当に集団経営ですか?
いずれも、日本企業に信じられている神話、あるいは日本企業の体質、といったものを問うています。

かといって、これらがすべてダメという訳でなく、自社の立地を確認して、ちゃんとした戦略のもと、これらの策を取るのか、別の策を取るのか考えよ、ということでしょう。
セイコーのクオーツでの成功やヤマハのピアノでの成功もバッサリです。

新興国への進出についても、国内の成長が頭打ちだから、みんなこぞって海外へ、というのは、ちょっと待て、と言っています。
新興国とて国内産業の保護をしたい訳だし、世界中の皆が狙っているのだから、それほど簡単ではありません。
戦後日本の歩んだ道と同じ状況だと考えると、外国企業が参入できる業界には順番があるはず、したがって、いったん待って時期をうかがうことも戦略だ、とのことです。
確かに、とは思いますが、それほど冷徹に分析することができるのか、心配になります。

2016年8月21日日曜日

中国(チャイナ)4.0 爆発する中華帝国 / エドワード・ルトワック (2016)

戦略家ルトワック氏の来日時インタビューを本にしたもの。
戦争の面から見た中国、ということだし、著者の少し偏向した見方を反映したものでもある。

氏によると、2000年代の初頭は、中国は周囲の国と協調を重んじる平和国家だった(チャイナ1.0)のが、経済の台頭とともに対内的志向を強くして、周辺国と敵対する強硬路線になり(チャイナ2.0)、政権交代と同期して、少し矛を収め、敵対に強弱をつけてきた(チャイナ3.0)という経過をたどっているとのこと。
氏の主張は、チャイナ1.0に戻れ、ということで一貫している。
中国は大きな戦略のもと動いているのではなく、対外音痴で戦略のないまま、国内向けの政治メッセージのために揺れている、ということのようだ。

習近平はオバマ大統領との会談で、G2(2大国による世界支配)を持ちかけたが、無視され、逆に周辺国に包囲網を築かれている。
氏の論法で独自なのは、大国は小国に勝てない、ということだ。ベトナム戦争しかり、イラク戦争しかり、日露戦争しかり。中国はそれをしっかり認識した方がいい、ということである。

一番面白いと思ったのは、主題からそれるが、習政権の腐敗防止運動は共産党を弱体化する、という論だ。鄧小平以降、政治的に成長を加速させることができれば、裕福になれる、という構図だったものを根本から崩そうとしている、ということらしい。そうなれば共産党に優秀な人材が集まらなくなり、早晩共産党は弱体化していくだろう。習近平はそこまで読んで、この運動を推進しているのか?

ちょうど中国に出張するので読んでみたが、経済問題ではないのでそれほど参考にはならなかった。
しかし、マカオでは腐敗防止運動の影響がモロに来ていて、カジノの売り上げが激減しているそうだ(それでも世界一らしいが)。

2016年8月14日日曜日

夫婦という病 / 岡田尊司 (2016)

21のケースを取り上げ、問題を抱えている夫婦の、うまくいかなかった原因を解説しています。
なかには、サロメやオードリー・ヘップバーンの例もあり、典型的ではない夫婦の新しい形も示しています。

回避型、不安型、自己愛型など、人の類型に焦点を当てて処方箋を示しているところが、精神科医らしいと思いました。
画一的な、うまくいくやり方、うまくいかないやり方を解説しているのではなく、それぞれの人のタイプに合わせたやり方が必要、という解説が、僕にとっては新鮮でした。
夫婦の形といういものを勝手に思い描いて、妻も同じ幻想を抱いているものと思うのは間違いで、相手に合わせて、そして自分を見つめてこそ夫婦の形ができるのですね。

自分が回避型の傾向が強い、ということも本書を読んでわかりました。こういった傾向が、妻をカサンドラ症候群的な状態に追い込んでいったのでしょうね。
もう過ぎてしまったことは変えられないので、これからできることをするだけです。

2016年8月9日火曜日

ブラック・スワン / ナシーム・ニコラス・タレブ (2006)

この世界には、ベル型カーブで表すことのできる「月並みな国」と、得るものと得ないものとの差が激しく大きい「果ての国」がある。
そして、この「果ての国」の「黒い白鳥」は、予測できない。予測できないことが起こることを受け入れなければならないのだ。
さらに、数少ないチャンスをつかむためには、この「黒い白鳥」に、「小さく」さらされておくことも必要である。
大きなリスクに大きく掛けるのは間違っている。

こういったことを、上下2巻にわたり、滔々と述べていますが、なんせ長い!学術論文でなくエッセーですが、この人おしゃべりなんだろうな、と思いました。

懐疑主義者だと本人も言っているように、いろんなことを疑う、という姿勢はカッコいいなと思います。将来を予想している人を疑う、このままうまくいくと思うことを疑う、後づけの講釈を疑う、そして「システム2」を使え。

こういう本をリーマンショックの前に出したところに意義があったんだろうと思います。

ほとんどのことは運だとすれば、僕自身、今まで運のいい人生を送ってきたような気もします。
それを誰にかはわかりませんが感謝するとともに、今後思いもよらなかった悲運が起こることも覚悟し、受け入れていかなければならない、そう思いました。

2016年7月30日土曜日

芸術新潮 特集 This is 江口寿史 (2016/1)

僕が若い頃以降、ほんと漫画描いてないですよね。
いくら漫画描かなくても、僕の中では至上一番の漫画家です。

途中から画風が大友克洋の影響を強く受けるようになりましたが、この雑誌では大友克洋と江口寿史の対談も載っています。「ストップひばりくん!」のときに大友克洋の漫画に触れ、大友克洋は「童夢」を連載している途中だったということが語られています。なるほど。また、江口イラストの特徴である、鼻の描き方の変遷についても語られています。ふむふむ。

原画もいっぱいあり、最高ですね。

思えば、江口寿史の漫画は、田舎者の僕にとって、ポップ・ミュージックの窓でした。佐野元春、パールピアス、音楽殺人、Clues、B-2 Unit.....いまだイラストはポップしてると思います。
ウォーホル、リキテンスタイン、北斎、広重が好きというのがよくわかります。

今年から漫画を描きたい、ということで期待しています。

2016年7月20日水曜日

花神 / 司馬遼太郎 (1972)

NHK大河ドラマでやったのは、僕が小学生の頃でしょうか。中村梅之助や篠田三郎、志垣太郎の顔とあわせて、何となく覚えています。
こんな地味な主人公でよく1年間もったな、と思います。
活躍したのはたったの3~4年で、しかも人に嫌われていたといいます。

第二次征長戦での活躍と、戊辰戦争での指揮により軍神とあがめられますが、なぜ彼が軍神たり得たのかは正直理解できませんでした。
第一級の蘭学者であったことから、海外の兵法書に直接かつ豊富に触れることができたことが大きいのかもしれません。数理と論理を重んじる姿勢もいい方に作用したのは間違いありませんが、一方で独断専行型の行動を取っているのが理解しづらいところです。すべて成功したからよかったようなものの、失敗したら大損害を与えていたでしょう。あるいは、戦争においてはぶれない指針というものが必要なのかもしれず、彼はそれを知り抜いていたのかもしれません。

司馬遼太郎は、革命を仕上げる役割として村田蔵六をあくまで「技術者」として描いています。
この小説が書かれた昭和の高度成長期においては、遠大な構想力と行動力を持ったリーダーとそれを支える優秀な実務者が必要とされていました。司馬遼太郎の小説が売れたのは、こういった高度成長の原動力となった人たちから絶大な支持を得たからにほかなりません。
この「花神」はそういった実務者への応援歌とも捉えられます。

2016年7月10日日曜日

嫌われる勇気 / 岸見 一郎・古賀 史健 (2013)

これは、アドラーの心理学なのか、それとも岸見氏の哲学なのか。
『7つの習慣』の中には、このアドラーの思想が色濃く反映されています。

もともとキリスト教的な個人主義的傾向が強いようにも思いますし、実際キリスト教の格言も出てきます。
ただ、アメリカ的な「夢」至上主義ではないので、少し安心できます。
  • 人の評価から解放されよ
  • 幸福とは貢献感である
  • 人生は刹那の連続である
という主張は、シンプルで力強い指針だと思います。
  • 他者の課題に介入しない
  • 他者はあなたの期待を満たすために生きているのではない
  • 「この人は私に何を与えてくれるのか?」ではなく、「私はこの人に何を与えられるか?」を考えなければならない
私は家族との関係で、人間関係についていろいろ学習しましたが、この本で言われていることは、それを裏付けるものです。

「いま、ここ」で一生懸命生きないとね。

2016年6月16日木曜日

働き方革命 ─あなたが今日から日本を変える方法 / 駒崎 弘樹

仕事上の必要性で読んだんですが、思いのほか面白い本でした。
働き方の方法論を説いた本ではなく、働き方を変えてみた著者の体験談になっています。
自分の体験を自己開示しながら親近感ある内容で、かつ楽しい文体で書かれており、この人って頭いい人だなあ、と思わされます。

バリバリの忙しい経営者が、あるきっかけで働き方を変え、劇的に"人生"の中身を変えていった物語です。"人生"というのは、仕事、パートナーとの関係、親兄弟との関係、健康など。
これほどうまくいくのか、ほんとはもっとうまくいかなかったこともあるんじゃないの、という感もありますが、ノウハウ本じゃないので、これくらいが僕らに元気を与えてくれていいのかもしれません。
実際に行動を起こすまでの前半も面白いです。

最後の方に、著者の"忙しい"友人の「あー、そういうの何だっけ。ワークライフバランスとかっていうんだっけ? いるよ、そういうこと言う人。何か自分だけ残業しないで帰って、俺とかがそいつの終わらせなかった仕事に尻拭いするんだよね。僕、キャリアアップのための資格の勉強で忙しいんです、みたいな。やれやれだよ。」という発言もあります。こう感じる人がいるのも本当だし、言ってることもアリだと思います。難しいところです。

この本が出たのが2009年だというのが、改めて驚きです。もう7年前! この7年間何やってたんやろ。
(そう言えば、一昨日この人、舛添知事の辞任に関してTVに出てたのでプチ驚きました)

2016年5月23日月曜日

ドラゴンは踊れない / アール・ラヴレイス

Dragon Can't Dance / Earl Lovelace
この小説の舞台は1964~71年くらいなので、そういった古き良き時代を懐かしんでいる話かと思って読んでましたが、'79年の出版なので、ほとんどリアルタイムでトリニダードの状況を映しているんですね。後で気づきました。

路上」や「墓に唾をかけろ」のような、あるいはSpike Leeの映画のような、読後感は"Heart beat"のような、でも全く違いますね。

年の1度のカーニバルのマスカレードでドラゴンを演じる仕事をしない"オルドリック"、スチールバンドの暴れ者のチンピラ"フィッシュアイ"、ヤードのよそ者インド人の"パリアグ"、カリプソの歌い手"フィロ"、それぞれの登場人物がそれぞれの人生を語って行く方法で進行します。それぞれの人生を縦糸に、トリニダードの歴史的背景、奴隷制度、カーニバルの意義、スチール(パン)バンドの商業化、ヤードの17歳"シルビア"との恋、そういったものを横糸に物語が進んでいきます。
小説の中盤のカーニバルを境に、大きくそれぞれの人生が動き、それぞれが何かを見つけていきます。

トリニダードのことは何も知りませんでしたが、いろいろ教えられました。
それにしても現地のスラングを交えた、独特の語り口のようですから、訳は大変だったんじゃないかと思います。

2016年5月12日木曜日

1500万人の働き手が消える2040年問題 / 野口悠紀雄

労働職人口が減少することへの、企業の対処を期待していたのですが、そういうことではなく、国レベルの対処について書かれてあります。これはこれで示唆に富む内容です。

数年前に製造業の就業者が1千万人を切ったというニュースがありましたが、それの1.5倍の人口減の社会が来ることを前提に、いろいろな施策を打っていかなければ、この国は立ち行かなくなってしまうようです。

企業にとっては、「生産の海外移転」、「移民受け入れを推進」、さらに「製造業ではなくIT・金融を含む高度サービス業への転換が必要」との提言は、大きな意味を持ちます。単純な製造ではなく、センサー、ソフトウエアを組み合わせ、ファブレスの脱製造業化が方向なのかもしれません。

また、高齢社会でも年金財政を破綻させないためには、より生産性の高い産業を伸ばし、賃金を物価以上に上げないといけないようです。特に利益率の低い製造業には耳の痛い意見でしょうが、本質です。

それにしても、高齢化率、介護保険、年金財政の問題は2030年代に一番の危機が来るそうです。2030年というと僕が65才の年です。人ごとじゃないんですよね。

野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言

2016年5月5日木曜日

流星ワゴン / 重松清

久しぶりに小説を読みました。
涙なくしては読めませんでした。
父親と息子の関係というのは、やはり気持ちが入ってしまいます。

この小説にあるように、親になると子どもの歳に自分が戻り、そのときの親がどう考えていたのかをよく考えるようになります。練習のない一回しかない人生で、自分と子どもとの関係を探るにあたって、親と自分の関係の記憶があることは貴重です。でも、僕は親と違い、子どもも僕と違うんですよね。そう単純じゃありません。

人生は思わぬところがターニングポイントとなって未来が変わっていく、後から考えるとそんなもんだろうなと思います。普通は主人公のように、それがターニングポイントだと後になっても気づかないんでしょうね。
過去に戻って現在と行き来する話ですが、残念ながらバックトゥーザフューチャーのように、現実は変えられません。
後戻りできない現実を、後悔しながら、勝ったり負けたりしながら、そのときそのときを真剣に生きていくのが人生なんでしょう。

悪人が出てこず、なんとなく希望で終わる読後感は、爽やかです。

2016年5月3日火曜日

10.8 巨人vs.中日 史上最高の決戦 / 鷲田康

確かこのとき僕はキャンプに行っていたと思います。山の中は結構寒く、こんな時期にキャンプに来たのを後悔しました。
ペナントレース終盤で2位のカープの優勝がなくなった時点で、プロ野球に興味を失っていたので、ジャイアンツが優勝したとラジオで聞いても、ああそうか、程度だったと思います。

この本を読もうと思ったのは、テレビ番組でこの試合を取り上げているのを見たからです。
そこには、最高の舞台を楽しんでいる長嶋監督と、最高の舞台で使ってくれたことを意気に感じて活躍している桑田投手の姿がありました。長嶋には人間的魅力を感じているものの、監督としては評価していなかったのですが、少し見方が変わりました。

この本でも、槇原、落合、桑田らと人間的信頼関係を結び、試合前に自ら選手たちを鼓舞する長嶋の姿があります。監督辞任の危機感を選手たちが共有し、監督を中心に戦う戦闘集団になっていった経過が、多くの証言をもとに構成されています。

ハイライトはやはり桑田とのやりとりです。試合前日に「痺れるところで使うからな」と伝え、7回から桑田を投入します。見事3回を抑えた桑田は、胴上げが終わってレフトスタンド側に走る長嶋を捕まえ、指を1本立てて「(日本シリーズで)もう1回やりますよ、もう1回」と興奮気味に言います。
指揮官は、最高の舞台を用意してそれを自ら楽しみ、主役である選手たちに最高の活躍を期待し、選手たちはその期待に応える。そんな経験ができたらいいだろうな、と思います。

(中日サイドの証言も多くありますが、いつも通りの野球をやろうとした高木監督と、特別の試合を演出した長嶋監督の対比に使われているように思います。ここに書かれてあるのは結果論なので、本としては「江夏の21球」のようにもう少しジャーナリスティックな部分もあってもいのではないかとも思いました。)

2016年5月2日月曜日

知識創造企業 / 野中郁次郎,竹内弘高

1994年に出されたこの本は、日本企業のケースをベースに、知識創造という視点で企業活動のあり方を論じています。

有名な、暗黙知と形式知の知識変換の4つのモード、すなわち「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」のサイクルが、松下電器、キヤノン、花王、シャープ、日産、キャタピラ三菱などの実例を用いて紹介されています。
また、組織的に知識創造=イノベーションが起こる条件として、「意図」「自律性」「揺らぎとカオス」「冗長性」「最小有効多様性」をあげています。
一見ムダと思える二重性や混沌とした状況を、いかに作り出せるかどうかにかかっている、というところに興味をひかれました。

一方で、この本で紹介されたその他のコンセプト「ミドル・アップダウン・マネジメント・モデル」や「ハイパーテキスト型組織」といった言葉は定着していないように思えます。

さらに残念なのは、二項対立からの飛躍を掲げながらも、日本的/西欧的といった二項対立から出発している点と、ここでケースとしてあげられた日本企業のいくつかが、その後苦境に陥ってしまった点です。基本的には「甘えの構造」と同じような文脈で語られていると思います。
これからの複雑化した世界では、日本も西欧も他もひとつひとつ特殊なのだというグローバル視点が必要とされているのでしょう。

2016年4月17日日曜日

生きがいについて / 神谷恵美子

この本は、僕が生まれた年に出たようです。ずいぶん昔の本ですが、そういった古臭さは一切感じられません。

ハンセン病で隔離施設で暮らしている人、死刑囚、死を目前にした病人、そういった究極の場に置かれた人の眼を起点に、「生きがい」とは何かを考え、そしてそこから広くわれわれ一般の「生きがい」を考えたエッセーです。

夢や目的が生きがいだと言うのではなく、何か前に向かって進むこと、そういった生を営むこと自体が、いきることの「はり」になり、生きがいになることもあると言います。極端にいえば、目標が達成されなくてもいい。定年退職した人にとって、「きょういく=今日行く」ところがあるということが重要なのだ、という話を思い出しました。

また、後半では宗教的な面から生きることの意義についても言及しています。僕には、宗教的な目覚めの体験はありませんが、「ひとは生命の一部であり、生命に支えられ育まれてきた」そして、さらにいえば「宇宙の一部である」、という言葉は重いです。生命の一部としてこの世に生を受けたこと自体が、生きる意味なのです。人間は高等な脳を得るに至り、生の意味を問わなければ済まなくなりましたが、たとえば雑草にとっては、一個体として、種として、生命体の一部として生を全うすることが、「生きる」ということなのです。

自分の内と外ということにとらわれず、すべてのものの一部である、という意識を持てば、おのずと行動も変わってくるかもしれません。

2016年3月12日土曜日

大局観 / 羽生善治

羽生善治は、僕の世代にとってはスーパースターですが、その挑戦する姿勢と同時に、非常に自然体である文体に惹かれます。おそらく、彼自身が自然体なのでしょう。

この本のタイトルは「大局観」ですが、大局観について書かれてあるのは一部で、大半はいろいろなテーマに関するエッセイです。

一番驚いたのは、『私はこれまで、何と闘うという目標を立ててやってきていない。信じていただけないと思うが、常に無計画、他力志向である。人生は突き詰めてはいけないと思う。』というところです。
レベルがあるとは思いますが、長期的目標を定めず、目の前のことを精いっぱいやる、というのは天才ならではなのか、才能あることを生業にできる幸福な人生だからなのか。坂東玉三郎も同じようなことを言ってました。
確かに人生を突き詰めすぎると、確かに窮屈になります。
さっぱりとした生き方ですよね。

2016年3月5日土曜日

失敗の本質 日本軍の組織論的研究 / 野中郁次郎他

大東亜戦争の敗戦原因を、日本軍という組織研究に焦点を当てて研究した名著です。
この本では6つの戦闘をテーマに分析していますが、どれも日本軍の負け戦ですので、非常につらい気持ちになります。

緒戦は快進撃を続け、真珠湾攻撃から半年後のミッドウェー海戦においてターニングポイントが訪れます。そこからの敗戦史を見ていくと、なぜあと3年も戦争を続けなければならなかったのか疑問に思います。多くの人を犠牲にして。

この本では、日本軍を敗戦に導いたいくつかの特徴を挙げています。
  • 戦略や目的を共有することを怠ったまま、戦略や目的が異なった現場行動を許容し、または現場を知らない参謀が戦闘現場の指揮に口を出す。
  • 軍の人事において、結果よりプロセス、合理性より人間関係を重視。=空気の支配→猪突性重視より、異端の意見者を排除。
  • 誰でも使える標準化兵器の大量生産ではなく、職人芸と強固な精神により個々の戦闘に勝つ。
  • 戦略、戦術の柔軟性なし。日露の成功体験を純化し、コンティンジェンシー・プランなし
  • 大陸制覇を目的とした陸軍(想定敵=ロシア)と、大洋制覇を目的とした海軍(想定敵=アメリカ)のバラバラな戦争。
  • 敵戦力の過小評価。
  • 終戦観が欠如したまま戦争に突入。
これらが徹底的にダメだったわけではなく、連合国軍との比較の中で、「より」ダメだっただけですが、連合国軍、特にアメリカ軍は、緒戦の敗退の後、敗戦から学習し、反攻を始めます。
そういった自己否定を含む学習ができる組織であったことを本書では評価しています。

この時代のこの戦場での反省ではありますが、教訓は現代の日本にも共通するところがあります。だからこそ著者らはこの数十年前の戦争を取り上げ、研究をしようと思ったのではないでしょうか。

2016年2月20日土曜日

人間の分際 / 曽野綾子

こんな本もあるんですね。今までの著作から一言一言を抜粋して一冊の本を作るという。
ポップ・ミュージックであれば、コンピレーションといったところでしょうか。

著者の基本的はスタンスは、
  • よいこともあれば、悪いこともある
  • 心の中は、いい思いもあれば悪い思いもある
  • 失敗もあれば成功もある
といった、清濁併せ飲んだところに人生の豊かさがある、というものと、
キリスト教者としての、
  • 神と結ばれることによって一人の人間は「自分」を持てる
というものを併せ持ったもののようです。
努力と結果は決してストレートには結ばれず、むしろ結ばれないところに学びや救いがあるという主張は、むしろ東洋的だな、と思います。

人間は50才から先の負け戦の生き方が大切なのだそうです。僕にとっては気になる一言です。

2016年2月17日水曜日

ザ・セカンド・マシン・エイジ / エリック・ブルニョルフソン, アンドリュー・マカフィ

前半は、セカンド・マシン・エイジの進展ぶりを語り、後半ではその進展による、来るべき未来の社会の姿と対策に言及していますが、圧巻なのは前半部分です。

マシン・エイジとは工業化社会のことで、ファースト・マシン・エイジは、蒸気機関の発達と電気社会の到来です。産業革命以来、人類は今までの数百万年の歩みから、一気に別次元に飛びました。
同じことが、AIとロボット化によって現在進行中で、それがセカンド・マシン・エイジとのことです。Googleによる自動運転自動車を典型的な例として、想像できない世界へ飛躍していく可能性を語っています。

セカンド・マシン・エイジは、ハード、ソフト、ネットワークにおける
  • 指数関数的高性能化
  • デジタル化
  • 組合せ型イノベーション
という3つの特徴を持って進んでおり、それにより爆発的にテクノロジーが発展していくというものです。最高性能のメインフレームと同性能が今やiPadに、音声や画像の認識技術、センサーとの組み合わせ...
おのずと、機械と人間との関わりや、労働のあり方といったものも、新たな時代に入るでしょう。明るい未来もあれば、弊害も出てきます。

本書は「運命を決めるのはテクノロジーではない、私たちだ」という言葉で締めくくられています。


第1章 人類の歴史の物語
「技術は神からの贈り物、おそらくは生命の次に重要な贈り物だ。技術は文明、芸術、科学の母である」フリーマン・ダイソン
第2章 機械とスキル
「高度に進歩した技術はどれも魔法と見分けがつかない」アーサー・C・クラーク
第3章 ムーアの法則とチェス盤の残り半分
「人類の最大の欠陥は、指数関数を理解できないことだ」アルバート・A・バートレット
第4章 デジタル化の大波
「自分が話すことを数字で表せるなら、そのことについて少しは理解していると言える。だが数字で表せないなら、たいして理解しているとはいえない」ケルヴィン卿
第5章 組合せ型イノベーション
「いいアイデアを出したいなら、まずはできるだけたくさんのアイデアを持たなければならない」ライナス・ボーリング
第6章 人工知能とデジタル・ネットワーク
「この驚くべき電気機械……この機械によって計算やいろいろなことがはるかにたやすくできるようになった……これはおそらく、驚異的な進歩の前兆である」ピエール・テイヤール・ド・シャルダン
第7章 セカンド・マシン・エイジのゆたかさ
「経済学上の誤謬の大半は、パイの大きさは決まっており、ある人が大きく切り取ったら他の人の分は小さくなるという思い込みに由来する」ミルトン・フリードマン
第8章 GDPの限界
「国民総生産は、高貴な詩作も知的な議論も数えない。人類の機知も勇気も、知恵も学びも、思いやりも博愛も。つまりGNPはあらゆるものを計測するとしても、人生を価値あるものにする要素は計測しない」ロバート・F・ケネディ
第9章 セカンド・マシン・エイジの格差
「貧富の不平等は、あらゆる共和国に最も古くからある致命的な病である」ブルタルコス
第10章 最強の勝ち組はスーパースター
「普通の人間50人分の仕事は、1台のマシンでこなすことができる。だが並外れた人間の仕事は、どんなマシンでもこなせない」エルバート・はバード
第11章 ゆたかさと格差は何をもたらすか
「すでにゆたかな人がよりゆたかになるかどうかではなく、あまりに貧しい人にどれだけ十分に与えられるかどうかによって、我々の進歩は測られる」フランクリン・D・ルーズベルト
第12章 個人への提言
「コンピュータなんて役に立たない、答えを出すだけなんだから」パブロ・ピカソ
第13章 政策提言
「たびたび変更される一時的な宗教である。だがその政策が有効である間は、使徒の熱意をもって追求すべきだ」マハトマ・ガンジー
第14章 長期的な提言
「労働は、人間を人生の三悪、すなわち退屈、悪徳、困窮から救ってくれる」ヴォルテール
第15章 テクノロジーと未来
「人間を自然の難題から遠ざけてくれるように思われた機械の利用は、反対に人間を一層きびしくそれらの問題に直面させることになる」アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

2016年1月11日月曜日

ジャック・マー アリババの経営哲学 / 張燕

僕はアリババもタオバオもアリペイも使ったことがないし、中国にいてその興亡を目の当たりにもしなかったので、そのすごさは正直全く分からない。
なぜ彼の会社と事業が成功したのかも良く分からない。
ただ、国家の後ろ盾があり競争なしに成長したのではないことは分かった。

経営哲学、というほど何か特別なことが書かれているわけではない。
もしかしたら、中国の膨大な中小企業をターゲットにしたという目の付けどころが良かっただけかもしれない。
しかし、馬雲(ジャック・マー)のリーダーシップや人をやる気にさせる能力があったからこそ、これほどの成功を収めることができたのだろう、ということは理解できた。

彼は、成功渇望で生きているのではなく、辛いことも苦しいことも成功と同じように人生の経験だと言う。人生の達観という意味では、アメリカの経営者よりも懐の深さを感じる。

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